アール推参!
……
貴族街にやってきたカンイチ。門で無礼な門衛に腹を立て一悶着。
「では手数だが、カンイチ。この後ギルドに使いをやって確認後――」
「必要ないよ! そんなもの。正真正銘、”銀”の冒険者だよ! カンイチは! この僕が保証しよう!」
「は?」
いつの間にやら、カンイチのそばに現れた、翡翠色の髪の持ち主。ハイエルフのアールカエフ。
満面の笑みと共に。
「うん? アールよ。何時の間に湧いてきたのじゃ?」
そんなアールカエフを見てぼそりと呟くカンイチ。
「湧いてきたって……酷いな! カンイチ! 僕は虫じゃぁないぞ! まぁ、いいや。いやぁ~~精霊たちが、文字通り飛んで知らせに来てくれてね! カンイチがここの門番と揉めて面白そうだと! それで、わざわざ見物に来たんだよ! ほんとうに面白いなぁ! カンイチは! はっはっは!」
――ちっとも面白くないわい
「で、何時からいたんじゃ? アールよ」
「うん? 門番が槍に手を掛けたあたり? もう一寸で面白い乱闘騒ぎになったのに……。ロデリアの所のお坊ちゃんが現れて邪魔しちゃったんだよぉ。全く! 興冷めだね!」
――まったくぅ? それはワシの台詞じゃわい!
と、心の中で文句を言っておく
「そういう時はもっと早く助けてくれるものじゃないかの? 友であればのぉ」
苦言を呈すも、
「ええ! 面白そうじゃん! それにカンイチなら余裕でしょ? こんなの。カンイチが出奔するときは付き合うよ? 一緒に追っ手をバッタバッタと駆逐しながら逃げようじゃないか! うん? いいな! それ!」
と、アールカエフはあっけらかんとしたものだ。
「はぁ? ちいとも良くは聞こえんがの。本気かよ。アールよ……」
そこに、
「ア、アールカエフ様、これは?」
カンイチとアールカエフの夫婦漫才のような会話にやっと、一言入れることに成功するガルディア子爵。
「うん? 君……アウディ君だっけ? ロデリアの子の?」
「アウディは父、ロデリアは祖父となります。私は、マケインと申します。アールカエフ様」
「なんとぉ! あ~~あ。年は取りたくないね! 君のおじいさん? とは少々付き合いがあってね。で、まだ生きてるの?」
「20年前に」
「そう。そりゃ残念だ。で、経緯はカンイチが言った通りだよ? 無能の門番の無礼な行い。貴族にでもなったかのような高慢、愚行。そんで一触即発! これから乱闘だ! やっほーー! と盛り上がった所で、君が来たって訳。以上!」
「おいおい。アールよ……うん?」
カンイチの視線の先。子爵の言葉以上に更に真っ青になって震える門衛たち。それだけ”英雄”、ハイエルフのアールカエフの言葉は重い。
気まぐれ、エルフ至上主義で、人などなんとも思わなないエルフだ。このまま魔法で首を落とされかねない。
「し、して、アールカエフ様、そのカンイチは?」
「僕の友だ! 共同経営者と言ってもいい。引っ立てるなんて言ってくれるなよ? ぅうん? で、彼の推薦人は確か……ハンス君だったかな? 若くして”銀”の腕前の冒険者さ。キミも執務席でこれからカンイチの名を良く聞くようになると思うよ? じゃ、行こうか! カンイチ!」
「うむ。して、子爵様、もう行っても良いかの?」
一応確認のために子爵に声を掛ける。
「あ、ああ。構わぬ」
「じゃ、行こう! カンイチ!」
「お、応」
カンイチの手を取り群衆の中に。バッと割れる人の群れ。
……
「ふぅ。背筋が凍ったわ。さすが、アールカエフ様、ハイエルフの”英雄”か……」
そう。引っ立てるなと言われたときに殺気を当てられた。『僕のおもちゃを取り上げるなよ?』そんなふうに思えてならない…
それと、その”英雄”アールカエフを、気やすく『アール』。そう愛称で呼ぶ銀ランクの冒険者。見かけと中身は別もの。老成した雰囲気を纏う不思議な青年。
覗いた瞳、強い。恐らくはアールカエフ様が言う通り、この門衛、うちの護衛すらも太刀打ちできぬだろう。なぜかそう思わせる不思議な男だった。家臣に欲しいくらいに。
「子爵、この門衛ら、どういたしましょう?」
「ひ……」
「お、お許しを……」
今も震え、跪く門衛たち。当初の威張り散らしていた姿はどこにもない。
「先方も、もう良いと言っておる。厳重注意としておこう。後の始末はハンスに任せよう。後でここでの出来事、詳細に認め送っておけ」
「はっ!」
「それにしても、子爵。あのアールカエフ様が出てくるとは。それに友……と。あのカンイチとは一体……」
「ふむ。その点は私も知りたいところだ。しかし、領主の耳に入れていいものか……」
『冒険者』の町である、フィヤマ。領主も重く関心を寄せている点だ。本来なら報告して、町のためにと何らかの対策をするのだが。
アールカエフに友と言わせる、凄腕の冒険者カンイチ。彼の処遇に頭を悩ませる子爵。何かあればアールカエフが出て来る。そういう事だ。
そしてアールカエフの予言、『執務室でカンイチの名を聞くようになる……』はこの後、現実のものとなる。




