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創造した物はこの世に無い物だった  作者: ゴシック@S_kononai
第3章 光闇の宿命を背負ふ者
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第8話 ハイデンベルグの英雄

 アメリカ中央拠点クレイドル 南部


「ジーク……様」


 両耳を塞いでいた手を離したクリームヒルトは、潤んだ緑色の瞳で正面に立つ男性を見つめ、再び涙を溢した。


「すまない、クリームヒルト…… 〝あの日交わした約束〟に反し、君に名を呼ばれた一度目に、この場に到着する事が出来なかった」


 前髪の右側を下げ、左側を上げた左右非対称の髪型をしたジークフリートは、申し訳無さそうな瞳をクリームヒルトに向けたまま、右手に携えていた剣を地面に突き刺した。


「え!?あ、謝らないで下さい」


 発せられた謝罪の言葉に動揺したクリームヒルトは、パタパタと四つん這いの状態で岩の影からジークフリートの元へと近付き、首を左右に振りながら両手をパタパタと左右に振った。


「あの世界から出る時間が、予想以上に掛かってしまった……私の力も、全盛期よりも(おとろ)えた物だ」


「そんな事、無いです」


 そう口にしたクリームヒルトは、ジークフリートの両手を両手で握り締めた。


「私は、この世のどんな事よりも……ジークフリート様と、もう一度お会い出来た事が……嬉しいです」


「それは、私も同じだ」


 そう告げたジークフリートは、視線の高さを合わせる様に、地面に膝を突き、互いに互いの瞳を見つめ合っていた。


「あの人は、まさか……」


「ああ、間違いない。〝千年以上も昔に死んだ〟筈の英雄……ジークフリートだ」


 数十メートル離れた地点で男性を観察していたヨハネ達は、クリームヒルトの危機に現れた事と、地面に突き立てられた武器から、男性がジークフリートである事を確信した。


 (それにしても……アメリカ大陸を揺るがす程の衝撃を受けた地面に、一切の変化が無い。何らかの方法で地面から発せられた力で、自身の力を接地寸前で相殺した……とでも言うのか?)


 ジークフリートの周辺を観察していたヨハネは、付近の岩場から顔を覗かせるクリームヒルトの存在に目を向けた。


「クリームヒルトの為か」


 ヨハネの視線に素早く気が付いたクリームヒルトは、ジークフリートと見合わせていた視線を外し、岩陰に置かれた銀朱(ぎんしゅ)のハルバードを持ち、スクッと立ち上がった。


「フッ、運命の再会を喜んでいる時では無かったかな?」


 ゆっくりと立ち上がったジークフリートは、地面に突き立てていた剣を右手で引き抜き、自身に向けられた視線に視線をぶつけた。


「そしてあれが、〝聖剣バルムンク〟か」


 ヨハネが視線を向ける先には、百八十近いジークフリートの身長を上回る長さを有し、重厚感のある漆黒の刀身は日本刀の様に長く、握られた独特な黄金の柄も、他の刀剣に比べて長く取られていた。


 (あの武器は、ドイツのツー・ハンデッドか)


 ツー・ハンデッド、ドイツではツヴァイヘンダーと呼ばれる両手剣。


 長さニメールト前後の大型の剣で、持ち手の長さが最も特徴的とされている。


「クリームヒルト、此方(こちら)に」


「は、はいっ!」


 両手で持ち手を握り締めた状態で近付いて来たクリームヒルトに視線を向けたジークフリートは、空いていた左手を背後に回すと、クリームヒルトを自身の抱き寄せた。


「ジ、ジーク?」


「私は君の実力を、この世で最も信頼している」


「っ!?」


 その言葉を聞いたクリームヒルトは、嬉しさの余り再び涙を流し始めた。


「君の力であれば、向こうにいる銀髪の彼女を討ち倒す事も可能だ……共に戦おう、我が妃クリームヒルトよ」


 抱き寄せていた左腕を解いたジークフリートは、背後に身体を向け、此方を見つめる二人の女性に視線を合わせた。


「……はいっ!必ず、勝って見せます!」


 クライフに視線を合わせたクリームヒルトは、銀朱(ぎんしゅ)のハルバードに属性を纏わせた。


「君が戦っている間——」


 クリームヒルトのハルバードから紅蓮の光が放たれた瞬間、先程まで隣に立っていたジークフリートが姿を消していた。


「君の相手は、私がしよう」


「っ!?」


 自身の目の前に突如現れたジークフリートを視認したヨハネは、瞬間的に大刀を振り上げた。


 キィィィィン


「ヨハネ様っ!」


「貴女の相手は、私っ!」


 意識を外した一瞬の間に接近していたクリームヒルトは、右手に握るハルバードの先端に属性を纏わせた状態で回転させていた。


「くっ!」


的当て(ダス・ジ・トレフン)


 咄嗟に水のマイナス属性を纏わせた白色の剣でハルバートの先端を弾いたクライフだったが、勢い良く突き出されたハルバードから放たれた荒々しく渦巻いた炎は範囲を広げ、クライフを巻き込みながら大地を焼き削りながら進行した。


 (クライフ……)


「君が何を考えているかは、私にも分かる……が、仲間の心配が出来る程、私は生優しい相手では無い」


 互いの武器を重ね合わせていたヨハネは、大刀を握る右手の力を強めたにも関わらず押し返された事に驚愕し、咄嗟に両手で大刀の柄を握り締めた。


「力比べか……女では、私の相手は到底務まらん」


「っ!」


 その言葉を聞いたヨハネは、大刀を握る両手の力を強め、バルムンクを徐々に押し返し始めた。


「……女だからなんだ?対峙する者が異性と知っただけで、力が男より劣るとでも?」


「そうだ」


「随分と、短絡的な思考を」


「人間という動物ならば、当然だ」


 ジークフリートは、その言葉が事実である事を証明する様に、ヨハネの加えた常人離れした力を捻じ伏せ、ヨハネを後方へと弾き飛ばした。


「くっ!」


 (なんて力だ……この異様なまでの力は、イタリアで私と対峙したキルカの比では無い)


 自身の力を上回る力で弾き飛ばされたヨハネは、十メートル後方の地面に着地すると同時に再び大刀を構えた。


「どうした?さっきまでの威勢は、何処に消えて失せた?」


「一度力比べに勝利した程度で……調子に乗るな」


 力で負けたヨハネの両腕は、受けた力によって麻痺を起こし、大刀を握る両手の感覚が鈍くなっていた。


「君こそ、理解が足りていない」


「何っ!?」


「『女が男と同等か、それ以上の筋力を持つ』……それは、特異な君だからこそ適応される言葉だ。平凡な二人の男女が力比べをすれば、負けるのは女だと分からないのか?」


「っ!」


「筋力では、男が女に勝る。だが逆に、男が女に劣る部分もある……性別による区別は、環境や状況によって必ず差別される」


 『差別』という言葉に強い憤りを覚えたヨハネは、感覚の鈍っていた両手に喝を入れる様に力を入れ、大刀の柄をより強い力で握り締めた。


「その差別を無くす為に、私はクレイドルで活動を重ね、実現したっ!」


「フッ、随分と馬鹿げた絵空事を口にする女だな君は……それは、君の見聞きする範疇(はんちゅう)だけの話だ」


「何だとっ!」


「差別を根絶する事など不可能だ。人間が、知識を有した動物である以上」


 (平等では根絶出来ない問題が有るからこそ私は、民を公平に導く道を選択した)


 次の瞬間、再び一瞬で目の前まで接近したジークフリートに向けて大刀を振り上げたが、ジークフリートは紙一重で斬撃を回避し、左拳で躊躇(ちゅうちょ)無くヨハネの右頬を力強く殴り付けた。


「っ!」


「時代が変化しようとも、頭で理解出来ない愚か者には、性別問わず肉体的教育が最も効果的だ」


 咄嗟に首を回転させる事で衝撃を受け流したヨハネだったが、ジークフリートの左拳から放たれた衝撃を全て受け流す事は出来ず、激しく回転しながら後方へと吹き飛び、地面を幾度も回転した後に停止した。


「君の嫌う差別の存在する事が、全てにマイナスと言う訳では決して無い。男女、人種……この世に区別され生み出されたモノの中で、必然的に起きる差別によって、一人ひとりの存在が際立ち、異なる意味が与えられている事を理解する」


 ジークフリートに足を向ける状態で倒れていたヨハネは、地面に両手をつき、ゆっくりと上体を起こし始めた。


「ああ、無理をして立ち上がる必要は無いよ」


 バルムンクを肩に担いだ状態でヨハネに近付いたジークフリートは、背を向けた状態で必死に立ち上がろうとしているヨハネの背後にまで接近した。


「君は、その類稀(たぐいまれ)ない筋力を主体に戦うと聞いた。私も君と同じ様に、属性によって常人の域から逸脱した力を得た存在だが……同じ条件下に有りながら、君が私に力で負けた時点で、君の勝利は無いのだから」


 その瞬間、ジークフリートの払った聖剣バルムンクによって、ヨハネの頭部は胴体と分断され、腰の位置まで伸びていた紅蓮の髪は風に流され周囲へと舞い散った。


「ヨ、ヨハネ……様」


「ジーク様、やっぱり凄いです」


 的当て(ダス・ジ・トレフン)が直撃する瞬間、剣に纏わせた水のマイナス属性を全身に纏わせる事で損傷を最小限に抑えていたクライフは、数十メートル離れた地点で起きた惨劇を目の当たりにし、顔を青ざめていた。


「ヨハネ様ァァァァアアア!!」


 クライフの悲痛な叫びが辺りに木霊(こだま)する中、ヨハネを切り裂いたジークフリートは、右手に握る聖剣に妙な違和感を覚えた。


「……フッ。やはり、そうで無くては」


 そして、ジークフリートが笑みを浮かべた次の瞬間、周囲に舞う紅蓮の髪を残し、ヨハネの胴体と頭部は炎の塊となり飛散した。


「嘘……あれって」


 (もしかして、私の人形遊びポープン・シュピーレンと同じ?もしかして……私の技を真似したの?)


 困惑するクリームヒルトと、状況を理解出来ていないクライフを他所に、無言で顔を上に向けたジークフリートの瞳には、豆粒程の大きさの黒い影が自身に向けて接近している様子が写っていた。


 (クリームヒルトの人形遊びポープン・シュピーレンを考察し、真似たか……瞬時に相手の使用した戦法を分析し利用する、これも彼女の才能か)


 ジークフリートが現れた直後、上空に吹き飛ばされたクリームヒルトが消えている事を認識していたヨハネは、クライフの使用した(ヘイズ)、そしてクリームヒルトが炎属性で炎人を生み出していた事から、偽者を炎で作り出し、戦闘中に入れ替わっていた事に気が付いた。


 しかし、クリームヒルトが人形遊びポープン・シュピーレンを使用した時と異なり、視界を遮る物が存在しない状態だったヨハネは、大刀を振り上げる事で隙の生まれる首から上に意識を向けさせ、足元から徐々に炎を纏わせていた。


 そして、吹き飛ばされたと同時に偽者と入れ替わり、うつ伏せに転がす事で未完成の頭部を長髪で覆い隠したヨハネは、残された部分を炎の属性で覆い、完全な偽者の自分を作り出した。


「私の言葉で、冷静さを欠いていると思っていたが……まさか、ここまでの策を講じているとは」


 ジークフリートが剣を構えた頃には、黒い点は全貌が視認できる程に接近していた。


「確かに……私の力を()ってしても、お前の力に押されていた」


 紅蓮の大刀を両手で握り、頭上に携えたヨハネが身体を丸めた状態で、幾度となく回転を繰り返しながらジークフリートへと迫っていた。


「だが、そんな事は既に経験している」


 そう口にしたヨハネは、イタリアで戦ったキルカとの戦闘を思い出していた。


「それに私は、自分よりも遥かに強大な力にさえ、怖気ずに立ち向かった者を知っている」


 腰の位置まで伸びていた長髪の赤髪は、先程の偽者を作り出す際に利用した事で肩の位置まで短くなっており、ヨハネの考えていた少女と同じ様に後ろ側で一つに結われ風に(なび)いていた。


「姫、私も貴女と同じ様に……底知れぬ力に打ち勝ってみせるっ!」


 空中で回転を繰り返したヨハネは、ジークフリートと自身の距離を目測すると、刀身にマイナスの炎とプラスの炎を纏わせ始めた。


「面白い……では君にも、立ち向かって貰おうか。世界最強と称された君でさえ辿り着けぬ、未知数な力に」


 荒々しく燃える二色の炎を纏わせたヨハネは、身体を伸ばすと同時に、バルムンクを構えるジークフリートに向けて、渾身の力を込めて大刀を振り下ろした。


夜明け(デイブレイク)


 刃が接触する瞬間、ジークフリートに向けられたヨハネの瞳は、先程の緑よりも鮮明な浅緑に変化していた。

 御拝読頂きありがとうございます。


 今回は、遂にジークフリートvsヨハネ、クリームヒルトvsクライフが始まりました。


 次回は、ジークフリートの尋常では無い力に対して、変化しつつあるヨハネが立ち向かいます。


 Twitterにて登場人物についての説明等を画像を使いながら行なっていきます。

 ゴシック@S.kononai


 次回 第3章 第9話 闇夜を照らす月

 お楽しみに!

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