第14話 好敵手
ユウトによって勝手に命名された、カイの右腕〝エム〟は怒りを露わにさせていた。
「……てめぇは、確実にぶっ殺す!」
「やってみろドM野郎!返り討ちにしてやるよ!」
「てめぇ……言葉の意味も知らない癖しやがって調子に乗ってんじゃねぇ!」
先程まで炎を纏っていなかった右の小手に、黒い炎が纏われた。
左手の炎よりもドス黒い色をしている炎は、左手に纏わせた炎よりも荒々しく燃えていた。
「俺の利き腕は右だからな!こっからが、本当の殺し合いだ!」
そう言い放ったエムは、前方に向かって蹴り飛び、ユウトとの距離を一気に詰めた。
「さぁ!吹っ飛べ!」
通常時の倍以上に両手の炎を膨張させ、両手を前に翳した。
「くっ!」
両手の炎が重なり合うと、炎の内部で小さな爆発を数回繰り返し混ざり合った炎の渦は、火炎の柱のように前方へと放たれ、ユウトは一瞬で火炎に呑み込まれた。
(炎の柱内で、小さな爆発が何度も繰り返し起きているのか!)
ユウトの周囲で小さな爆発が何度も繰り返され、爆発によって火力も増大し続けていた。
(あっつ!いってぇ!……くそっ!こんな炎、全部凍り付いてしまえっ!)
ユウトを包んでいた炎は、ユウトの属性によって一瞬で結晶化すると、次の瞬間には跡形もなく砕け散っていた。
エムはユウトが結晶を砕き、外に出て来る瞬間を狙って再びユウトに向け両手を翳した。
「跡形もなく!塵になりやがれ!」
エムの腕に纏っていた炎が消え、突如大きな黒い火球がユウトの頭上目掛けて数発降り注いだ。
「くっ!」
結晶化した炎から脱出したユウトは、身を屈めると同時に両手を上に翳し、自身を守るように結晶の盾を創り出した。
結晶の盾で身を守ったユウトに向けて落下した火球は、盾に接触すると同時に結晶化した炎を粉々に砕く程の爆発を引き起こした。
一方向のみを防いでいたユウトは、周囲に落下した火球による爆風を防ぐ事が出来ず、燃え滾る炎に呑み込まれて行った。
「二番煎じが通じると思ってたのか?お前の防御策を把握した今、範囲の限られたチンケな盾じゃ俺の攻撃を防ぐ事は出来ねぇよ」
黒煙の漂う空間を観察していたエムは、両手に赤黒い火球三球ずつ作り出し、駄目押しの火球を黒煙内に投げ放った。
放たれた火球が黒煙内に入った瞬間、赤い閃光が周囲に放たれると同時に爆発した。
周囲に発せられた爆風によって、三階にある全てのガラスは砕け散り、床や天井は黒く染まり、階層内は爆発による熱波によって高温になっていた。
「この程度で、くたばるタマじゃねぇだろ?知ってんだよ……さっさと立ち上がって俺と戦いやがれっ!」
エムが怒号を発した瞬間、立ち込めていた黒煙を貫くように結晶拳を加速させたユウトが現れた。
『加速する結晶拳』
全身に火傷を負っていたユウトは、傷付いていない自分自身を創造した後、黒煙の外で発せられたエムの声で位置を確認すると同時に拳を加速させていた。
突如現れたユウトに向けて不敵な笑みを浮かべたエムは、自身に向けられた右拳を両手で受け止めると同時に拳に向けて赤黒い炎を放った。
「がっ!」
加速した拳を受け止めたエムは、後方へと吹き飛ばされ、予想外の反撃によって全身を燃やされたユウトは呻き声を上げながらその場に倒れ込んだ。
「攻撃する人間はな……相手から反撃される事を考えて戦う必要があんだよ」
拳による攻撃を反撃によって軽減したエムは、ゆっくりと立ち上がり燃え盛るユウトを見据えていた。
数秒後、全身を燃やしていた炎は消滅し、ユウトの身体に残った火傷も跡形もなく消えていた。
「まだくたばるなよ?……殺し合いは始まったばかりなんだからな」
そう言うとエムは、再びユウトに向け両手を翳した。
「さあ、次はどう避ける?」
先程と同様にエムの腕に纏っていた炎が消え、ユウトの頭上に大きな黒い火球が数発作り出されると同時にユウト目掛けて降り注いだ。
(属性の消費が激しい今、あの攻撃をまともに喰らうのは不味い……何か、盾以外の防御策を)
そう考えたユウトの脳裏を過ったのは、ルミナに残された資料に記載された、日本を覆う障壁だった。
「結晶の盾が通用しないのなら」
日本の障壁を意識したユウトは、自身の周囲を覆う半透明な障壁を創造した。
放たれた火球は障壁を巻き込むように爆発したが、ユウトが展開した障壁に傷一つ付ける事は出来なかった。
「チッ!臆病者が!ビビってんじゃねぇ!」
エムは右腕を再び炎で包み込むと、障壁内にいるユウトに向けて渾身の力で殴りかかった。
ユウトに向け放たれた拳は直前の障壁に衝突して爆発したが、やはり障壁に傷を付ける事は出来なかった。
(なんなんだこの壁は!硬いなんてもんじゃねぇぞ!)
ユウトが周囲に創り出した障壁は、結晶の盾とは特性が異なる。
結晶の盾は耐久度が低下した分だけ、持ち主から属性を得る事で受けた損傷を瞬時に回復する事が出来る為、破壊する事は不可能に近いが防御範囲が狭く盾のある一方向のみに限定される。
しかし障壁の場合は、任意の範囲を覆うように展開する事が出来る上に、上限値を超える攻撃でなければ破壊されないという特性を有している為、破壊するには創造主であるユウトの力を上回る力によって攻撃しなければならない。
欠点として、障壁の場合は上限値以上の攻撃を受けた瞬間に粉々に砕けてしまう為、格上相手の戦闘には向かない。
「この障壁による防御を、お前の攻撃が突破する事は出来ない!」
『対なる加速する結晶拳 』
障壁内にいるユウトの両手が加速すると、茫然としているエムの腹部に向けて加速した両拳によって突かれ、衝撃によって再び階段があった場所まで吹き飛ばされた。
「ぐっ!……かはぁっ!」
(強敵と戦えている事は嬉しいが、この成長速度はなんだ!)
「今まで攻撃を与えられていた事が、奇跡みてぇじゃねぇかよ……クソが!」
焼け焦げた床に力無く転がったエムは、腕を支えにゆっくりと上体を起こした。
「おいっ!お前何で、カイと一緒にいるんだ!お前が強い奴と死ぬ程戦いたいと思ってる変態ならカイと戦えば良いだろ!」
数十メートル程吹き飛んだエムに向けて、ユウトは疑問に感じていた事について問い掛けた。
「うる……せぇよ。俺には、〝弟子〟を殺す趣味がねぇだけだ」
フラフラと立ち上がったエムは、掠れた声で質問に答えた。
「カイが弟子?お前とカイは同い年ぐらいに見えるんだが?」
「俺の方が、属性が開花する以前は強かったからな。それに、俺はあいつと出会うまでは話にすらならねぇ雑魚共を大勢殺して回ってたんだ……実戦に於いてはあいつよりも先輩だった」
―*―*―*―*―
「あ?なんだてめぇ……俺に何か様か?」
六年前のある日、路地裏にいたエムの周りには数人の男達が血塗れで転がっていた。
既に事切れている男達は、全員胸部に刃物が深々と刺さっている状態で倒れていた。
そんな血生臭さの充満した薄暗い路地裏に、〝二人の少年〟が訪れた。
「お前一人で、これ全部やったのか?」
少年の内の一人であるカイが、問い掛けると衣服に返り血を浴びたエムは、興味本位でカイの質問に答え始めた。
「ああ、このゴミの話か。俺一人に決まってんだろ?こんなカス……いや、路地裏で燻ってやがるゴミの掃除なんて俺一人で事足りる。息をする粗大ゴミを、誰も掃除しねぇから俺がやってんだ……立派だろ?」
そう言うとエムは、近くにあった一人の男性の死体を力強く蹴り嘲笑っていた。
「ひっ!」
カイの背に隠れた少年は、小さく声を上げるとエムの行動を恐れるように身体を隠していた。
「俺にも、教えてくれないか?——を——する方法を」
カイの言葉を聞いたエムは、唖然とした表情でカイに視線を合わせた。
「は?……なんだお前いきなり、そんなもん自分で勝手に身につけろ!」
「俺は、この世界のゴミを一掃する為の技術が欲しい。お前に教える気が無いなら、俺はお前を見て勝手に身に付けてやる」
エムの怒号に気圧される事なく、カイは真剣な表情でエムに告げた。
エムは大きな溜息を吐き、カイの横を素通りして路地裏から出て行こうとした所で足を止めた。
「ゴミの掃除も、少し面倒だと思い始めた頃だったからな。仕方ねぇ、お前に俺の掃除を手伝わせてやるよ!見返りは、そうだな……世界のゴミ掃除とやらで強い奴と戦えりゃあそれで良い」
そう言い残し路地裏から立ち去ったエムと、後追ったカイともう一人の少年は降り注ぐ太陽の光の中へと姿を消していった。
―*―*―*―*―
「あいつの成長は、お前程じゃ無いがなかなかの成長速度だった。あいつが俺の替わりにゴミ掃除をして、強い奴がいたら俺が相手をした」
痛みを押し殺しながら淡々と話を続けていたエムは、そこでピタリと言葉を止めた後、暗い面持ちで言葉を続けた。
「だが、属性が開花した時のあいつは〝絶望したような目〟をして自分の開花した属性を見ていた。まぁその後の掃除が、かなり捗っていつの間にか俺以上の力を身につけていたがな」
「……」
ユウトは真剣な面持ちのまま、静かにエムの話を聞いていた。
「カイと俺の関係は話した。これでお前も、心置きなく全力で俺と戦えんだろ?」
エムはそう言うと、再び両拳に黒く澱んだ炎の属性を纏わせた。
エムに合わせるように、ユウトも周囲を囲んだ障壁を解除し、両手に氷の属性を纏わせた。
「なんだ?臆病な壁を出してなくて良いのか?」
「本気のぶつかり合いに、障壁なんて野暮だろ」
エムの言葉に対して、ユウトは真剣な表情で応えた。
その言葉に、数秒間唖然としていたエムだったが、ユウトの行動を見て不敵な笑みを浮かべた。
「最初に壁を出したてめえがそれを言うか?全くよ……てめぇはムカつく野郎だが……おもしれぇ!最高の好敵手って奴を今見つけられたぜ!カイの奴には感謝しねぇとなぁ!」
エムの属性が小手の周辺で荒々しく燃え、両拳に纏った炎の中で小さな爆発が何度も繰り返されていた。
「お前がもう一度、カイに会う事が出来ればな!」
そう叫んだユウトの周囲には冷気が広がり、周囲の床を凍てつかせた。
戦いの第二ラウンドが始まろうとしたその時、ユウトの頬に一筋の涙が流れた。
御拝読頂きありがとうございます。
今回は、カイとエムの師弟関係が少し語られました。今回の最後は、次回のお話に繋がってきますので楽しみにしていてください。
次回 第15話 咎人
お楽しみに!




