アカリノの町
……
「お~~い! 近づいてもいいかぁ!」
犬達と戯れながらゴブリン観察をしているカンイチの元に、二人の冒険者風の男が両手を上げて近づいてきた。
身を起こし、手を振り了解の意を告げる。
「やっぱり人だったな。街道から外れてるからゴブリンかとも思ったよ。はっはっは」
「ふふふ。こんなところで寝てると危ないぞ? 坊主」
「大丈夫じゃ……です。犬もいるし。で、あなた達は?」
「ならいいがな。てか、犬かそれ。美しいな」
「俺達は、アカリノの冒険者ギルドに所属してるものさ。坊主はこの辺りの村の子か? ひとつ聞くが、ゴブリン見かけねぇか?」
――隣領のギルドの調査依頼を受けた連中かの。ハンスさんも依頼で出すいうていたなぁ
まさに今、観察していた対象だ。
「ああ、ゴブリンの情勢調査かの。結構居るの……いますね。ここからよく見えますよ」
「何?」
「ど、どこに?」
「良くごらんなさい。草原の所々に。ほら、あの大きな木の右手」
とりあえず、木の下で固まっているゴブリンの集団を指さす。動きがない。彼らも休憩してるのだろう。
「ん……いるな。休憩してるのか? 談笑にも見えるわ……。良い目してるな坊主」
「ああ、成人したら、うちのギルドに来いよ。俺らが面倒見るぞ」
「あ、ファヤマのギルドに所属してるんですよ」
「そいつは残念。同業者か。で、貴殿も偵察に?」
カンイチをここらの近隣の村のただの坊主と思っていたが、冒険者と知り、態度を改める二人。
ランク云々を置いておいても、同じギルド員。成人同士。礼儀もある。
「いえ。犬の散歩と隣り町までどれくらいあるかの調査です。私、フィヤマきて日が浅いから」
「散歩……ね。依頼を受けてないなら、ゴブリンの場所、聞いても良いかい?」
「ええ。構いませんよ。今見えるのは30人くらいでしょうか。4~5人でまとまって行動してるようですね。あそこと、池の端、あの小高い所は兎がいるようで、狩りをしてるようです。見ていればそのうち出てきますよ」
――瓶やらのガラスがあるんじゃ。磨いて望遠鏡を作るのもありじゃな。もうあるかもしれないがの
一ヶ所一ヶ所、指し示し、解説を加える。タイミングよく、兎を追って、5人のゴブリンが姿を現した。内一人は立派なペニスケースを付けている。
「なるほど。ありがとう」
「おいおい。本当に兎とってるな……。集落が移動してるかもしれんな」
「一応、知らせるか」
「そっちの領の対応はどうです?」
気になったので聞いてみる。リストからザッとは聞いているが。
「機密……。といっても、一緒だよ。そちらと。グダグダさ」
「おい!」
「良いだろうさ。どこぞで被害が出るまで動きはないだろうさ。俺達もこの依頼が終わったら内陸に行くつもりさ。強制依頼出る前にね。指名依頼断って金貨とられるのも馬鹿らしいしな」
「……まぁな。縁故があれば別だが、貴殿も出てきたばかりでアレだが、さっさと拠点変えるんだな。じゃ、行くわ」
「ええ。ご苦労様です」
二人の斥候職と思われる冒険者の背を見送る。
「ふぅむ。内陸にかのぉ」
……
「ふむ……どちらの領主様も住民の命より、小金の方が大事そうじゃわい。住んどる下々にゃ、災難じゃな」
隣の領の冒険者に合えたということは、隣の領地に属する町が近いはずだ。このまま進んでみようかと思案する。
「よし。試しに行ってみるかの。行くぞ! クマ! ハナ!」
”ぅうおふ!” ”わぅふ!”
再び、街道を南進。恐ろしい速さで駆けていく。ハイエルフのアールカエフが付いていくのがやっとの速度だ。***の魔改造のおかげだろう。
進行中、馬車とすれ違う際は減速する。クマたちがいるからだ。馬が驚いて暴走なんて御免だから。
日も落ちようという時に、視界に灯りが多数。中々の大きな町だ。途中、小さい農村やらも見たが、この町はフィヤマくらいはありそうだ。
「ふぅむ。ちと間に合わんか知れんが、門までは行ってみるか」
折角ここまで来たと明かりの灯る町まで急ぎ駆ける。
カンイチの予想に反して、未だ門は開いており、多くの審査待ちの列ができていた。好都合と、列の一番後ろに並ぶ。
――おそらく、先の冒険者の言っていたアカリノの町だと思うが……。ほう、この町の守りはフィヤマより堅牢そうじゃな。板壁かと思ったが厚さがある
見た目は木の板だが、その上を人が歩いている。所々欠けてるところは、矢などを放つ”狭間”だろう。木枠に土を詰め押し固めた版築か、魔法の世界故の造形だろう。
「うむ。これだけ立派な城壁があれば、大事無いな。うむ。立派じゃ」
そう考えると、こちらは備えがあり、フィヤマはない。それが同じ土俵でやり合ってるのだ。アホらしいことこの上ない。益々、フィヤマの領主に嫌気がさしてくるカンイチ。未だに会ったことすらないが。
「ふぅ。次ぎ。坊主と……狼? 狼使いか? 坊主」
「はい。審査お願いします」
ぺこりと頭を下げ、懐からギルド証を出す。
「ほぅ。その年で”銀”か? 魔獣使いか? ま、飯の種だな。で、この町に何しに?」
「内陸からフィヤマに出て来たばかりなので……。周辺の町、村くらいは巡って確認しておこうと」
「なるほどな。良い心がけだな。特に怪しい素振りも無し。町中じゃ狼、ちゃんと繋いでおけよ」
「はい」
「隊長、念のため……」
「ん? おお。坊主悪いがそいつに触ってくれ」
「はい」
例の鑑定の魔道具。もちろん変化なし。
「うん。問題なし。ようこそ、アカリノの街へ」
ついでに、クマたちを連れて泊まれる宿を聞く。ちょっとお高いが、従魔連れ専用の宿を紹介してもらえた。厩でもと思ったが、狼型だとその後が馬が怯えて使えなくなると。
――そういえば、ギルドでも言われたの。馬を繋ぐところはダメじゃと。
では、その専用宿は? と疑問に思ったが、宿で聞けばいいかと、門を後にする。
カンイチにとってフィヤマ以外、初の大きな町だ。何が待ち構えているのか




