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創造した物はこの世に無い物だった  作者: ゴシック@S_kononai
第2章 紡がれる希望
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第106話 君の幸せを一番に願ってる

 私には、十年よりも前の記憶が無い。


 だから、それよりも前の記憶はチェルノボグから聞いた記憶。


 属性が開花していない無力な私を、チェルノボグは意図的に闇の人間にした。


 開花当時は、ごく普通の炎のマイナス属性だったけど、チェルノボグに手を加えられた属性は液体の様にドロドロになり、私の意識で自由に操作出来るようになった。


 でも、属性が動かせる能力は私自身のモノだってチェルノボグは言っていた。


 記憶と共にある程度の感情を失った私には、チェルノボグの所業はどうでも良いモノだった。


 私にとっては、長く生活を共にしたチェルノボグとあの子、居住している研究所、そして日々繰り返していた日常が全てだったから。


 そんなある日、チェルノボグは私に二つの物をくれた。


 一つ目は、三年程前に渡された黒い小さな結晶体。


 黒い結晶体について聞くと、接近した対象の首に黒い首輪を取り付ける事が出来る道具だと返された。


 言っている意味がよく分からなかったが、実際に意識の無い人に近付き、首元に手を近付けた瞬間に黒い首輪が何も無い空間から突然現れ、手を近付けていた人の首に装着された。


 チェルノボグからは、首輪に私の属性を付与すれば、他者を操る事も可能になると言われた。


『こんな物まで用意出来るとは、闇の神様様だ』


 結晶を観察していた私は、その時チェルノボグが発した言葉を耳にしながらも、すぐさま手に持った小さな結晶体に意識を戻していた。


 そして二つ目は、大量の古びた本だった。


 普段やる事を終えた後に、暇潰しとして読んでいた本には幾多の国の言語が載っていた。


 言語に関する質問をチェルノボグすると、多忙な時以外は普通に答えてくれた。


 普段話をしない分、チェルノボグが私に反応してくれた事が凄く嬉しかったのを覚えてる。


 それが、本を読む切っ掛けになった事も。


 そんなある日、とある言語に関する記述で気になる文章があったので、チェルノボグに質問を投げ掛けた。


 私の言っている意味が理解出来なかったチェルノボグは、私が広げて見せていた(ページ)に目を向けた。


『はぁ、そう言う事か』


 長い溜め息を吐いたチェルノボグは、私から本を奪い取ると、私の前で本を揺らして穴だらけである事を静かに主張した。


『お前がどんな知識を付けようが、俺の知った事じゃ無いんだが……お前が興味を持った言葉と意味は、全く別のモノだと言う事は伝えておこう』


 そう告げたチェルノボグは、その本を地面に落とし、私のそばから離れて行った。


『ただ、お前が正しい意味を理解しようとも……その言葉と無縁のお前が、誰かに対して使う事は無いだろう』


 地面に落ちた本を拾い上げ、再び読み始めた私には、結局その文字にどんな意味があるのか分からなかった。


ut(ウート)


 穴が空いた事で、本来の意味とは異なる意味になっていた不思議な(ページ)


 でも今思えば、本来の意味と違う意味で覚えていた事が、私にとっては良かったと言える。


 だって、その一件があったお陰で記憶に残ったその言葉には、転生した私が名前に選んだ理由でもある、一つの意味が記述されていたから。


―*―*―*―*―


 マリオット島


「…………ウト?」


 長い間親友を抱き締めていたユウは、少し前から背中を指でツンツンと触るウトの存在に(ようや)く気が付いた。


「椅子があったから、持って来た」


「……ありがとう、ウト」


 ウトが近場に用意した椅子にソアレを座らせたユウは、微笑んだまま安らかに眠る少女の顔を見つめた。


 (良かった。ユウに気付かれなくて)


 ウトは、椅子を発見した際に手に入れた汚れた包帯を両腕に巻き、炎神(えんじん)蒼手(そうしゅ)によって負った火傷を隠していた。


「……姿は変わっても、ソアレは……ソアレのままだったよ」


 右手でソアレの頬に触れたユウは、小さな声を発しながら再び涙を流し始めた。


「……」


 (そんな余裕、今のユウには無いよね)


 椅子に座るソアレの前でしゃがみ込み、俯いたまま涙を流していたユウを見守っていたウトは、ふと自身の刀を研究所の床に突き立てたままにしていた事を思い出した。


 (まだ何かある、そんな気がしてならない。私の直感が……この刀をしっかり握っていろと言ってる)


 白色の刀身を有した刀を引き抜いたウトは、親友ソアレの死によって悲嘆(ひたん)に暮れているユウの周囲を警戒し続けた。


「悲しんでる余裕がヨォ……」


 そんな時、静寂に包まれていた薄暗い空間に、聞き覚えの無い少年の声が響き渡った。


「っ!?」


 男性の声が聞こえた瞬間に精神を研ぎ澄ませ臨戦態勢になったウトとは異なり、ユウは自身の心を支配する悲しみによって周囲に意識を向けられずにいた。


「あると、思ってんのかァ!」


 突如出現した黒い渦から姿を現した白髪の少年ティオーは、身に纏った赤黒い服を揺らめかせながらユウに接近した。


「ユウっ!!」


「……え?」


 発せられた大声で(ようや)くティオーの存在を認識したユウだったが、状況を理解する為の思考が追い付かず、その場で硬直していた。


 紅桔梗(べにききょう)の瞳でティオーを捕捉したウトは、右手に握る白色の刀身に蒼炎を纏わせ、二人の間に割って入った。


蒼壁(そうへき)


 ティオーの前に出たウトは、自身の正面に向けて炎の円を描くと、次の瞬間にはウトの姿を隠すように蒼炎が拡散し円状の壁が出来上がった。


「壁のつもりか?」


 そう告げたティオーが右手で蒼壁(そうへき)に触れると、蒼い炎は黒く染まり、中央部分から徐々に消滅していった。


「っ!ウトっ!」


 蒼壁(そうへき)が消滅した事で、敵の脅威を実感したユウは、ティオーが接近するウトの身を案じて声を上げた。


「ユウ、離れてっ!」


 左手でユウを後方へと突き飛ばしたウトは、取り残されたソアレに一瞬だけ視線を向けると白刃に蒼炎を纏わせた。


「一手、おせェな」


 蒼炎を纏わせた瞬間には、ティオーは既にウトの持つ刀の刀身に右手を接していた。


「……なんだと?」


 ティオーは、触れてもウトの刀が消滅しない事を不思議に感じ、自身が確実に触れている事を確認する様に幾度も右手に力を入れていた。


「そう言う事か」


 その瞬間、ティオーの握り締めた刃全体が蒼炎に包まれた。


「良いぜ……来いよ」


贖罪の炎エクスピアーティオ・フレイマ


 故意に手を離したティオー目掛けて放たれた蒼炎の斬撃は、ティオーを呑み込みながら研究所の床を切り裂きながら進み、壁に激突すると同時に蒼い閃光と共に、周囲の物を吹き飛ばす程の烈風を発生させた。


 (やっぱり。ユウトの意識が戻る前に、ユカリに創造を依頼しておいて良かった)


 過去の記憶を頼りに〝細工〟した白刃の刀は、ティオーの消滅の影響を受けて、大量の雪の結晶を発生させていた。


 ユカリの創造によって施されたのは、白刃の上に薄く結晶の刃を幾層(いくそう)にも重ねて創造する事で、刃自体の消滅を回避するモノだった。


「……お前、俺の力を知ってたのか?」


 灰色の煙の中から姿を現したティオーは、床に転がっている物を消滅させながら、正面で刀を構えているウトに声を掛けた。


「チェルノボグが言ってた。創造があれば、必ず破壊もあると」


 (それに、ユウトから聞いた情報もある)


 チェルノボグの研究所に到着するまでの道中で、ユウト達は自身の知っている情報を仲間達に伝えていた。


 共有した情報の中には、勿論ティオーの情報も含まれており、身なりだけで無く、触れた存在を消滅させる力を持っている事は既に知っていた。


「チェルノボグか……アイツは勘が鋭過ぎる。チッ!だから、早めに処理しろと言ったんだ」


 ティオーは、〝仲間の命を軽んじる事を極度に嫌う〟闇の神の甘さに対して憤りの声を発し、髪をワシャワシャと()(むし)った。


「……まあ、そんな事はどうでも良いか」


 怒りを露わにしてから数秒で冷静さを取り戻したティオーは、冷たい眼差しをウトに向けると同時に、両手を強く握り締めた。


「随分と、情緒不安定だね」


「これからお前が死ぬと思うと、どうでも良くなるだろ?」


 地面を力強く蹴ったティオーは、床を消滅させながらウトに向かって急接近した。


「お前の言い分なんざ」


少女の大罪(グレア・ディアシス)


 ウトの背後から放たれた炎の斬撃は、ウトを避ける様に左右からティオーに接近した。


「下らねェなァ!」


 不敵な笑みを浮かべながら叫んだティオーは、左右から迫る二色の斬撃を両拳で殴り消した。


「そんな!?」


 (ソアレとの戦いで、属性を使い過ぎていた……今の一撃が、今の私の精一杯なの?)


 斬撃を消したティオーは、しゃがみ込んだユウを気にも留めずに、そのまま正面のウトに向かって再び右拳を放った。


「素手で戦うつもり?」


 両手で柄を握り、右拳を白刃で受け止めたウトは、本来であれば刃に裂かれる筈の拳が無傷である事を確認した。


「切れない?」


「俺に触れる刃なんかねェんだよ。全ては俺の手に触れた時に消滅した……それが、今起きた出来事の結果だ!」


 力強く押し出された拳に刃が押し戻されそうになったウトは、後方へ飛び退く事でティオーとの接触を避けた。


「一つ質問。貴方はなんで、私達の所にやって来たの?」


 再び刀を構えたウトは、戦闘によって疲弊した二人を最初から狙っていたかの様に姿を現したティオーの行動理由について問い掛けた。


「お前達二人の内、どちらかが死ねばそれで良い。ユウトの雑魚と関係の薄い奴等を葬った所で、意味が無いからな」


「そう答えれば、私達がユウトを恨むとでも?」


「……ク、ハハハハハハ!」


 その言葉を聞いたティオーは、的を射たウトの返しに対して不敵な笑みを浮かべ、大声を上げながら笑い始めた。


「ああ、ワルイワルイ。お前達の言う絆って奴がどれ程のモンか気になったんで、遊んでみたんだ……お前達を殺す理由なんか、最初から無いからな」


「無い?」


「殺す理由なんか要らねェだろ?適当に決めた所にいた奴を、適当な数だけ殺して帰る。闇の神といると、俺が死にそうになるから適当な場所で時間潰ししてんだよ」


「そんな……理由で?」


 その言い分に愕然としていたユウが漏らした言葉に反応したティオーは、握り締めた右拳をゆっくりとユウに向けた。


「それで十分だろ?」


 その瞬間、ユウに向けられた右拳の周辺が不自然に歪んだ。


「させないっ!!」


贖罪の炎エクスピアーティオ・フレイマ


 蒼炎を纏わせた刃を振るったウトは次の瞬間、炎が一瞬で消滅した事に驚愕した。


「俺の力で、空気中の酸素を全て消滅させる事が出来ると言ったら信じるか?」


 ユウに拳を向けていたティオーは、ウトが声を聞いた時には既に刃を握り締めている状態だった。


「そうすれば、この世の生物が全て爆散する……面白いよな、生物の構造ってのは」


 (っ!握られた刃が離れないっ!)


 消滅を阻止する為に、渾身の力を込めて刃を引き抜こうとするウトだったが、何故かティオーの右拳から離す事が出来なかった。


「ま、俺も死にたくねェから、試した事すらねェけどな」


 掴んでいた刃を離したティオーは、立ち上がれないユウを無視して、向き合っているウトを煽る様に両手をユラユラと揺らし始めた。


「遊びはお終いだ……来いよ。テメェの最後ぐらい、テメェで決めさせてやるよ」


「ウトっ!私の事なんか構わずに、逃げてっ!」


 両手を広げて攻撃を待つティオーを見ていたウトは、勢い余って前のめりに倒れながらも、自身に出せる精一杯の声で逃げる事を必死で叫び続けるユウに視線を向けた。


 (ユウ、私は……転生してから、ずっと後悔してた)


 瞬きをした刹那、ウトはユウと出会った時の事や、ユウと過ごしていた時の光景を目にしていた。


 (あの日、私のせいで人生が滅茶苦茶になってしまった人が……強い自責の念と、心の底から感じる孤独に苛まれていた私に手を差し伸べてくれた……あの日から、ずっと)


 転生したウトは、自分自身が犯した数々の悪行に対する後悔をし、転生した自分には居場所が無いという孤独感に苛まれ、転生した場所で自決を考えさせる程の負の感情に支配されていた。


『導き手と同じ存在として……勝って導く……誤った日常を進んでしまったお前さえっ!』


 そんなウトに自決を躊躇わせたのは、転生前に戦っていた少年から告げられた一言だった。


 彼ならば、闇の人間として生きて来た自分と共に歩んでくれる筈だと、心の中に微かに灯った光が消えない様に何度も自分に言い聞かせ、何年にも感じる程の時間を必死に耐えていた。


 そんなウトの前に現れたのは、過去の悪行によって人生を狂わされたユウだった。


 頭の中で様々な考えが錯綜する中、ウトは意を決してユウに声を掛けた。


 ユウに殺される事さえ覚悟していたウトは、怒りの感情を全く見せないユウの反応から、再び強い自責の念に駆られていた。


 (私はどうして、こんな子の人生を狂わせたの?)


 過去の過ちを咎める事も無く、転生した自分だけを見ていると感じたウトは、ふと過去の記憶に残された〝間違った意味を持った言葉〟を思い出し、それを自分の名前とした。


 (私に居場所をくれた人。そして、私が心の底から償いたいと感じた人の為に……私は——)


 長く感じた瞬きを終えたウトは、地面を這いながら涙目で逃げる事を必死に訴え続けているユウに視線を合わせた。


「私は……」


 (貴女の為なら……)


「逃げない!」


 ユウと視線を合わせながら決死の覚悟を決めたウトは、再び鋭い眼差しをティオに向けた。


「止めてっ!ウトっ!!」


 柄を両手で掴み、切先を天高く振り上げたウトは、刀身に向けて自身に残された全ての属性を纏わせた。


 そして、刀身から流れ落ちる炎を全身に纏ったウトの姿を眺めていたティオーは、炎の中で揺らめいたウトの姿が、徐々に増えている様な幻覚を見せた。


 刀身だけでなく、ウト自身さえも包み込んだ属性を静かに傍観していたティオーは、揺らめく蒼い炎の色彩に白が含まれている事を知ると、楽しげな表情を真剣な表情へと一変させた。


「これが闇の人間が持たねェ、『絆』って奴の力か?」


 (目に見えた変化を見せるタァ、面白ェ)


償い続ける(ウト・ペルマネーレ)


 蒼炎の中でウトが刀が振り下ろすと、研究所の床や天井を切り裂く程の蒼い斬撃が、ティオーに向けて放たれた。


「チッ!」


 斬撃が放たれた事で体勢を戻したティオは、幻覚だと思われていたウトが本体に追従する様に斬撃を放ち始めた状況を見て、両の掌を正面に向けて翳した。


全てを消す(デーレ・オムニア)


「消えろ、俺の前から」


 放たれた斬撃がティオーの両手に接近した瞬間、斬撃は最初から存在しなかったかの様に姿を消した。


「分かったか?消滅の運命から逃れる事なんざ——」


 その瞬間、消滅する無数の斬撃の中から消えずに接近した斬撃が、ティオーの左腕を胴体から切り離した。


 血液が一滴も流れない腕の切断面からは、無数の〝黒い糸〟が露わになっていた。


「……成る程な」


 本来であれば、到達する以前に消滅してしまう筈の斬撃の一つが、消える事なく自身に到達した事を知ったティオーは、切り落とされた腕を見つめながら笑みを浮かべた。


「これが、アイツが危惧(きぐ)する光の属性か」


 依然として正面に翳した右手によって消滅し続ける斬撃に視線を戻したティオーは、ゆっくりと右手を握り締めた。


「面白ェもんを見せて貰った……が、お前の実力じゃあ、俺の力を全て知る事は出来ねェ!」


 右手を握り締めたティオーが地面を力強く蹴り飛ぶと、二人の間に存在した斬撃が右拳に触れた箇所のみ消滅し、ウトの眼前までティオーが接近していた。


 穴の間斬撃が黒く染まり消滅する最中、属性を使い切った事で意識が散漫になっていたウトは、接近したティオーの右手に刀を弾き飛ばされた直後に、刀を握っていた右手を掴まれた。


「これで、お前の運命は決まった」


 ティオーに握られた瞬間から、右手から徐々に身体の消滅が始めたウトは、消滅する部位の感覚が徐々に消失して行く感覚を味わった。


 消滅が開始された事を知ったティオーは、何かを期待するかの様な笑みを浮かべた後に、二人に背を向けて歩き始めた。


 (身体が消え、感覚も徐々に無くなって行くのに……消え行く恐怖は……全く無い)


 消え行く部位に視線を向けていたウトは、ゆっくりと地面に倒れているユウに視線を向けた。


「そんな……ウト……」


 自身の身体が塵となって消滅しているにも関わらず、ユウに視線を合わせたまま立ち尽くしていたウトは、転生後に過ごした日々を思い出していた。


「早く、ユウトの所に……治して貰いましょう……ウト……まだきっと、治りますから……ね?」


 立ち上がれないユウは、床に転がる鉱石の破片で両腕を傷付けながらも這いずって進み、少し離れた場所に立っているウトに声を掛け続けた。


 しかし、身体に残された全ての属性を使い果たしたウトには動ける力は無く、その場に立っているだけで精一杯の状態だった。


「……ユウ」


 (言いたい事は、一杯ある。でも、それを全部伝えてる時間は無い……だから、最後に)


「何?……ウト?」


 身体が半分消滅した頃に(ようや)く口を開いたウトは、眼帯に隠れた左目から一筋の涙を流していた。


『勝って導く……誤った日常を進んでしまったお前さえっ!』


『良かった……ウトがちゃんと転移出来て』


『こんな所で寝るな!』


『俺の身勝手で二人を死なせる訳には行かないんだ』


『ウト……私を、信じて』


『一つだけ約束して下さい……私と共にユウトの元で罪を償う為に生きる事を』


 鮮明に蘇る記憶を思い出したウトは、残された左腕を倒れているユウに向けて差し出した。


「今まで、ありがとう」


 しかし、差し出した左腕も直後に塵となって消滅してしまった。


「私は……貴方達と出逢えて……」


 顔が消滅し始めた事で左目の眼帯が地面に落ち、露わになったウトの左目からは、溢れ出た涙が滝の様に流れていた。


「……ウト……」


「本当に、幸せだった」


 震えた声で別れを告げたウトの表情は、転生後に一度たりとも見せる事の無かった満面の笑顔だった。


「ウトォォォォォォッ!!!」


 溢れる涙と共に発せられた悲痛の叫びは、ウトの消えたマリオット島全体に響き渡った。


 涙を流すユウの傍には、持ち主を失った白刃の刀が、寂しげに残されていた。

 御拝読頂きありがとうございます。


 今回は、ティオーの手によってウトが消滅させられてしまうまでのお話でした。


 次回は、ウトの所持していた物の消滅を感知した者が、他者に見せた事のない程の怒りを露わにします。


 Twitterにて登場人物についての説明等を画像を使いながら行なっていきます。

 ゴシック@S.kononai


 次回 第107話 終わりと始まり

 お楽しみに!

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