爆売れ!?褌!
……
今日は珍しくカンイチの姿はギルドの図書室にあった。
朝から籠って本を読み漁り勉強。知識の補填を行っている。
主に農地収得の条項やら、近隣の村々の産物。そして国境を越えた隣接国。この世界の”常識”を求めて。
元々老眼故、敬遠していたが、今思えば若い身体で老眼も無い。本を避ける理由も無いという訳だ。
「凄いのぉ~~ちゃんと読めるわい。神様の御加護じゃな。ありがたや。ありがたや。ふむふむ……」
しかも神の御加護の翻訳機能でどんな文字でも読める。古文書だってスラスラと。
カンイチが調べたところによると、一応は申請すれば何処にでも町は開ける。だが、貴族や国の横やりがありそうな雰囲気だ。それは多くの歴史書を見るに明らかだ。
最初は援助を渋るが、出来てから貴族の息のかかった村長を勝手に任命し送りつけたり、挙句は軍で奪ったりと。所謂、『漁夫の利』方式が横行しているようだ。
高名な冒険者チームの家族で起こした町なども最初は突っぱねていられるが、何年、何十年、何百年。その国がある限り世代を超えて狙われるのだ。結局、国に飲まれて、各領地に編入されてしまう。
そのプレッシャーに勝てた町。逆に国軍を破り、国も喰らい今も存在しているのが、”傭兵国”と呼ばれるバジョウマ・カディキ国だという。
これらの面倒ごとを躱すためには、防衛、自給自足が前提となる。
領地に関しては、何処の国にも属さない、【不死の山】を含む【剣の山脈】。そして、この大陸の北に広がる、【雪原の原】、東に広がる深い森。通称【入らずの森】、南の活火山帯【灼熱の大地】などにしか見いだせない。が、過酷な環境、魔物が跋扈する地帯。そもそも人が住むのは不可能と言われている。
『海を渡った大地』の伝説もあるが、全くの未知数だ。
であれば、カンイチの脳裏の中では、【剣の山脈】が第一候補となる。第二候補は【入らずの森】かと。他の二ヶ所はどうにも農業なんぞやれる雰囲気ではない。ビニルハウスがあれば【雪原の原】も候補に入るのだろうが。
防衛という点でも第一候補の【剣の山脈】の山岳地帯の方が楽だろうと。
「ううん? 何も村を作るわけじゃないしの。そこまで大げさに考えずとも良いな……」
ふと我に返る。大き目の家庭菜園があれば事足りるだろうと。なにも戦争しながら、大規模農業がしたいわけじゃないと。だとしても、金の匂いを嗅ぎ付ければ何某かの妨害は入る
「う~~ん。帯に短し襷に長しじゃのぉ。ま、なるようにしかならんわ」
とりあえず、畑は忘れることにした。金が溜まってからだと
お次は、産物。お茶については、南。ギリギリ国境の辺りに産地があるようだ。馬車でひと月とあるが、クマたちと走っていけば知れてるだろう。他にもソバの実やら、北部の穀倉地帯の作物の種類を書き留める。粟やらはあるが、今の所、残念だが米はない。ちらと、家畜の餌用の穀物に似た作物の描写を発見。そちらからも探っていくことにしようと決める。
白地図も大分埋まって来た。
「とりあえずは、走ってお茶じゃな。出来れば畑一面分、刈り取らせてもらって。金は足りるかのぉ」
紅茶やウーロン茶モドキはここでも嗜好品だ。それなりにするだろう。
「ま、どのみち現地に行かんことには解らん。金もそれからじゃな」
……。
「あらぁ! カンイチさん! できていますわよぉ!」
「お? おお? どうしたんじゃ? ユーノさん?」
今にも踊りだしそうなご機嫌のユーノさん。そう。ここはユーノ洋品店。一張羅のツナギの補修の進捗状況の確認に来たところだ
「カンイチさん! 凄いわよ! 例の褌! 好評なのよ! ヨルグさんがお仲間に紹介してくれて、そこから広がってるの! あ、カンイチさんよね? 半裸、ふんどしで街中歩いてたの。ご婦人達から亭主と子供用にって問い合わせがあったわ!」
――魔猪との勝負の後じゃな。確かに半裸で徘徊したが……しょうがなかろうに
カンイチが思った以上に衆人の注目を集めていたようだ。
「同業者からも話が来てるわよ。私も付けてみたけど……楽で良いわぁ。これ!」
「んな!」
――こ、この金髪の別嬪さんがか!? ……ユーノ嬢が褌を? おぉ?
思わず想像し少々体温が上がったカンイチ。仕方あるまい。身体は若いのだから!
「……それでね。うん? 聞いてる? カンイチさん? 新に婦人用に柄物も作ってるの。生地も見直してね」
「婦人用ぉ? ……そっちは全てお任せする。ワシは白さえあればいいし」
廃れた褌文化。それがまさか、他所の星で花開くとは。しかも女性用まで。そういえば、前にお昼のワイドショーか何かで女性用の褌は見たなと。感慨深く思うカンイチ。
「そう? こういうのもいいと思うけど? 似合うわよ? きっと」
――み、水玉模様じゃとぉ!
手渡された水玉模様の褌を握りしめ、カンイチが唖然としていると、修復の終わったツナギがでてきた。
「はい。これが修復、裏あてしたものね。で、こっちが試作品。極力似せてこさえてみたわ。面白い手法も沢山使われていてとても勉強になったわ。でも、この細かい揃った縫い目、機械なのかしら。もっと大きなものはあるけど……凄い技術だわ!」
「ふ~~ん。ミシンは無いのかの。どれ。……うんうん。良いの。この素材の色もいい」
漂泊していない綿の色。種のカスだろうか。所々に褐色の点が。それも何とも言えない風合いのアクセントに。
「あら、染に出さないといけないかと思ってたわ。真っ青に」
「いや、構わん。むしろこのままがええ」
なにも異世界に来てまで、大手農機具屋の宣伝をすることもあるまい。と。
「早速、着てみてええかの」
「ええ!」
さっそく試着室に籠り着替える。素材が良いからか着心地も申し分ない。
「うむ。もう一着お願いできるかの……ここと、ここにポケットを二つ増設。中のモノが落ちないように、ボタンもの」
「はい。承りましたわ。優先して仕上げるわね!」
腕まくりし、応えるユーノ嬢。
「う、うむ。お願いする」
――この張り切りようは……。よっぽど、いい儲けになるのじゃろか。……褌。
そう。カンイチの予想に反し、一大ブームが起こる。老若男女問わずに。その成果として特許料の振り込まれる預金口座の桁が一つ、二つ増える事になるのだが、後の話。




