第28話 捨てきれない者
(ティーレ……雷のマイナス属性と相性の良い武器を使いこなしているなんて……厄介な相手だね)
レンは属性付きの双頭刃式槍を使用するティーレと善戦を繰り広げていた。
「あまり長く耐えないで下さい!」
「そうは……いかないよ!」
雷のマイナス属性を付与した状態で放たれた双頭刃式槍による無数の突きに対し、レンは紅蓮の炎を纏わせた刀で槍先を受け流す様に回避していた。
「なら、これならどうですか!」
ティーレは連突きを止め、両手で双頭刃式槍を回転させると、その勢いを殺す事なく両属性を絡め合わせた刃を前方へ向けて薙ぎ払った。
(その攻撃を待っていたよ!)
身を屈めたレンは、属性を纏わせた刀で薙ぎ払われた刃を受け流すと、双頭刃式槍の下へと滑り込んだ勢いを殺さずに、ティーレに向けて刃を払った。
「っ!」
ティーレは身体を仰け反らせ刀身を回避しようとしたが、避け切ることが出来ずにレンの一閃をその身に受けてしまった。
(また、私の弱さが……)
ティーレは武器を大振りする癖があり、武器を振るった後の回避が遅れてしまう為に、対応に遅れが出てしまう事が欠点だった。
(雷がマイナス属性だったのが幸いだった……プラス属性なら、刀で受け流す事も困難だった)
刃を受けたティーレの身体からは、少量の血液が飛び散った。
(傷は浅い……でも)
斬り裂かれたティーレは、レンと距離を離す為に大きく後ろに飛び退いた。
「まだ、終わらないよ!」
レンが再度刀を払うと、纏っていた炎が無数の火球となりティーレに追撃した。
「うぅ、そんな……攻撃!」
ティーレは属性を再び纏わせた双頭刃式槍を両手で持ち、回転させ火球を全て打ち消した。
レンとの距離を離したティーレは、よろめきながらも属性を双頭刃式槍に纏わせ続けた。
「私は、負けられない……もう二度と!」
双刃に水の属性を纏わせたティーレは双頭刃式槍を回転させ、属性の渦を作り出すとレンへ向けて渦を巻いた二本の水の柱を放った。
放たれた水の柱は、双頭刃式槍の回転によって捻り合い一本の巨大な水の柱となってレンに迫ってきた。
(くっ!回避を)
レンは渦の左側へと飛ぶ事で、直撃を避けた。
しかし、想像以上の速度で迫る大きな水の柱は、回避したレンの左足を巻き込んだ。
「ぐっ!」
(……足が!)
痛みに顔を歪めたレンに、追い討ちをかけるように再び水の柱が迫り始めた。
「回避なんて無駄ですよ?」
属性を放ち続けていたティーレは、双頭刃式槍を回転させたまま動かして水の柱を操作すると、水の柱は勢い良くレンへ向けて追撃を開始した。
「くそっ!」
巨大な水の柱が迫る中、回避しようにも足を動かす事が出来なかったレンは、直撃を避けられないと覚悟を決めた。
「何やってんのよ!」
(創造する物は……無傷なレンとレンに向けられた凍結する水属性!)
その時、ユキはアイリと戦いながらレンに向けて属性を使用すると、レンの負っていた足の傷が回復し、ティーレの放った水の柱は一瞬で結晶と化した。
「えっ!」
(嘘……あの巨大な水の柱を一瞬で!)
ティーレは、自身の放った水の柱が凍結した現実を理解出来ずに愕然としていた。
「余所見するなって、言ってんでしょうが!」
アイリは炎のマイナス属性を纏わせた薙刀をユキに向けて振るった。
薙刀が直撃したユキは、結晶となって粉々に砕け散り床に飛び散った。
「なっ!」
「ハズレよ」
懐に入り込んだユキは、結晶爆弾を両手でアイリに押し当てると、爆発によってアイリは後方へと吹き飛ばされた。
「……がはっ!」
床を転がったアイリの腹部は、爆発によって結晶化していた。
「こ……こんな結晶!」
「その結晶は砕く事は出来ないの……私よりも強くない限りね」
ユキは、炎の属性を使って必死に壊そうとしているアイリに向けて言い放った。
「くっ……私は死ねないの!ティーレみたいな弱い子じゃ、お前ら二人に勝てる訳ないから」
「……さっき余所見するなって言ってたけど、その言葉はあんたにそのままお返しするわ」
「……は?」
「余所見していたのは、私じゃなくてあんたの方でしょ?ティーレって子が斬られてからずっとチラチラ見てるじゃない」
「っ!見て無いわよ!勘違いしないでよね!」
薙刀を支えにふらふらと立ち上がりながら叫んだアイリは、再び薙刀に属性を纏わせた。
「あんな弱い奴、知ったこっちゃないわ!」
「……なら別に良いけど、私相手なら二人がかりでも勝てないわよ?」
「煩いわね!やってみなきゃ解んないでしょ!」
(……解るわよ……レンの時もそうだったけど、私は〝半分も力を出していないんだから〟)
―*―*―*―*―
「私の全力で放った技が……」
ティーレは、目の前にある結晶化した水の柱を見て愕然としていた。
「そんな……私は」
結晶化した水の柱に触れると、甲高い音と共に粉々に砕け散った。
水の柱に隠れて見えていなかったレンは、既に刀身に炎を纏わせていた。
刀に纏った炎は爆発を繰り返し、更に紅蓮に染まり始めていた。
「ユキに救われてばかりいられない……次の一撃で終わりにするよ、ティーレ!」
「っ!私は死ねない……まだ死ぬ訳には、いかないの!」
ティーレの周囲を赤色の雷が数回走ると、双頭刃式槍を回し始めた。
回した双頭刃式槍の槍先に属性が集まり、水属性で出来た蒼い輪の周囲を赤色の雷が伝って流れていた。
「僕は光の人間だ。転生し、苦しんでいる君を……いや、君達を必ず救って見せる。それが、僕達光の主力の存在意義だ!」
ユキと手合わせした時よりも爆発は激しさを増し、刀身は紅蓮の輝きに包まれた。
「私は……私はアイリの足手纏いになる訳にはいかないんだ!だから今、私にできる全力で、貴方を葬る!」
二人は同時に地面を蹴り、互いの距離を詰めた。
「これで、終わりだ!真価の灯!」
レンは紅蓮に染まった刀身を、ティーレに向け連続で振るった。
連続で放たれた紅の斬撃は、地面を斬り裂きながらティーレに向かって広がっていった。
「負けない!私は……負けられない!」
ティーレは双頭刃式槍の回転を止めると、輪になっていた属性は全て片方の槍先へと集まった。
『疵瑕の選択』
全ての属性を乗せた渾身の突きを、レンに向けて放った。
両者の攻撃がぶつかり合い、階層全体が震動する程の衝撃波が周囲に放たれた。
「私の時よりも、斬撃数多いじゃない」
(私との鍛錬で、少しは成長出来たのかしら)
二人のぶつかり合いを見ていたユキは、ふと対峙しているアイリに視線を向けた。
「……ティーレ」
アイリは攻撃の手を完全に止め、ティーレをじっと見つめていた。
(完全に余所見してるし……別に構わないけど)
初めは均衡していた両者であったが、レンの技の手数の多さに加えてティーレは自身が負った怪我の痛みによって意識が乱れ、徐々に押され始めた。
「うぅ……このままじゃ……」
(アイリに迷惑かけちゃう)
ティーレは怪我の痛みに耐えながら、押し負けない様に属性を注ぎ続けた。
「私は……負ける訳には——」
パキィィィィン
ティーレの言葉は、槍先の砕ける音によって遮られた。
槍先に集中していた属性は飛散していき、迫り来る紅の斬撃が視界を全て赤く染め上げていった。
(アイリ……ごめんなさ——)
思考を遮るように、全てが赤く染められていた視界の中に突然黒い影が入り込んだ。
目の前に現れた影は、桜色のサイドテールを揺らしながら手を大きく広げていた。
「……え?」
「全く……世話が焼けるんだから」
目の前の少女は、こちらを向き笑顔を見せると同時に、紅の光に包まれていった。
(あぁ、私はまた……)
過ちを、繰り返す。
御拝読頂きありがとうございます。
今回はティーレvsレンの最後までの物語でした。
ティーレの犯してしまった過ちとは一体なんなのか……。
次回 第29話 I treasure you
お楽しみに!




