表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創造した物はこの世に無い物だった  作者: ゴシック@S_kononai
第1章 光の導き手
2/201

第1話 託すべきもの

 とある国に存在する、白い建造物が象徴的な美しい街ヴァイス。


 その日天気は、晴れのち〝血の雨〟。


 雲一つ無いにも関わらず降り(しき)る血の雨によって濡れた建物群は、徐々に白色から〝赤色〟へと塗り替えられた。


 赤壁(せきへき)へと変貌(へんぼう)した街には血の雨が降り続き、辺りに不自然な程の生臭さが広がっていた。


 そんな雨が降り頻る中、水飛沫を立てながら走る二人の姿があった。


「リヒトさん。一体この街で何が起きているんでしょう?」


 語りかけた女性は、〝隊服〟として統一された純白の衣服に身を包み白色の編み上げロングブーツ履いていた。


 腰に差した白い刀を抑え空色(そらいろ)の美しい髪を左右に揺らしながら走る女性は、翡翠(ひすい)の瞳で自身の前を駆ける男性を見つめていた。


(わか)らない。だが、人の気配が次々に消失している。アイリスも気付いているだろう?」


 女性に視線を向ける事なく走り続ける男性は、男性専用の隊服である白に統一されたシャツとズボン。

 同色のコートを重ね着し、白い靴を履いていた。


 漆黒(しっこく)の髪をした男性は、人々が発する気配を読み取り、翠玉(すいぎょく)の瞳で周囲の景色を見渡しながら背後(うしろ)を走る女性に問いかけた。


「はい。確かに周囲から全く正の感情を感じません…… 感じるのは負の感情ばかりです」


 アイリスは周囲を見渡し、人々が発する感情を読み取った。


 しかしアイリスが感じる事が出来たのは、全てを遮るように存在する巨大な負の感情だった。


「この雨が本当に血の雨なら、一刻(いっこく)も早く原因を究明しなければ」


「そうですね。私達が日本ではなく、この国にいた事は幸いでした」


 その会話をしていると、二人が走る道の先に一人の男が立ち塞った。


「それは違うな」


 そう口にした男性はリヒト達が身に付けている隊服とは真逆の、黒色に統一された衣服を身に付けていた。


「っ!止まれアイリス!」


 黒いロングコートを着た男性はフードを深く被り、右手に黒い(ガバメント)を携え力なく腕を下げたまま、道の中央で静かに立ち尽くしていた。


 そんな男の異様な殺気を感じ取ったリヒトは、左手を横に出す事で背後を追走していたアイリスを静止させた。


「お前、光の人間じゃないな?」


 リヒトの問いかけに対し、黒フードの男は微かに見える口元を歪め不気味な笑みを浮かべていた。


「察しがいいな。少なくとも俺が、お前らの味方で無い事だけは断言しておこう」


 言葉を言い終えたと同時に、黒フードの男は身構えていたリヒトに銃口を向けた。


 黒い銃の引き金が引かれた瞬間、本来では鳴り響く筈の銃声が発せられず、妙な火花だけが発生していた。


 (弾丸が放たれていない?……空砲か?)


「リヒトさん!」


 目の前で起こった違和感に思考を巡らせていたリヒトとは異なり、発砲の動作と同時に行動を開始していたアイリスは、咄嗟(とっさ)にリヒトを守るように前に飛び出し、腰に差した刀を引き抜き水属性を(まと)わせた。


 リヒトの前に立ち身構えたアイリスは、そこで初めて視認が困難な程に〝半透明な弾丸〟を確認し、属性を纏わせた刃で弾丸を正面から受け止めた。


 弾丸と刃が接触した瞬間、甲高(かんだか)い金属音と共に火花が飛び散った。


 (間に合った!後はこの弾丸を二つに割れば)


 アイリスは属性によって強化された刀によって、通常の弾丸と同じ対処法を用いて被弾を回避しようとしていた。


「っ!」


 しかし、正面で防いだ弾丸はアイリスが纏わせた属性を貫通し、直接刃を削り始めていた。


 (防ぎ切れな——)


 刃を異様な速度で削り終えた弾丸は刀を折ると共にアイリスを貫いた。


「かはっ!」


 そして弾速を落とす事なく貫通した弾丸は、アイリスの背後(はいご)に立っていたリヒトすらも貫通して行った。


「ぐふっ!」


 折れた刃は空中で数度回転した(のち)に赤く染まった地面へと突き刺さり、撃ち抜かれた二人は傷口を抑えたまま地面に膝をついた。


「どうだ?俺の最高傑作(さいこうけっさく)をその身に受けた感想は?」


 黒フード男は、地面に膝をつき痛みに苦しんでいる二人に歩み寄ると二人を見下ろしたまま不敵な笑みを浮かべていた。


「守るという行為は無駄(むだ)でしか無い。そんな俺の意志を具現化した銃から放たれる弾丸は、防ぐ事が不可能なんだよ!」


 声高らかに演説をする黒フードの男を他所に、血を流し続けるアイリスは背後(うしろ)で膝をついていたリヒトに視線を向けた。


「うぅ、ごめんなさい。リヒトさん」


「……アイリス」


 痛みに顔を歪めたまま謝罪をするアイリスに対して、リヒトは首を数回横に振った。


「俺の方こそ対処が遅かった……すまない。後は、俺が何とかしてみせる」


 リヒトは身体から血を流した状態のまま立ち上がると、全身に紅蓮(ぐれん)の炎を纏わせアイリスの前に立った。


「俺達は光の導き手だ!光の人々を置き去りに、死ぬ訳にはいかない!」


 決意を力強く口にしたリヒトは両手を握り締め、黒フードの男に向かって身構えた。


「……リヒトさん」


 負傷したリヒトを前にした黒フードの男は、小さく溜息を吐くと持っていた銃を(ホルスター)に仕舞った。


「はぁ、お前が下らない事言いやがるから興が醒めた。まだ(なぶり)り足りないが、お前らは〝あの人〟がここを通る時点で死ぬ運命に変わりは無い」


「……何の話だ?」


 属性を全身に纏わせたリヒトではあったが、黒フードの男によって重傷を負った事で意識が安定していない現状では全身に力が入らず、辛うじて立っている状態だった。


「死にゆくお前らには話す時間が無駄だ」


 黒フードの男は、身構えていたリヒトに軽々と背を向けた。


「じゃあな、光の希望。せいぜい死ぬまでの短い時間を謳歌(おうか)するんだな」


 黒フードの男はそう言い残すと、突如(とつじょ)現れた黒い渦の中へと姿を消した。


「……アイリス」


 リヒトは全身に纏っていた炎の属性を解除し地面に膝をつくと、近場に座り込んでいたアイリスを優しく抱き寄せた。


「リヒトさん。〝あの子〟は、大丈夫でしょうか?」


 そう言ってリヒトの身体に手を回したアイリスは、遠く離れた場所で帰国を待ち侘びているであろう我が子の事を口にした。


「大丈夫さ」


 弾丸によって腹部に風穴が開いた二人は、既に立ち上がる力すら残っていなかった。


「あの子には与えられるだけの愛情も、(たく)すべき意志も全て託してある。大きな可能性を秘めたあの子ならきっと俺達以上に、光の人々を導いていける筈だ」


「ふふ、そうですね」


 そう口にして顔を見合わせた二人は安心からか、自然と笑みが(こぼ)れていた。


 そんな二人の背後(はいご)には、街を(おお)い尽くす程の何かが迫りつつあった。


「せめて、あの子が立派に成長するまで……見届けたかった」


 アイリスは涙を流しながら、心の中で我が子との幸せな生活を思い返していた。


「まだ幼いが、君と同じくらい優しくて綺麗な女性になると思う。あの子は、世界で一番大切な……俺達の自慢の(むすめ)だからな」


 何かが接近する程に、血の雨がより一層強く降り始め、二人に残された体力を少しずつ奪っていった。


「…………」


 二人で並ぶ様に座っていたアイリスは、力なくリヒトの肩に身を預けた。


「アイリス。俺は信じているよ……俺達の(きぼう)を」


 安らかに眠っているアイリスの涙を手で優しく拭ったリヒトは、アイリスの後を追うように(まぶた)を閉じると、騒々しかった雨は徐々に鳴り止んでいった。


―*―*―*―*―


 その数分後、二人は迫り来る〝何か〟によって命を奪われた。


 その何かは、二人の存在にすら気付く事は無く、天災のようにその姿を消した。


 その日、ヴァイスに存在していた生物は忽然(こつぜん)と姿を消した。


 その後調査に訪れた隊員達によって発見された血に染まった住民の手記には、走り書きでこう書かれていた。


「あれを〝見た〟者は、誰一人として生きてはいられなかった」と。


 突如出現し、全ての生き物を死滅させる災厄を人々は『災禍領域(カタストロ・フィード)』と呼んだ。


―*―*―*―*―


 (のち)に〝赤壁(せきへき)の街〟と呼ばれる事となるこの事件以降、二人の導き手の意志は、十二歳の若き希望むすめへと(つむ)がれた。

 御拝読頂きありがとうございます。


  1話は0話に比べてかなり長くなってしまいましたが、今回のお話は、ある二人に関しての物語でした。

 この二人に関しては後の物語で語られる事になります。

 Twitterにて登場人物についての説明を画像を使いながら行なっていきます。

 ゴシック@S.kononai


 次回 第2話 全てはここから始まった

 お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ