レストランへ
……
町に戻り宿舎にクマたちを繋ぎ、早速とアールカエフを送りついでに彼女自慢の、件のレストラン店に行くことに。
裏路地の、さらに細々とした路地に入りあちらこちら、角を何度も曲がり
「ここだよ。ここ! うん? どうしたのさ? カンイチ?」
ようやくレストランに到着したようだ。が、
「いや……のぉ。さっぱり道順が分からなかったのだが?」
もう薄暗い夕の時刻。しかも細かい道をちょこちょこと先導してきたアールカエフ。
カンイチの気のせいか、似たような路地を何回か通ってきた気がして少々混乱している。方向には自信があったのだが。裏路地なので似たような道が多くあるのだろうと
それが顔に出たのだろう。
「うん? 日中来れば大丈夫だよ? また今度一緒に来よう! なぁに、僕もちょっと迷ったから。同じところ3回も通っちゃったよ。はっはっはっは! 本当はもっと早く着く予定だったんだよ?」
どうやら、アールカエフも迷っていたようだ。
――迷っていたのかい。それでか……その割には堂々と先導していたのぉ、アールよぉ
と、心の中で言っておく。
「また昼にでも一緒にこよう! そしたら大丈夫だよ? きっと?」
無言で”コクリ”と頷くカンイチであった。
改めて件の店を見る。この辺りは小さい店が軒を連ねている横町の一角。密集と言ってもいい。その中に埋もれてる店舗。色見や装飾もシックにまとめられており、おしゃれな隠れ家的レストランだ。
「ふ~~ん。『ハインツのレストラン』……か」
「そうそう。ここだよ。ここ。僕も良く来るんだよ。あれ? ……? この前来たのって去年? その前だっけ?」
1000年の生の内なら、1年や2年どうということも無いのだろうと納得する。
もちろんそのことは口には出さない。そっと、アールカエフを促す。
「うん? まぁ、どっちでもいいだろう。さ! 入ろう、カンイチ!」
”かららん……”
「ほう……」
店内は表とは別に活気にあふれており席は、ほぼ埋まっている。そして腹に響く良い香りが立ち込める。
「混んでるねぇ。が、安心してくれたまえ!」
「いらっしゃいませぇ。あらぁ、アールカエフ様。お久しぶりですねぇ」
フロアの担当のメイド姿の若い女性が店の奥から現れた。
「あれ? そんなに来てなかったっけ? 僕? はっはっは! 紹介しよう。僕の友人のカンイチだ! 冒険者をしてるんだ」
「カンイチです。よろしく」
「あらぁ、アールカエフ様が友人を? しかも男性? むふふ……」
「うん? そんなんじゃないさ。1000歳の婆ぁだよ。僕は。で、オーナーは生きてるかい?」
「もう……。ちゃんと生きてますよぉ。どうぞ。奥へ」
メイドさんに案内され、混雑してる店内を奥へと進む。
「こんなに奥行きがあったのだな……ウナギの寝床のようじゃな」
ぼそりと漏らすカンイチ。カンイチの言う通り、思った以上に奥行きがある。テーブル席も多い。
――厨房はさらに奥なのだろうか。これだけのテーブルをさばくのにはそれなりの厨房もあるはずじゃな
「厨房は隣の建物。奥はワインの貯蔵庫だよ」
心を読んだのか、キョロキョロ視線を巡らすカンイチが気になったのかアールカエフが応える。
「それじゃ、思ったより大きいのじゃな」
「うんうん。外の見た目はボロッちいけど、凄いレストランだよ。ここは」
「そりゃぁ楽しみじゃな」
「うん! 安いし。美味いし。我儘利くし? 最高のレストランさ!」
「おいおい、アールよ。あまり無理なことはじゃなぁ」
それは無かろうと少々呆れた顔のカンイチ。
そしてアールカエフも呆れ顔。
「何言ってるんだい? 僕達はここに我儘言いに来たんだよ? カンイチ? わかっているのかね?」
「むぅ」
アールカエフの言う通りだった。
”ぎぃぃぃぃ”
「どうぞ。先にワイン持ってきますね。銘柄はお任せでいいですか?」
「そうだね! で、料理の前に、オーナーのオヤジをお願いするよ」
「はい。アールカエフ様。解りましたぁ。オーナー一人前!」
オーナーの丸焼きか? などと余計なことを考えるカンイチ。
改めて案内された部屋を見回す。表の席の調度品より華美というより剛健、重厚。価値としてもあるのだろう。調度品も嫌みの無いもので揃えられており、落ち着く空間になっている。
テーブルは大小二台のみ。
「特別室という奴かの。貴族とかやらの」
「うん? 貴族なんかこんなとこに来ないよ? ここは僕の部屋さ」
「は? 年に一回もこないのにか?」
――はた迷惑な……
と。声に出さずに言っておく
「うん? 言葉が足りなかったね。ここの先祖に手を貸してね。それ以降、同族のエルフ族専用の部屋を作ってもらったんだよ。ほら、僕達が食事をしてると、どうしても目立つし注目されるだろう? 落ち着かなくてね」
「ふむ。それなら納得だわ」
「ま、どのみち、そんなに来てないだろうけどねぇ。基本、エルフ族は引きこもりだし? カンイチの思う通りに、はた迷惑かもしれないね」
くつくつと笑うアールカエフ。
「アールよ……そう、ほいほいワシの心を読まないでもらいたいのじゃが?」
「うん? 読んでないよ? 顔にシッカリ書いてあるもの。結構分かりやすいぞ。カンイチ。ふふふ」
「……」
つくづく敵わんと実感するカンイチであった。




