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創造した物はこの世に無い物だった  作者: ゴシック@S_kononai
第1章 光の導き手
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第19話 リナリア

 少女は、一人の少年に恋をしていた。


 その少年が、想い人の為に必死で勉学に励み、想い人の為に日々鍛錬を続ける姿を見ている事が、いつの間にか少女の日課となっていた。


 そんなある日、少年は目を覚ました想い人の事ばかりに意識を向け、少女を意識しなくなった。


「ねぇ……私は?………私を見て。貴方の為に努力をした私を……貴方と共に歩む為に強くなった私の事を」


―*―*―*―*―


 シュウの結晶が消えゆく時を、ユウトは静かに見届けていた。


 (あの声の主は結局誰だったんだ?さっきまで声は聞こえていた筈だが……いつの間にか結晶化していくシュウが目の前にいて……言葉を自然と声に出していた)


「分からないが……取り敢えずルミナに帰って、ユカリの容態を確認した後に考えよう」


 シュウの結晶を見送りながら独り言を呟いているユウトの背中を、フィリアは静かに見据えていた。


 ユウトがユカリの名前を口に出す度、自身の心に抱く黒い感情が、ルクスに来る以前よりも色濃く感じられるようになっていた。


 (この気持ち……嫌だな。戦っている間もユウトはユカリの事を考えていたみたいだし……私……努力する意味あるのかな。どんなに必死になっても、私の事は……見てはくれないの?)


 カチャ


 フィリアがユウトに意識を向けていると、首に何かを付けられたような感覚を覚えた。


 (え?)


 フィリアが首に触れると、金属で出来た首輪のような物が着けられていた。


 外そうとしても首輪は全く外れる気配が見えなかった為、ユウトに外して貰おうと足を踏み出した。


「貴方の気持ち、私には聞こえたから」


 その瞬間、階層の隅から声が聞こえたフィリアは声のする方向に視線を向けた。


 そこには黒衣に身を包み、腰まで流れた闇色の美しい髪にアサガオの様な綺麗な紫色の二種類の髪色をした少女が、アメジストの様な瞳を幽かに光らせ立っていた。


 背後に視線を向けたが、ユウトには何故か少女の声が聞こえていないようだった。


「私の声は、首輪をしている人にしか聞こえないようになってるの。その首輪を着けた貴方は、彼に抱いている負の感情を抑え切れなくなる」


「そんな……くっ!こんな物っ……!」


 フィリアは刀を使い首輪を斬ろうとするが、どんな素材で出来ているのか刃が全く通らなかった。


 フィリアの行動を意に返さず、少女はフィリアに背を向けた。


「面白そうだったから見に来てみたけど。ふふ、楽しみ……〝あの人〟の教え子を倒したユウト……貴方と本気で殺し合えるその日が」


 少女はそう言い残し、暗闇の中に姿を消した。


 (そ、そんな。助けてユウト!私を……)


「貴方を一番に想う私を見てよ!ユウト!!」


 背後から声が裏返る程の悲痛な叫びが聞こえ、振り返るとユウトの目の前に柑子色の刃が迫っていた。


 ユウトは咄嗟に後方へと飛び退いた事で一撃目は避けたが、フィリアからの斬撃が終わる事は無く、連続で放たれる斬撃をまともに受けたユウトは、身体の節々を斬り裂かれた状態で吹き飛ばされ地面を転がった。


「がはっ……ぐっ……」


 (創造するのは、傷付いていない自分!)


 創造した瞬間、ユウトの身体に付いた刀傷は結晶に覆われて傷と共に砕け散った。


「あ、危なかった……いきなりどうしたんだフィリア!」


 フィリアに向け叫んだユウトは、こちらに向けられた瞳を見て動きを止めた。


 視線の先には、刀を震わせ涙を滝のように流すフィリアの姿があった。


「ごめんなさい……ユウト。私は、ユウトに見て欲しかった、想って欲しかった、私だけを!」


 怒りに染まったフィリアの瞳は、ユウトでは無く転移エリアがある方向へと向けられた。


「私の想いを邪魔するユカリなんて……ユカリなんて……私が殺してやる!!」


 その言葉を聞いたユウトは、瞬時にユカリと同じ結晶刀(クリスタリア)を創り出した。


「フィリア……一体何があったのか分からないが、ユカリを護る事が……俺の生きる意味だ!」


「貴方は、貴方自身の事を分かっていないの!ユカリに縛られていない……貴方自身の強さを!」


 フィリアの周囲を黄色い稲妻が走り、紅蓮の炎が刃を伝いながらフィリアの周りを漂っていた。


「私の想い全て!今ここで、貴方に証明する!」


 フィリアは刀を構えると同時に、凄まじい速度でユウトの懐へと入り込んだ。


(いかずち)のように……斬り抜く!」


 瞬時に結晶の盾を前面に展開し回避を試みたユウトだったが、フィリアは瞬時に背後へと回り、移動時に纏っていた雷属性は、既に炎の属性へと変化していた。


「私の想いは……そんな盾では阻めない!」


 鞘に納めた状態から、居合斬りで放たれる炎の斬撃を、ユウトは障壁によって防御した。


 だが、ユウトの力をフィリアは上回っており障壁ごとユウトの身体を斬り裂いた。


「ぐっ……!」


 瞬時に結晶拳(リフィスタ)を身に纏い、加速を利用してフィリアから距離を取る事で、急所を回避する事が出来た。


 (不味い……このままじゃ俺のせいで、フィリアを殺人者にしてしまう)


 ユウトが心の中で、そう考えていると。


「じゃあ僕に替わってみる?」


 少女の声が聞こえた直後、ユウトの全身を結晶が覆い単結晶と化した。


「またあの女の姿になるの!男のユウトのまま戦って!」


 フィリアは結晶に向けて、怒りの電撃と火炎を同時に浴びせた。


 バキッと音を立てヒビが入ると、単結晶は粉々に砕け散った。


「何するのさ!変身中は攻撃しちゃいけないんだよ!」


 中からふくれっ面で現れたのは、シュウと戦った女ユウトだった。


「なら男のユウトに戻って下さい!私は彼に用事があるんです」


 フィリアは、鋭い視線で睨み付けながら携えた刃をユウトに向けた。


「僕も男だもん!男ユウトならほらっ!ここにいるよ!」


 自分を指差して微笑むユウトに対して、フィリアは居合の構えを取りながら高速で間合いを詰めた。


「冗談を言っている時間も惜しいんです……」


 フィリアから冷たい瞳向けた直後に放たれた斬撃は、ユウトの身体を真っ二つに切り裂いた。


「どこを狙っているの?僕ならここにいるよ?」


 真っ二つに斬られた物が〝結晶で創造された偽物〟である事に気付いたフィリアは、即座に声のする方向へと視線を向けた。


 その瞬間、背後に立っていたユウトから結晶弾が放たれた。


「そんな弾丸!」


 フィリアは、自身の姿を隠すように周囲に炎の属性で覆った。


「……あれ?」


 フィリアを覆った炎を弾丸が貫いた時、フィリアはその場から忽然と姿を消していた。


「こちらですよ?」


 背後から声が聞こえ、ユウトは咄嗟に両手の銃を頭上で交差させ守りの姿勢を取った。


 そこに柑子色の刃が振り下ろされ、刃と銃が接触した瞬間、火花を散らしながら甲高い音が鳴り響いた。


 (っ!僕の真似を!)


 間一髪で斬撃を防いだユウトは、向き合ったフィリアに視線を合わせた。


「よく防げましたね……ユウトを名乗るだけの事はあります」


「だってユウトだもん……しょうがないよね」


 フィリアの刃を押し返したユウトは、後方へと飛び退き距離を取ると、再び結晶銃をフィリアに向けた。


 (フィリアは相当強いね。シュウの連弾を刀で受けていた時から、僕と相性は良くないとは思っていたけど……これじゃあ僕の弾も当たらないかも知れないなぁ)


 そんな事を考えながらも、互いに睨み合った二人の周囲には不気味な静寂が広がっていた。


 (だけど〝あの子〟を起こす訳には行かないからね……何とか僕の力でフィリアを止めないと)


 ユウトは結晶銃を強く握りしめ、目の前の相手に意識を集中させた。


 (う……ん、煩い)

 御拝読頂きありがとうございます。


 19話のタイトル〝リナリア〟の花言葉は、「この恋に気づいて」と言う意味があるので、内容に合わせたタイトルとして付けていました。


 今回は、フィリアの想いが爆発しました。


 その原因を作った少女が誰なのか、ユウト(女)の言葉の真意は!フィリアは救われるのか!


 次回 第20話 ハナミズキ

 お楽しみに!

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