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創造した物はこの世に無い物だった  作者: ゴシック@S_kononai
第2章 紡がれる希望
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第97話 過去と未来

 俺の中に残された、記憶。


「……うぅ」


「っ!エリー!」


 俺達がロシアの光拠点アプラリュート・ヌイへ向かっていた道中、アナスタシアさんの娘であるエリーは、うめき声をあげながら前のめりに倒れ込んだ。


「この症状……エリーの属性開花障害とは違う」


 属性開花障害とは、属性が開花していない状態で、身体能力のみが開花する筈だった属性に応じて変化する病気だ。


 しかし、エリーの属性開花障害は通常の症状とは異なり、身体能力の低下と共に生命維持機能が常人よりも低下する異例な病状だった。


 外部からの水のマイナス属性による治癒のみでは延命出来ない症状に対し、臓器に直接属性を送り込む治療を行なう俺の元に、アナスタシアさんが直接依頼に来た事が、全ての始まりだった。


「呼吸の乱れ、心拍数の低下……」


 (属性アレルギーなのか?だが、エリーの属性は開花しない筈だ)


 属性開花障害は、症状が沈静化した後であっても、属性が開花する事はない。


 しかしエリーの現在の症状は、属性アレルギーと呼ばれる病気の症状と酷似していた。


 属性アレルギーの発症例は少ないが、開花した属性が体質に適さず血圧の低下及び意識レベルの低下を起こす。


 (本来なら、治癒属性を有する他の医療部達に任せる所だが)


 属性アレルギーが発症した場合、本来であれば属性の随時解放、及び水属性による肉体の回復を行ない続ける治療法が一般的だった。


「おいっ!デェニ、戦場で考え事をしている場合かっ!」


 他の隊員達が遠方の爆発を見ている最中、俺は倒れたエリーの治療を始める為に、持参していた白いケースを開けた。


 その中には、属性抽出様の注射針と、抽出した属性を保存する為の全属性に対応する細長い容器を取り出した。


「誰かっ!すまないが近くにいる炎属性の人から属性を貰って来てくれないかっ!」


 (アレルギー症状の緩和方法は、患者の症状から判断出来る)


 高熱を出しているエリーのアレルギーは、炎属性による症状だと判断した俺は、炎属性を有していない医療部隊の人間に、周辺にいる可能性がある炎属性を保有する人間を探す様に依頼した。


「お前、気は確かなのか!?」


「俺は本気で頼んでるんだっ!」


「頑固者が、俺達の治癒属性に頼れば良いだろっ!」


「お前達の治癒じゃ、確実性が無いと言ったんだ!」


 その言葉を聞いた医療部隊の人間達は、全員が怪訝そうな表情を浮かべ、数人は俺の近くから離れて行った。


「デェニ、俺達が治癒属性を使っている間に死ぬと考えてるな?持続的に治癒属性を使わないと、完治しないからな……属性アレルギーは」


「ここは戦場だ。誰が死んでも可笑しくはない……だから確実性の高い治療を行なう為に、炎属性の人間を探してくれと頼んでるんだっ!」


 名前すら忘れてしまったが、金髪の男は小さく溜息を吐き、エリーを抱き抱えた状態で座っている俺に背を向けた。


「なら言わせて貰う。戦場では、生存確率の高い人間を生かせ……エリーは、もう助からない」


「っ!?ふざけるなぁっ!!」


 協力の意志が無い男に対して憤りを感じた俺は、人生で初めて出したと思える程の怒号を発していた。


「救える方法があると言っただろ!お前らのやろうとしている事は、ただの責務放棄だろ!」


「戦場で、助けを求めている人は山程いる。数秒が生死の境目であるこの場には、他に救うべき人がいるだろ?」


 そう告げた金髪の男が指差したのは、依然として属性のぶつかり合う音が聞こえる戦場だった。


「アナスタシアさんが、己の命より大切にしていた家族だぞ!……俺達が一番救わなければならない命だろ!」


 呼吸の荒いエリーに会話が聞こえない様に、耳を塞ぐ形で抱き抱えた俺を見ていた男は、再び溜息を吐きエリーを指差した。


「俺達が敬愛していたのは、女王であるアナスタシア様だ。それに……エリーが短命なのは、医療部隊の人間なら誰もが知っていた事……それを無理矢理延命させていたのは、お前だ」


 アナスタシアさんだけを見て、延命を望まれ生きて来たエリーの命を軽んじている男の言葉に、俺の感情は怒り一色に染められていた。


「功績が全てか?力が全てか?……ふざけるな……エリーは、まだ子どもだぞ!」


「短命な子どもに、一国の未来が託せると思うのか?そんな考えが出来る人間は、お前だけだ」


 幼い子どもの命を見捨てる理由に、国すらも持ち出した男の言葉を理解出来なかった俺は、再び声が枯れる程の声で反発した。


「一国の未来?それが、命を救わない理由になるとでも思っているのか……何故お前らは、そんな理由で一人の少女を見殺しに出来る!……命に大小を付けられるんだっ!」


 俺の言葉を聞いた男の目は冷たく、俺に何を言っても無意味である事を悟ったかのように、大きく溜息を吐いた。


「はぁ……話は終わりだ。俺達は、今も戦っている前線部隊の援護に向かう」


 視線を合わせていた男は、その一言を口にすると、俺に背を向けて歩き始めた。


「待てっ!せめて人を、人を呼んで来いっ!」


 左手を伸ばし、声を上げながら男を静止させた俺に、男は呆れたような声で言葉を返して来た。


「デェニ……前に言ったろ?お前の医療方法に対して、嫌悪の念を抱いている人間がいると」


 他の医療部隊の隊員が離れていく中、そう言って顔を向けた金髪の男の瞳は、俺に憎しみでも抱いているかのようにドス黒く染まっていた。


「思い返してみろ……お前に協力する人間が、医療部隊にはいなかった事を」


 最後に小さな言葉を吐き捨てた男は、先に離れた隊員達の元へと駆けて行った。


「待てっ、待ってくれ!俺は死んだって構わない……だが、エリーは生きられる……これからの人生なんだっ!」


 聞こえている筈の声を無視した男は、何度も声を上がる俺の視界から徐々に姿を消して行った。


「……俺一人でも、救ってみせる」


「はぁ、はぁ。せん……せい?」


 耳を塞いでいたエリーの声が聞こえた俺は、瞳を合わせる様にエリーの体勢を変えた。


「どうした、エリー?」


「私は、十分長生き出来たから……もう、大丈夫だよ?」


 突然の告げられた言葉に驚いた俺は、溢れ出る涙を溢しながら首を左右に振った。


「何言ってるんだ?これからじゃないか……エリーは、全ての生き物と仲良くなりたいんだろ?」


「えへへ……動物さんの言葉とか、気持ちが分かれば……もっと早く……仲良くなれたんだけどなぁ」


 苦しんげな呼吸を繰り返しながら、作り笑みを浮かべるエリーを見た俺は、この子を生かす為に再び立ち上がった。


「大丈夫だ。その願いは叶う……俺が、叶えてみせる」


 戦場なら、多くの属性を有する人間達が戦っている。


 そう考えた俺は、危険を承知で戦火の中へと駆け出した。


「あそこで倒れている人達は……」


 数分後、前線へと辿り着いた俺は、煙の立ち込めた戦場に倒れ込んでいる、白服の人間を視認した。


 (戦死した隊員か……体温から考えて、死後数分といった所か)


 隊員達の出身国を調べるよりも先に、俺は抽出様の注射器を用いて、属性の種類を確認し始めた。


「属性は、雷……水……炎!」


 三人目で漸く炎の属性が獲得した俺は、属性が使用可能かどうかを目視で確認した。


「まだ属性は使える……これで属性は確保出来た」


 抽出した属性が沸々と燃えている事を確認した俺は、近場で寝かせていたエリーの元へと歩み寄った。


「応急処置を始める。雷属性で麻痺させるから、少し眠たくなるぞ」


「……せんせ……」


 心配そうに此方を見つめるエリーを安心させる為に笑みを浮かべた俺は、エリーの身体に支障が無い程度の雷属性を調整しながら左手に纏わせた。


「エリー、今度会う時は、元気になった時だ」


「はぁ、はぁ……うん」


 エリーの身体に微量の電流を流した俺は、意識を失った事を確認した後に、上衣を捲り上げ、過剰に体温が上がっている部分を探り始めた。


 (何処だ?呼吸の乱れ具合から、肺か……心臓部周辺の内臓機能が低下していると推測していたが)


 右手で胸部の体温を確認していたデェニは、肺門近くの気管部が強く発熱している事を認識した。


 (やはり、肺に通じる器官だったか。発熱部位の影響を受けて、肺機能が低下していると考えるのが妥当か)


「おいっ!まだ生き残りがいるぞっ!」


 症状を確認し終え、属性を注入し始めたと同時に、背後から闇の人間と思しき声が聞こえた。


「くっ!」


 (臓器に注入する属性は、臓器に影響を与えない為に、かなり繊細な微調整をしながら注入する必要がある……注入中は、目を離す訳にはいかない)


 今考えれば、衰弱しているエリーの為とはいえ、戦地の中で応急処置を始めたのは迂闊としか言えない。


 だが、もしあの時応急処置を行なっていなければ、エリーは確実に死んでいた。


「そのまま続けてろっ!今お前の首を切ってやるからよっ!」


 背後から歓喜した男の声が聞こえた俺は、ふと過去にアナスタシアさんから告げた言葉を思い出した。


『もしも私に何かあった時は、エリーの事をお願いね?』


 その時俺は、背後に視線を向ける事を諦めた。


 (……俺は、死んでも構わない)


 未来のあるエリーを死なせる事は、医師としてだけでなく、俺自身として決して許される事では無かったからだ。


「ぐあっ!」


 首元に冷たい風を感じた瞬間、背後から男の苦しむ声が聞こえた。


「間に合った……大丈夫ですか?」


 属性注入を終えた俺が後ろに身体を向けるとそこには、周囲に青色の水球を浮かべた百六十センチ程の女性が、黄色の電撃を纏わせた白い刃を携えた右手を払いながら、座り込んだ俺に視線を合わせていた。


「貴女は……まさか、世界最強のパートナー」


 腰まで流れるクリーム色の髪を靡かせ、蒼い瞳をこちらに向ける女性の隊服には、金色の双頭の鷲が特徴的なロシアの国章が縫い付けられていた。


―*―*―*―*―


 ラザレット島


「僕達が、終わらせるっ!」


 その叫びと同時に、足元に存在する床を凍結させる程の冷気を発したシュウの右眼は、先程まで緋色とは異なる青白磁(せいはくじ)へと変化していた。


「随分と、大口を叩く様になったな……あの時のお前とは外見以外、何もかも違って見える」


 チェルノボグの脳裏には、イタリア南部で初めて会った頃のシュウを思い出していた。


 敬愛していた兄に見捨てられた事に絶望し、声を掛けた直後に大泣きした心の弱いシュウに対して、手を差し伸べた当時のチェルノボグは、アナスタシア達を失った頃の自分自身の面影が重なっていた。


 しかし、正面に立っているシュウの瞳からは、以前の様な弱さを一切感じる事が出来ないチェルノボグは、シュウが精神的にも大きく成長している事を理解した。


「だが、得たばかりの属性で俺に勝てるとでも?」


 その瞬間、その場に立っていたチェルノボグの首元に白い刃が迫った。


 ガキィィィィン


 右側から迫る刃を、チェルノボグが左手に持つ黒い(ガバメント)の銃身で防いだ瞬間、周囲に鈍い金属音が響き渡った。


「今、シュウが言った筈です。僕〝達〟が終わらせるって」


「フッ、属性による加速を多少は扱えるようになったか……俺と戦う事を想定していれば、当然か」


 その言葉を言い終えると同時に、右手に握っていた白い(ガバメント)をミールに向け、弾丸を一発放った。


 しかし、雷の皇帝(グロム・ツァーリ)が展開している空間内で放たれた弾丸がミールに届く事は無く、弾丸は銃口を離れた瞬間に鋭い雷の槍によって砕かれた。


「チッ!」


 (凋落(ちょうらく)の女帝……奴を先に消しておくべきだったか)


 飛び散る電撃を回避するように飛び退いたチェルノボグは、黒い(ガバメント)の銃口を再びミールに向けた。


「ふっ……属性の成長したお前に、一つ面白い事を教えてやろう」


「面白い事?」


 銃口を向けられていたミールは、警戒心を緩める事なく、正面に立っているチェルノボグの言葉に耳を傾けた。


「お前は何故、時越(じえつ)雷帝(らいてい)と呼ばれたスラーヴァが死んだのか、知っているか?」


「……父さんが?」


 互いに自身の属性残量を確認しながら言葉を交わす中、チェルノボグの脳裏には、アナスタシア達との十二年前の記憶が昨日の事のように鮮明に再生されていた。


「〝属性力で負けた〟からさ……今よりも一世代前の、〝闇の神〟にな」


 その言葉を口にしたチェルノボグは、印象に残っている記憶の一つを呼び起こしていた。


 記憶の中では、黄金色(こがねいろ)の髪を靡かせた白藍(しらあい)の瞳の女性が、新たに闇の神となった者の使者の一人として、チェルノボグの研究所へと訪れていた。


『生前の我は、二人の人間の手によって敗北を知った。一人は我の属性より僅かに劣り、最後は我の雷によって灰となり、一人は逃げた臆病者達を守る為、力の勝る我にその命を捧げ、代わりに我の内にある属性を暴発させ相打った』


 淡々と興味なさげに話す女性の横には、闇の神の使者である水の属性によって姿形を変化させる男が、不敵な笑みを浮かべながら、チェルノボグの様子を伺っていた。

 御拝読頂きありがとうございます。


 今回は、チェルノボグの過去に関するお話にソーンの母が登場し、対峙するミールに対して父親の死因を告げるまでのお話でした。


 最近は戦闘よりも過去編がメインになっていますが、次回も引き続き過去編&チェルノボクvsミール達になる予定です!


 Twitterにて登場人物についての説明等を画像を使いながら行なっていきます。

 ゴシック@S.kononai


 次回 第98話 永遠の忠義

 お楽しみに!

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