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創造した物はこの世に無い物だった  作者: ゴシック@S_kononai
第2章 紡がれる希望
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第61話 時計の針は巻き戻せない

 ユウト達がロシアに到着した時間が遅かった事もあり、情報の共有は日を改めて行なわれる事になった。


 ユカリの案内でツァリ・グラード内にある来客用の寝室へと辿り着いたユウト達は、各々で食事と入浴を済ませると、あっという間に(とこ)()いた。


 到着する以前から眠りについているルアを含め、クレイドルから転移して来たユウト達は、アメリカで数度行なわれた戦闘に加え、転移時に生じる疲労が重なり、心身が限界を迎えていた為だ。


 ユウト達が寝静まった頃、白い寝衣(しんい)に着替えていたユウは、一人窓の外に広がる夜空を見つめながら静かに瞳を閉じていた。


 夜空を見つめて何かを覚悟するユウの姿を、青藍(せいらん)の寝衣に着替えて狸寝入(たぬきねい)りをしていたウトは、薄目を開けながら静かに見守っていた。


―*―*―*―*―


 ロシア本部ツァリ・グラード 会議室


 次の日、情報共有の場に集まったのはユウト、エム、シュウ、リエルの四名と、遅れてやってきたユカリの計五名だけだった。


 会議室を貸したアーミヤは、ユカリが創造したソーンとパベーダの墓がある中庭で、ミールと数名の関係者で葬儀(そうぎ)を行なっているとユカリの口から告げられた。


 その場に居なかったヨハネ達は、イタリア北部での戦闘に備える必要があると申し訳なさげに告げたユウと共に修練場へと向かった事を伝えた。


「分かりました。では……始めましょう」


 中央に設置された結晶の机を四方から囲む様に設置されたソファーに腰掛けた五名は、ユカリの発した言葉に小さく頷いた。


 そして、リエルを除く出席者四名は互いに知り得る情報を伝え合った。


 主力達が情報を伝え終えた頃には、会議室の窓が風に揺れる音が鮮明に聞こえる程の静寂に包まれていた。


「…………フィリアとは、ルクスを創造した当初……二年以上前に出会っていたんです」


 静寂を破るように口を開いたユカリは、顔を下に向けたままフィリアと出会った過去の記憶を思い出していた。


「フィリアは勉強熱心で、日々の鍛錬を(おこた)る事も無い一途で真面目な人でした……一度聞いた情報であっても手帳に記載して、私の属性を初めて聞いた時も目を輝かせていました」


 過去の記憶に自分自身を重ね合わせたユカリは、口にした説明を手帳に書き留めているフィリアの姿を見ていた。


 ルクスに所属していた時点で記憶している知識でありながら初めて聞いたかのように筆を滑らせ、ユカリの摩訶不思議(まかふしぎ)な属性について知った時は、属性の変異に関して興味を示していた。


 そんな姿を見守っていたユカリは、ユウトと同じ様に多くを学び、鍛錬を重ねるフィリアが今以上に成長すると信じて日本の主力に抜擢(ばってき)した。


「貴方との戦闘を切っ掛けに、単独行動が多かった入隊当時とは見違える程、フィリアは多くの隊員達と関わるようになりました」


 医務室で傷を癒したフィリアは、過去の自分自身と訣別(けつべつ)する為に主力だけでなく、一般隊員達との関わりを持つようになっていた。


「私とヒナも……沢山、助けられました」


 他国から日々送られる情報に手一杯だったユカリの作業を支援した事や、ヒナの農作業を手伝う等、フィリアはユカリ達の活動に多く関わっていた。


「短い時間ではありましたが、間違いなくフィリアは日本の主力として私の隣を歩んでくれた……大切な友人でした」


 日本の主力となった三名が命を落とした事を知ったユカリは寂寥感(せきりょうかん)と無力感に苛まれ、両手で顔を覆い涙を流していた。


「…………カイまで」


 フィリアとの思い出を言葉にして涙するユカリと対面する位置に座っていたユウトは、エムから告げられた情報が衝撃的だった事もあり、放心状態で中央の机を見つめたまま小さく言葉を発した。


「ああ……カイは死んだ」


 アメリカ側の情報を聞いて放心していたシュウとは異なり冷静さを保っていたエムは、ユウトの発した言葉を聞いた瞬間に言葉を返した。


「カイは一度転生してんだ。もう二度と蘇らねぇだろうな」


「エムお前……他人事みたいに言うなよな」


「真実だろうが」


 その言葉を聞いたユウトは、右側のソファーに右足を上にする様に足を組んで腰掛けるエムと睨み合った。


「てめぇこそ何なんだ?さっきの話を聞いた限りじゃあ、死んだレンの創造に失敗した挙句、てめぇを庇ったフィリアを死なせてよ……てめぇが殺した様なもんだろ」


「っ!なんだと!!」


 声を荒げたユウトは、立ち上がると同時に腰掛けるエムの胸倉に掴み掛かろうとしたが、エムは右足を勢い良く伸ばしユウトの腹を蹴り飛ばした。


「ぐはっ!」


「きゃっ!」


 蹴り飛ばされたユウトは、リエルと共に腰掛けていたソファーに激突し、置かれたソファーを後ろに倒しながら数回後転した。


 ユウトが蹴り飛ばされた後の事を予想したリエルは、ユウトが激突する瞬間にソファーから離れ、床に横たわったユウトを心配そうに見つめていた。


「……エム。暴力は——」


「コイツの為だ。訓練とでも思ってくれ」


 静止しようとしたユカリの言葉を遮ったエムは、視線をユウトに戻した。


「情けねぇんだよ……男の癖にウジウジと。てめぇにだって想定出来た事態だろうが!敵襲がある事も、弱体化した瞬間を狙われる事も」


「……」


 その場の全員が口を閉ざし沈黙する中、シュウは静かに顔を上げ対面する様にソファーに座るエムを見つめていた。


「てめぇの創造が絶対じゃねぇ事は、てめぇが一番知ってんだろうが!失敗した、死なせた……ウジウジと後悔する暇があるんなら、二度と下らねぇ誤ちをしねぇ覚悟を決めやがれ!」


 ソファーから立ち上がったエムは、顔を床に付けたまま倒れているユウトに歩み寄った。


「ったく……俺にこんな事言わせる程、莫迦(ばか)なのかてめぇはっ!」


 倒れ込んでいるユウトを掴み上げたエムは、胸倉を掴み上げながら鋭い眼差しをユウトに向けた。


「ユウト、お前は俺の知る人間の中で最も強い好敵手(ライバル)だろうがっ!……カイが死んで一番辛い思いをしたシュウが前を向く覚悟を決めたんだ。てめぇも日本の最強なら、国民全員の命を背負って生きる覚悟ぐらいしやがれっ!」


 エムの言葉を聞いたユウトは、逸らしていた瞳を見開き、ソファーに座っているシュウに視線を合わせた。


「決めたから……もう、立ち止まらないって」


 視線を合わせる事なく告げたシュウの右手には、カイが生前愛用していた九十センチ程の日本刀が握られていた。


「分かったろ。お前も……ユウキも、振り向いてばかりで暗闇を照らす微かな光にすら気付けねぇ」


 身体を揺すって意識を戻させたエムは、ユウトの中で塞ぎ込んでいるユウキに対しても怒りの言葉を発した。


「前を見ろっ!レンの創造は必ず成功する……仲間を守り、必ず全員生き延びる……俺の知っている好敵手(ユウト)なら、てめぇの事ぐらい、てめぇの意志で救って見せろっ!」


 その言葉を聞いた瞬間、ユウトの中に存在した霧のようなものが消え、身体の中から力が溢れてくる様な感覚を覚えた。


「…………ああ」


 小さな声で返事をしたユウトは、エムの目の前で甲高い音と共に全身が結晶化し砕け散った。


「っ!」


 胸倉を掴んでいた筈の手を戻したエムは、手に付いた結晶を払いながら目の前の単結晶に視線を向け、薄らと笑みを浮かべていた。


「三度目は……無しだ」


 パキィィィィン


 砕けた単結晶の中から現れたユウキは、レンから受け取った結晶のギメルリングを右手に握りながらエムに決意の眼差しを向けた。


「それでこそ……俺の好敵手(ライバル)だ」


「ちょっとやり過ぎだけど……なっ!」


 微笑みを向けたユウキは、お返しとばかりにエムの腹部に渾身の拳を入れた。


「ぐふっ!?」


 前屈みになったエムは、そのまま顔面から地面に倒れ込んだまま動かなくなった。


好敵手(おれ)からお前への感謝の一撃だ」


「ユウキも……やり過ぎだけど」


 一部始終を見守っていたシュウは、苦笑いを浮かべながら横たわるエムに近付き、身体を揺すっていた。


「き、気絶してる」


「……力を入れ過ぎた……ごめん、エム」


 ユウキは以前と同様の絡みをした感覚だったが、急成長を遂げたユウキの拳は、ある程度成長したエムの意識を飛ばす程の力に膨れ上がっていた。


「ユウキ…………レンの事は、貴方に任せます」


 震えた声を発し、涙に濡れた瞳を向けたユカリに、ユウキは力強く頷いた。


 創造を二人で行なう事は可能だが、その場合互いの意識が干渉し成功率が下がってしまう為、互いに強い想いで結び付いたユウキが単身で創造する事が最も最善の方法であった。


「ですが、無理はしないで下さいね。私の……前例がありますから」


「俺も重々承知しているさ。フィリアの事は、エムの言う通りだから」


 そう告げたユウキは会議室を後にすると、再びレンの創造を行う為の空間を確保する事が出来る修練場へと歩みを進めた。


―*―*―*―*―


 ロシア本部ツァリ・グラード 修練場


「覚悟は出来ているのか?」


 イタリア北部の戦闘に備えると言うユウに付き添ったヨハネは、突然の提案について本人に確認した。


「お前が提案した真剣を用いた戦闘訓練は、通常時の木刀とは違い命を落とす危険が存在すると言う事だ。転生し多少の弱体化はあれど……私の実力を、お前達も理解しているだろう?」


 ヨハネと向き合う様に立っていた二人は、アメリカ北部で目にしたヨハネの姿を思い出し、柄を握る力を強めた。


「私は、貴女とルアの戦いを観ていて……実力の差を実感しました。今の実力のままでは、ユウトの足枷にしかならない……これから先の戦いを生き残る事が出来ないと」


 二人の戦闘を眺めていたユウが感じた無力感は、過去にユカリと対峙したユウトを見ていた時よりも大きなモノとなっていた。


 ユウにとってヨハネの存在は、それ程までに強烈で、強大なモノだった。


「私達はユウトの力になりたい。私達を導いてくれた光……私達の歩く道を照らしてくれる光」


 紅桔梗(べにききょう)の瞳でヨハネを見つめていたウトは、右手に握る白色の刀身を有した刀の切っ先をヨハネに向けた。


「道を照らしてくれる光を見失わない為に、私はもっと強くなる。そして……目に映る人を護る勇気も身に付ける」


 そう口にしたウトは、数秒ユウに視線を向けた後、再びヨハネに視線を戻した。


「これからの戦いは、世界最強と同等の力を持つ相手と対峙する事が予想出来ます。だからこそ、世界最強と呼ばれた貴女と戦える力が、勇気があるかを……私は知りたい」


 そう口にしたユウは、紅緋(べにひ)紺碧(こんぺき)双刃(そうじん)をヨハネに向けて構えた。


「そうか……覚悟は出来ているようだな」


 小さく息を吐いたヨハネは、放置され不機嫌になっているルアの側に立て掛けていた紅蓮の大刀の柄を握った。


「ならば……来いっ!」


 大刀を構えたヨハネが大きな声を発すると同時に、二人はヨハネに向けて力強い一歩を踏み込んだ。

 御拝読頂きありがとうございます。


 今回は、ユウト達が互いの情報を共有し、修練場にいるヨハネ達は今後の戦いに備えた模擬戦を開始するまでのお話でした。


 次回は、ヨハネvsユウ&ウトのお話になります!


 Twitterにて登場人物についての説明等を画像を使いながら行なっていきます。

 ゴシック@S.kononai


 次回 第62話 双星

 お楽しみに!

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