ゴブリン。
……
ハンス達に見送られ、南門をくぐる。
混雑する街道。多くの馬車や、徒歩の人が目的地を目指す。
クマたちの手綱を装着。手綱を引きながらそのまま走る。キャラバンや、乗合馬車の馬達を驚かさないように注意しながら。
記憶にある場所(この星に降り立った地点)を越え、更に南下。段々と馬車もまばらになり、道も広くなってきた。
そろそろクマ達を解放しようと停止した時
「うん?」
平原の遠い地点に蠢く緑の点が数個。保護色になってるが確実に動いているのでわかる。
何じゃあれはと、じっと目を凝らす。その動く物体は、薄汚れたくすんだ緑色の肌をした人のような生物だった。
「うぅん? あれが、ゴブリン……とかいう連中かの?」
集団で兎か何かを狩っているようだ。
「まんま、人じゃな。ありゃ……」
神による魔改造、そして若返りのお陰か、随分と眼も良くなったようだ。遠くのゴブリンと思しき生物もはっきりとよく見える。
槍や、木の棒等の道具をつかい、兎であろう小動物を追う。
ほとんどがマッ裸、腰ミノのようなものを履いた者だが、中には大きな羊の角のようなベニスケースを局部に当てて隠してる者もいる。
カンイチには局部を隠しているのが羞恥から来てるのか、儀式的なものかまでは判らない。が、彼らなりの文化、生活があるのは確かなようだ。
「う~~む。彼らを虫やら動物のように駆除するというのは憚られるのぉ」
カンイチの実直な感想だ。ハンス達は、”匹”と言っていたが、カンイチの中では”人”に思えてならない。正対し敵対するのならともかく今の所は
「ま、とりあえず先に行こうかの」
……
しばらく先に進み、小高い丘のふもとに。休憩がてら街道から外れ、その丘に登る。
そこから眺める景色。概ね、『不死の山』を含む山脈のすそ野まではカンイチも一回通った草原、川も数本確認できる。湧水も豊富なのだろう。平地に背の高い葦などが生えてる辺りは沼なのだろうか。
よく見ると、冒険者が通る道なのか、獣道なのか数筋の道らしきものも確認できる。
今度は反対側、人の領域に目を向ける。土塁だろうか。延々と続く壁。そう、フィヤマ。最前線の町というのは比喩ではなく、人の世界と”山”を隔絶する土塁の”山”側、外側にせり出して存在する町なのだ。
ちなみに、フィヤマ。その歴史は古い。開拓当時は、鬱蒼と茂る森の中にあった。周りの木を切り倒し、山から下りてくる魔獣を屠り、堅牢な城壁を築く。
高名な冒険者のチームが”冒険者の為の中継所”として開いた村だった。
富を生む村と、周囲の領主、国からの圧力。交易封鎖などもされたが、何とか自給自足をし耐えてきたが。寄る年波に勝てず、その高名な冒険者も老い、系譜も尽きようという時に、合併前の冒険者ギルドと今の領主の先祖が謀り、どさくさ紛れにかすめ取ったという訳だ。
その手柄で子爵家となった、現在の領主の先祖。その富を生かし、多くの開拓民を受け入れ、町も大きくし、さらに発展。そして、その手柄をもって伯爵家へと昇爵される。
その伯爵家も今や、風前の灯火。近年の当主は小物揃い。今代は小金集めの愚物として揶揄されるほどだ。
「ふぅむ。国の防壁の外にあるんじゃなぁ。ま、あの程度の土塁にどれだけの防ぐ効果があるかはわからんがの。さてと。飯にするか」
……。
クマたちに猪肉の塊を放り、木皿に水を入れる。
カンイチも収納から串焼きを数本取り出し腹に入れる。その間も山の方を見つめる。
ジッとよく見れば、例のゴブリンの姿も散見できる。
ふと思う彼らは何を求めてるのかと。熊などの野生生物は食料だが彼らもそうなのだろうか。決して森の恵みは少なくはない。むしろ、町なんかに来ても何もない。
”人”自体が主食の食材、好んで人間を食うというのなら話は変わるが。実際は兎を追っている。
生存エリアの拡大という事だろうか。何せ平地は利用価値が高い。もっとも彼らに畑作という文化があるかは謎だが。
「ほぅ。狩にしたって十分に連携もとれておるの。それに随分と手先も器用そうにも見える。なるほど、彼らも集まりゃ、軍隊みたいなものじゃな。隊長らしきものも見えるの。小隊長みたいなものかの?」
茶をすすりながらゴブリンたちの観察を続ける。
動物扱いで動物として対処すれば手痛い目に合うだろう。相手を”人”、知恵ある者。その集団”軍”として対応せねばと。
観れば観るほど、人族以上の身体能力、スタミナ。
「そういえばヨルグさんは領主やら王のような個体や上位? 個体、魔法使いなんぞもいると言っておったな。兵隊であれかぁ。という事は、皆が思ってる以上の難敵じゃぁなかろうか? 魔法使いなんてフィヤマの町じゃ聞かんぞ? そいつが、ゴブリンの中にはおるのか……」
一応はアールカエフも精霊魔法の大家なのだが。カンイチの推察通り、魔法使い自体少ない。特級の職種だ。
「確かに、統率された軍とすりゃぁ、対処が難しいのぉ。倍の兵力が要るのじゃなかろうか」
ゴブリンの狩りの様子を見てそう思えてならないカンイチだった。




