国、領地、この町…2
……
「じゃが、アールも王都に行くんじゃな。この町からじゃぁ、けっこう遠かろうに?」
「まぁね~~。年に一回程度? は行くさ。面倒この上ないがねぇ。エルフ族の集まりで情報交換と年に一度行われる特別な王都オークションで珍しいものが売りに出されるからねぇ。大きな魔石とかも売りに出されるんだ。今度行くとき誘おうか! カンイチ! 行きたかったら?」
「王都は今はとりあえずええわい。で、なんで領主は甘いんじゃ?」
「はぁ~~? まだその話ぃ? もっと面白い話無いの? ……ふぅ。そうだねぇ。先ずは軍備。最近はリスト君とハンス君だっけ? 彼らの勧めで古い壁板なんかは交換されたけど、本来ならば西門みたいにぐるっと”城壁”にしないとね。南門とか東門周り、未だ木の板だろ? 小型の獣タイプの魔物ならともかく。大きな魔物だったら壊されちゃうしぃ? 知恵持った相手なら火つけられたりしちゃうよ?」
「ふむ。なるほど。確かに大猪なんぞあれくらいの木の柵なんぞ粉々に吹き飛ばすのぉ」
昨今遭遇した魔猪。あの大きさ、質量をもってすれば木の柵なんぞないも同じ。補強した城壁さえ抜けるかもしれない。”氾濫”というくらいだ。一匹という事もないだろう。
「そうそう。もっと大きな魔物だってわんさか居るんだぞ”山”にはね。で、お次に。兵。少なすぎるね。それと指揮官も育てていない。兵はどうしても金がかかるからねぇ。なにも無けりゃただのお荷物だ。だけど、ここは”冒険者の町”と言われる”山”に近い最前線だよ。備えは必要だろう?」
「うん? そこで、冒険者ギルドの存在じゃないのかの? 冒険者達の仕事じゃろ?」
「うん? ……カンイチぃ。君は死にたいのかい? 地元民以外なんか英雄願望があるアホくらいしか残らないさ。死んじゃったらしょうがないだろ? 皆、逃げちゃうよ。彼らは名誉のために剣を振ってるわけじゃない。飯の為だよ。謂わば、職業だ。君だってそうだろ? それに見合った報酬が無いとね。ってか、”死”に対する見合った報酬なんてあるのかね? カンイチ」
む~~ん。と腕を組むカンイチ。
「ギルドと領主、国の間で、強制力のある『指名依頼』ってのもあるけど、そんなのあるだけさ。従わずとも金貨数枚の罰金だ。ギルドがそこまで、君達組合員に命かけろなんて言えないだろう? 故郷でもない、家族もいない。出稼ぎ先程度の場所にさぁ。それこそ越権さ。罰則重くしたら、皆、その日のうちにギルドなんか辞めちゃうよ?」
「なるほどのぉ……」
アールカエフの言葉の方が、カンイチにとって長々と説明されたギルド憲章なんかよりもストンと納得できる内容だ。
確かに多くの知り合いも出来たが、命をかけてまでとなれば話は別だ。特にカンイチはこの世界に身内一人居ないのだから。
「強制依頼ってその程度かの」
「うん。そうさ。そもそも論だって。人に死ね! とは言えないだろう? 潤沢な依頼料やら補償があればいいけど。それこそ、そもそもだ。それなら最初から兵を常に用意すりゃいいし。町の治安だってぐっと良くなろうに。ま、さっきも言ったけどぉ。そんな死地に残るのは地元の連中とその仲間位だよ。”護るもの”や”捨てられないもの”があるのだろう。後は”英雄希望の馬鹿”と、”一攫千金狙いの命知らず”? まぁ、この町はお金、あまり期待できないだろうけどねぇ。はっはっは!」
「備えを怠っているということか……」
「もう! 知りたがり屋だなぁ! カンイチは! そうさ、考えてもみてみなよ。この町って他所の町、謂わば肉以外の食料のほぼすべて輸入に頼ってるだろ? 作ってるのはカンイチの知ってる菜っ葉ぐらいさ。なのに”備蓄”が少ない。肝心の穀物のね。数日で底をついて籠城が長引けば下々はあっという間に飢え死にさ。勿論、籠城中だから菜っ葉だって収穫できないし、肉だって獲りに行けないよ。猪やら食べられるのが来ればいいけどぉ。今問題になってるゴブリン、食えないぞあれは」
「話を聞くに益々無能に思えてくるのぉ、ここの領主は」
「あ、おまけで、次は僕は手を貸すことはないよ。とっとと逃走さ。領主の子豚ちゃんは僕にも少しは期待してるようだがね。期待だけしたってねぇ。少しは貢げってことさ。舐めてんだよ。外敵の脅威に。ふぅ……久々に結構喋ったなぁ。疲れたよ僕は。カンイチ……ご飯御馳走してね」
「あ、ああ。そりゃぁ、構わん。でも、アール、前は力貸したんじゃろ?」
「うん。小型の獣型魔物の氾濫だったし。前領主の時代、”家宝”の大きな魔石を報酬にね。……実験で粉粉に砕けちゃったけど。だからもう欲しいものはなし! 手伝う謂れも無いという事さ! こんな町、何の未練もないね。カンイチが町を出るときは表の商品持って付いていくつもりだよ。僕は。”冒険者の町”なんて言うからさぁ、もっと楽に魔石が手に入ると思ったのだけど、全然だよ! 全く! 期待外れだね!」
「アールらしいわい……」
しかし、その時は自分はどう動くべきか。アールカエフの言葉がどうにも正論としか思えない。
アールカエフがついて来ると言った時はちょっと嬉しく、にんまりしてしまったカンイチであった。




