ようこそ。【従魔の友】へ!
……
暗くなってからアカリノの町に到着したカンイチ。
街灯がともる町中を門衛に教えられた順路で進む。暗いがそれなりに人通りも多い。帰って来て一杯やってる冒険者のチーム。こっちのテーブルは家族連れだろうか。
急ぎ足で門へと向かう冒険者の集団、夜の採取等もあるのだろうか。小腹が減ったがとりあえず宿を押さえねばと道を急ぐ。下手をすれば野宿となろう。
そして、従魔も泊まれる宿として紹介された、その名も【従魔の友 アカリノ店】に到着した。
「アカリノ店? チェーン店じゃろか……。まぁいいで。すいませ~~ん!」
「はいはい。いらっしゃいませ。お、おお! 素晴らしい……。なんと美しい狼か……」
店の店主だろうか。50過ぎの男性。カンイチそっちのけでクマとハナを食い入るように見つめる。触りたいのだろうが、ぐっと手を押さえ我慢しているようだ。
「あ、あの……」
「あ? ああ。すいません。お客様。あまりにも美しい魔獣で。思わず……。ははははは」
クマたちが褒められたのだ満更ではないが
「犬……なんじゃが。っと、今晩泊まれますか?」
「ええ。大丈夫ですよ。空いてる部屋はと……。そうそう、従魔と泊まれる部屋もありますが。普段はどのように?」
「外に繋いでいるが」
「う~ん。大型のゲージ二つ……か。なら、上げちゃった方が安上がりかもしれませんね」
「部屋に……か?」
「ええ。そういうお客様は多いですよ。ちゃんと、生活の場は区切られていますし。いかがいたしましょう?」
「じゃ、それでお願いします」
「時間が時間ですので夕食の準備はできませんが?」
「構わない。お願いする」
料金は前金。身分証の提示も義務付けられている。手際よく処理し、主自ら、部屋まで案内してくれるようだ。
従魔も泊まれるといったから、臭いやらが気になったが全く無く、ギルドの宿舎よりもずっと奇麗なくらいだ。
狼型の残り香についても聞いてみたら、
「この業界、上級の”洗浄”魔法が使えないと話になりませんよ。当店は何処よりもその点は重要視しております。他の街でも【従魔の友】を見かけましたら、是非によろしくお願いします」
やはり、チェーン店のようだ。
「どうぞこちらへ」
……
案内された部屋は一階の奥。広い三和土間があり、寝床もある。部屋も寝室、従魔の餌用か、小さなキッチン、そして、従魔と過ごす広い居間。
「出来ましたら、”洗浄”をお願いします。もちろん、当宿でもサービスで行っておりますれば」
「ではお願いできるか?」
「はい。”洗浄”!」
ホコリ塗れ、足など泥が付いていたが奇麗になった。
――ふむ。これが”洗浄魔法”か。なるほど。アールが風呂代わりに使ってるというが……。これじゃぁ寂しいの。やはり湯につかってこその風呂じゃな!
礼を言い、多少の心付け(チップ)を。
「ほほぅ。けっこう広いな。ま、宿泊費も高いがの。値段だけの広さともいえようか。そういえば、日本でも犬と一緒のホテルやら旅館も流行っておったな。まさか、こっちの世界で体験することとなるとはの。のぉ。クマ、ハナぁ?」
”ぅぉおふぅ” ”わふぅ”
カンイチだって年数回。村のジジババと温泉行ったり、役場や、農協の研修と称した慰安旅行に同行したりしたものだ。その時は、近所の連中がクマとハナの面倒をみてくれていた。
「うん? ちゃんと従魔用のトイレもあるのかの。恐れ入ったわい。しかし、日本のお宿とそう変わらんの。凄いのぉ。テレビがないくらいかのぉ」
もちろん、カンイチの泊まった部屋は、”高級”の部類の部屋だ。大抵の魔獣使いは従魔は一頭。小動物ネズミ使いやら、鳥使いはその限りではないが。
魔力を纏うクマ、ハナ共に大型の”肉食””魔物”系に分類される。すると大型従魔用の堅牢なゲージが二つ必要になる。その経費を考えると、こちらの方が少々安いというわけだ。
クマとハナに水と、餌の肉塊を与える。今日は鹿肉だ。
「どれ。ワシも飯を食って来るかの。大人しくしておれよ」
””ぅおふ!””
クマもハナも腹が膨れたのか、ゆっくりと横になる。
――今日は予想以上に走ったから犬達も疲れただろう。ワシも心地よい倦怠感があるのぉ。良い運動だったわい。
普通の”人”に比べれば”異常”なのだが。
休憩をそんなに取らないので下手をしたら馬以上の速さだ。いくら若いカンイチでも無理だろう。これも***の魔改造の成果に他ならない。加護ともいえるが。
犬達は、上位神の”加護”といったところか。
早速と食事にと町に繰り出すカンイチ。先ほどから少し時間も過ぎ、人通りも減り、家族連れ等の姿はない。夜の町といったところか。
――ほほぅ。フィヤマも賑やかじゃったが、こっちも”冒険者の町”なんじゃろな。飲み屋や食堂やらは盛況のようじゃ。ふむ? あの女子たちは娼婦か。まさに金を落す町じゃな
そんな町だが、カンイチに声をかける者はいない。そりゃ、若造君だ。金だって持っていそうに見えない。装備だって軽装。冒険者と言っても信じてもらえないだろう。
体は若いが、中身は枯れてるカンイチさんだ。そんなことはどうでもいい。とにかく、空腹を満たすために、食堂を物色中だ。
ふと、懐かしい、一杯飲み屋の焼鳥屋風の店が目に入る。
「ふむ。ここでいいか」
「いらっしゃい!」
適当に串焼きを頼み、蒸留酒をもらう。どうしてもこの世界、肉ばかり。モロキューが食べたいと漏らすカンイチだった。
……
……
早朝。朝食の準備があったのでそれを腹に納める。もちろん宿泊客、”人用”のものだ。
クマたちの分もあるとは驚いた。残飯じゃなく、専用の食事だそうだ。野菜も適度に入っていて、むしろカンイチが見ても美味そうだ。量も見合った分あり、ドライや、レトルトで売っていれば欲しいくらいだ。
クマたちも美味そうに平らげた。
「さて。と。世話になった」
「はい。またのご来店お待ちしております。カンイチ様」
そして、スタンプカードを渡される。
「全店共通になっております。期限もありません故、是非ともご利用ください」
――まさか、他所の世界に来てまでスタンプカードにお目にかかるとはのぉ
そう思わずにはいられなかった




