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二(かんいち)爺ちゃん、異世界へ!(仮)  作者: ぷりぷり星人
序章
9/520

決着……そして。

 ……


 「もうちょいで古井戸じゃぁ! がんばれぇ! 皆の衆! ! ぐふぅ。がはぁ! く、くそ!」

 

 化け物熊の肩の上から檄を飛ばすかんいち

 そろそろ限界、いや、とっくに限界なんか超えている。興奮状態、脳内麻薬か何かのお陰でなんとか動けているだけにすぎない。かんいちは、99の老人だ。熊の一撃も食らっている。

 

 「おう! かんいっつぁん、こっちさ来い! 急げぇ!」

 と、避難を促すタツ。

 「ワシの事は気にすんなぁ! もう、どのみち持たんわ! くっ、ごふぅ!」

 かんいちの口のわきから赤い筋が流れる。こっちもとうとう肋骨が肺腑を貫いたらしい。

 「気にするなぁ! ワシごと撃ってもかまわん! こいつだけは、こいつだけはぁ! ここで仕留めるんじゃぁ! 手負いで逃がしちゃ、なんねぇ! 絶対逃がしちゃなんえぇぞぉおおお!」

 

 そう、この熊は”再生”する。しかも頭が良い。逃がせば傷を癒し、今回の事を”学習”するだろう。そして、より狂暴に、そして”狡猾”な”人食いの化物”になるに違いない。

 

 「んな事できっかぁ! くそぉ! かんいっつぁんが動きとめてる隙に、掌、吹っ飛ばすぞぉ! 狙えたら頭行け! 目だ! 目ぇ! 目なら弾ぁ入るだろぉ!」 

 「「おう!」」

 再び撃ち込まれるライフル弾。右腕の一つ。顔を守っていた掌がはじけ飛ぶ! 散弾のようだ。そろそろタツたち猟師の体力もライフルの銃身も限界だろう

 

 ”ぐごあがががぁああ!”

 

 掌を吹き飛ばされ、熊が怯んだところに、

 

 ”ずばぁん!”

 タツの放ったライフル弾が熊の左目を捉えた!

 

 ”がっこん! こか! がか! かか……”

 

 奇妙な反響音と共に熊が動きをピタリと止める。

 頭蓋内で弾丸が暴れ回ったのだろう。その証拠に打ち込まれた眼窩と両の鼻からおびただしい泡を含んだ黒血があふれてきた。

 弾が抜けなかったところ見ると頭蓋骨は余程の厚さ、強度なのだろう。

 

 「や、やったぞ! やったぁ! この畜生めぇ! かんいっつぁぁん!」

 タツの勝利の雄叫びが木魂す!

 「やりおった!」

 仲間の猟師たちも歓声を上げる! やった! ついにやったのだ! 仲間を食らった化物熊を!

 

 「ま、まだじゃぁ! このまま井戸に……井戸に! ぐぅ……」

 「かんいちさん? で、でも、こいつもう……」

 だらりと首を垂れる熊。未だに出血も甚だしい。

 

 「わからんわ! 脳みそだって生えて来るかもわからん! 必要なら後で掘り出せばよかろうが! 今は、今は! 皆の安全のために井戸に落して――ごふぅ! く、クソ……く、車で蓋しておこう……頼む……」

 「だ、大丈夫か、かんいっつぁん――」

 心配げに声を掛けるタツ。が、タツもわかっている……

 「ふぅ。もうダメじゃな。肺やられちまったわ……くふぅ。もう、長くは持たんじゃろ。……ま、ジジィの最後の頼み、遺言じゃ……皆の衆、頼む。こいつは井戸に……」

 「「「……ぉ、応!」」」

 誰もが、老人の顔を視、口を閉ざす。ここにいる皆も解っている。もうかんいちは助からない――と。


 ……


 村人総出で、使っていなかった井戸に被せてあったトタン板を取り払う。真っ暗な大穴が口を開ける。昔に掘られた露天掘りの井戸故、開口部は十分に大きい。

 

 今のところ熊に動きはない。死んでいるようだ。が、村民と猟師たちは、”遺言”といったかんいちの指示に黙々と従う。二台の車で熊の亡骸を押し、井戸へと。

 ……

 

 「ふぅぅぅ……」

 大きく一つ息を吐く。かんいち。最早、痛みも感じないのか。一仕事終えたスッキリとした表情だ。

 「かんいっつぁん……。す、すまねぇ……」

 タツをはじめ、猟師仲間が囲む。

 「……いや。ええ。ええんじゃぁ、タツよぉ。んまぁ100年の人生の仕舞には格好よかろうが?」  

 「ああ、格好良すぎじゃわ! かんいちさん」

 「まだ99だろう? かんいっつぁんよぉ」

 「だのぉ。ぬかったわ……。タツ。は、はっはは……。ん?」

 ”わんわんわん”

 ”ぐるるるぅ……”

 猟師たちの悲しみの中、すこし離れていた所に集められていた猟犬たちが一斉に吠えだす!

 

 ”どくん!” 

 

 「! なに!」

 「な!」

 

 ”どっくん!” ”どぉっくん!” ”どっくん!”

 

 ここまで聞こえてくる、爆発のような振動。これは鼓動か?! そして――

 

 ”ざざざざざぁぁぁ!”

 

 先程までただ押されていた化け物熊。井戸の手前、四肢いや、六肢を踏ん張り車を止める!

 

 ブルりと身体を揺すり、立ち上がる化け物熊――。その頭はつぶれている。そう。死んでいるように見える。

 だが! もう一つ! もう一つ! 一回り小さい頭が右肩の上に鎮座している。生えて来たのか! 人面瘡じんめんそういや、熊面瘡とでも言うべきか!

 

 「頭も二つかぁ! こんなのありかぁ! こんのぉ! 化け物がぁ!」

 「のけ! タツ! じゅう……がはぁ、銃もってこい! 銃だ! 急げ! くそぉ!」

 傍らに置いてあった銃剣を構え、再び熊と対峙するかんいち

 周りにいた猟師たちも慌てて銃を手に取る。

 

 化け物熊もまた、己に一回は死をもたらしたカンイチの前に。その目は赤光を放ち怒りに燃えている。

 が、まだ死後硬直から目覚めたばかりなのか、失った血が多過ぎたせいか、動きはコマ送りのようにぎこちない。

 

 「ふっ。まさか生き返るとはのぉ……。お互い、くたばり損ない同士……いい加減、ケリつけようかのぉ」

  

 ”ぐがるるるるる……”

 

 一歩、二歩と、かんいちに近づいてくる化け物熊。熊もまた覚悟を決めたか。完全に目の前の”敵”を排除するつもりのようだ。

 かんいちもまた、銃剣を構え待つ。

 

 「「……」」

 

 間合いに入ると同時に、かんいちに向けて振られる右腕。散弾銃の銃身で受け、そのまま抵抗なく熊の攻撃を受け流す。次に繰り出された化け物熊のもう一本の右腕。これもその攻撃の向きに逆らわずに銃身で流す。熊はその勢いのままバランスを崩し、ごろり、地を転がる。

 最後の力か、余分な力が抜けているのか、熊の攻撃を綺麗に受け流すかんいち

 

 ”ぐぉおおぉぉ!”

 

 忌々し気に吠え、再びかんいちの前に向かい合う熊。今度は、高度からの渾身の打ち下ろしを繰り出すも、するりと躱される。その手のひらは地を大げさに叩く。

 

 ”ぐごぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおぉぉぉぉん!”

 

 三度の怒りの咆哮か。例の身体が硬直する”吠え”だ。

 周りの者達の動きは止まり、手にした得物を取り落とす。

 が、かんいちにはどこ吹く風。二度目の時同様、まったくかんいちには響かない。更には、痛みすらも。

 一歩、熊へと踏み込む。

 

 「ふぅむ? 死を覚悟し、怖いものが無いというのも不思議な感覚じゃのぉ。全てが止まって見えるわい」

 

 落ち付き払い、真っすぐ前を見る瞳――その瞳には怒りに燃える熊の紅い瞳が映る。かんいちの瞳は全てを受け入れているように。その全てを映す


 ”ぐぐぉぉおお!?”

 

 まったく怯まない。小さな”餌”。

 目の前の餌に恐怖を感じ、竦んだのか、熊が動きを止める。

 

 「ワシが怖いか? 熊よ。どれ」

 

 ”ぐぉ……お”

 

 ”どどぉん!”

 至近距離、歪んだ銃身から弾丸を放つ。運良く暴発せずに放たれた弾丸は右肩の熊の顔面の半分の肉を吹き飛ばす。硬い頭骨に守られて脳にダメージはないようだが、大いにゆすられ、脳震盪くらいは起こしているだろう。

 

 「ほぅ……未だ死ねぬか。ある意味、不憫じゃぁのぉ、お主も。ワシも一緒に逝ってやる。成仏せぇよ」

 

 何もない……恐怖も無い。そのまま歩を進め、立ち尽くす化け物熊の正面より懐に潜り込む

 そして熊の心臓の辺りに刃を当て、そのまま肋骨に当たらぬように山刀を差しこむ。何の抵抗も無く皮を裂き、肉を割り、筋肉を断ち、刀身の全てが飲み込まれる。

 

 ”ぐ? ぉお??? おがふぁがががぁああ!”

 

 「よう、頑張ったのぉ。熊よ」

 

 ”ぐらり”

 巨大な熊が崩れるように倒れる。古井戸へと。落ちる寸前。強敵と呼べるかんいちを熊が求めたのか。それとも最後の意地か。伸ばした左腕がかんいちを抱き寄せるように――

 

 「かんいっつぁん!」

 

 タツの叫びも空しく、かんいちと熊はそのまま古井戸へと落ちていった。    <つづく>

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