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創造した物はこの世に無い物だった  作者: ゴシック@S_kononai
第2章 紡がれる希望
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第74話 休息

 ロシア本部ツァリ・グラード 修練場


 甲高い音を立てて砕け散った結晶の小部屋の中から現れた白い隊服を身に付けた二人は、互いの存在を確認する為に、同時に互いの視線を合わせた。


「おかえり……レン」


 そう告げて優しげに微笑んだユウキと顔を合わせていたレンは、同じように明るい笑みを浮かべた。


「ただいま……そして、ありがとうユウキ」


 周囲に煌めく結晶が舞う中、二人は互いの生存を心から喜んでいた。


「無事に——」


 無事に帰還した二人に、ヨハネが声を掛けようとした瞬間、ユウキの身体が前に傾いた。


「おっと!」


 レンに身体を預けるように倒れ込んだユウキを受け止めたレンは、支えたままの状態でゆっくりと身を屈めた。


「本当にありがとう……ユウキ」


 レンの腕の中で気を失っているユウキは、属性の消耗により呼吸を乱し、疲労の色を滲ませていた。


「直ぐに治癒室へ向かおう。レン、場所は分かるか?」


「ヨハネ……ごめん、把握してない」


「そうか。ならば、私が案内しよう」


 そう告げたヨハネは、修練場の出口へと歩みを進めた。


「ごめんね。ちょっと失礼するよ」


 ヨハネの背中を見つめていたレンは、ユウキの四十五キロ前後の身体を両手で抱える様に持ち上げた。


「すぐに治癒室で休ませてあげるからね」


 修練場の扉を開けたまま待機しているヨハネの元へ歩み始めたレンを、修練場に残った二人は静かに見つめていた。


 (ヨハネさん、ユウキ達が戻って来てから妙にソワソワしていた気がしたけど……もしかして、レンさんに遠慮して)


 ヨハネの行動を見ていたユウは、疲労困憊のユウキを一刻も早く治癒室に搬送したい感情を抑えていたのでは無いかと推察していた。


 (それに、二人の会話を聞いた感じだと初対面ではな無さそう)


「……ハッ!私達も二人を追いましょう」


 考え込んでいたユウは、修練場の扉が閉まりつつある事に気付き、慌てて膝の上で寝ているウトの身体を揺すった。


「うゃ?」


 膝枕でスヤスヤと眠っていたウトを起こしたユウは、寝惚けているウトの身体を無理矢理起こすと、長時間の正座によってビリビリと痺れる脚をぎこちなく動かしながらヨハネ達の後を追った。


「ふぁ〜〜〜はぅ」


 身体を伸ばしながら大きく欠伸をしたウトは、涙目を擦りながら扉に向けて駆けて行くユウの背中を見つめていた。


「イタリアに行くのは明日か……私も、気持ちの準備をしておかないと」


 ユウを追うように扉へと歩みを進めたウトは、イタリアで始まる戦いの事だけでなく、転生した時から覚悟していた事について思いを巡らせていた。


―*―*―*―*―


 ロシア本部ツァリ・グラード 治癒室


「ここだ。先に入って回復結晶の状況を確認する」


 レンを治癒室へと案内したヨハネは、南部で行なわれた戦闘によって回復結晶が不足している事を危惧し、レンよりも先に治癒室へ入室した。


「失礼するよ……あれ?」


 ユウキの身体に気を配りながら慎重に移動していたレンは、ヨハネが治癒室に入ってから数十秒後に治癒室の扉を開けた。


 すると中には、ツァリ・グラードに所属する支援部隊の隊員達とヨハネの他に、見慣れた少女が立っていた。


「あれ?レンじゃないですか!」


 白い隊服を着たおかっぱの少女は、レンの声が聞こえると同時に濡羽色(ぬればいろ)の髪を揺らす様に身体ごとレンに向け、エメラルドのように鮮やかな緑色の瞳で二人を見つめた。


「ヒナじゃないか!なんで君がロシアに?」


「私ですか?それは……と、その前にユウキを回復結晶に入れましょう?」


 レンが両手で抱き上げていたユウキに視線を向けたヒナは、治癒室に設置されている回復結晶を左手で指差した。


「うん。そうだね」


 創造の世界で起きた事を知っているレンは、ヒナの提案を即座に承諾し、抱えていたユウキを回復結晶へと取り込ませた。


「後は、ユウキの属性が回復するまで待つだけだね」


 回復結晶の中で眠るユウキを見つめたレンは、事態が一旦落ち着いた事を理解すると同時に安堵の息を吐いた。


 それと殆ど同時期に、ヨハネ達を追いかけて来たユウ達二人が治癒室の扉を開けて入室した。


「色々あって遅れたけど……ヨハネ、久しぶりだね」


「そうだな。ユカリが導き手を継いだ頃だから、三年前になるか」


 ヨハネ達の会話を聞いたユウは、自身の予想通りに二人が初対面で無い事を知った。


「やっぱり二人は初対面では無かったんですね」


「ん?ああ。ユカリが導き手になった頃に、他国の主要人物達と現地で会談する機会が何度かあってね……ヨハネやアーミヤ達とは、その時に」


「そうだったんですか……ん?」


 レンに視線を向けていたユウは、レンの身体に隠れて見えていなかったヒナの存在に気が付いた。


「あれ……ヒナ?」


「昨日ぶりですね!ユウ……と」


 言葉を詰まらせたヒナの視線の先には、眠そうな顔をして回復結晶を見つめているウトの姿があった。


「この子の名前は、ウトって言います」


「初めまして」


「こちらこそ初めまして、ですウト。ルミナでは、少しバタバタしてましたから……挨拶しそびれてました」


 お詫びにと隊服のポケットから取り出した胡瓜(きゅうり)を手渡されたウトは、数秒間胡瓜(きゅうり)を見つめた後にカリカリと音を立てて食べ始めた。


「それで私がロシアに来ていた理由なんですけど、ロシア南部で負傷した隊員さん達の治癒が完了したので、その報告の為に来たんです」


 小動物のように胡瓜を食べているウトを見守っていたヒナは、レンからの質問を思い出し、視線をレンへと向けて理由を説明した。


「負傷兵に関する報告なら、総司令であるアーミヤにする筈だが?」


「はい。私もそう思って司令室に行ったんですけど……アーミヤは不在でした。なので、治癒室で業務を担当している隊員さんに情報を伝えておこうと思いまして」


 その言葉を聞いたヨハネは、アーミヤ達がソーン達の葬儀を行なっている事を思い出し、微かに表情を曇らせた。


「それで治癒室に来ていたんだね?」


「はい!」


 優しげに告げたレンに対して、ヒナは満面の笑みで返答した。


「ははは……君はいつでも元気だね」


「当然ですよ」


 そう告げて微かに表情を曇らせたヒナは、胸に左手を当てると静かに瞳を閉じて、日本の主力になった時の事を思い出していた。


「私の力は、沢山の人を心身共に癒す為にある。そんな私が、暗くなったら……癒す筈の人まで暗くなってしまいます。どんな時でも、心の支えになる事が私の……日本の主力としての役目ですから」


 再び開かれた瞳を見つめていたレンは、主力となったヒナの強い意志を感じていた。


「日本での出来事で、私は自分の心の弱さを知りましたから」


 弱体化したユカリが挫折し、創造されたユウトと創造主のユカリとの間に亀裂が生じた事で心を乱されたヒナは、冷静は判断が出来なかった自身の未熟さを痛感していた。


「ユカリと一緒に猛反省した私は、過去の私とは違います。なので……今の私は、ニューヒナです!」


 胸を張って宣言したヒナの表情は、普段通りの明るさを取り戻していた。


「そっか……僕も、ユウキに創造された新しいレンだから、お互いに初めましてかな?」


「ユウキが創造を?だから回復結晶に……」


 身体を回復結晶に向けたヒナは、結晶内で眠り続けているユウキを数秒間見つめていた。


「改めて宜しくですね!レン!」


 そう口にしたヒナは、満面の笑みを浮かべながらレンに向けて左手を差し出した。


「こちらこそ、宜しくね……ヒナ」


 レンとヒナが握手を交わしていると、回復結晶の中で眠っていたユウキの身体が徐々に砕け、中から眠った状態のユウトが姿を現した。


―*―*―*―*―


 ロシア本部ツァリ・グラード 入り口前


 ユウキの属性が安定し、ユウトの姿へと戻った同時刻、入り口で暇そうに空を見上げていたルアが突然周囲を見回し始めた。


「キュピーン⭐︎ユウトの反応をキャッチ〜♡」


 そう口にしたルアは、ツァリ・グラードの中へと勢い良く駆け込んた。


「ユウトォ〜待っててね〜♡」


 通路内に響き渡ったルアの甘い声は、治癒室を経由して修練場へ辿り着いたアーミヤ達二人にも聴こえていた。

 御拝読頂きありがとうございます。


 今回は、属性を使い切ったユウキを回復するべく訪れた治癒室でヒナと出会い、属性が多少回復したユウキの姿がユウトに戻るまでのお話でした。


 次回は、治癒室での話の続きと他の主力達のお話になる予定です。


 Twitterにて登場人物についての説明等を画像を使いながら行なっていきます。

 ゴシック@S.kononai


 次回 第75話 変化の刻

 お楽しみに!

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