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二(かんいち)爺ちゃん、異世界へ!(仮)  作者: ぷりぷり星人
閑話 カンイチ事件簿 
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カンイチ事件簿 暗殺者編

 暗殺者たち


 「おいおい。勝手に受注した挙句の果てに返り討ちにあったって?」

 

 ここは城外スラムにある一軒家。その地下に存在する、隠された一室。

 美しい絨毯が敷かれ、大きな執務机。その前にはソファーセットが置かる。壁にずらりと並ぶ灯火。

 とても地下だとは思えない空間だ。

 そのソファに腰を掛ける若い男。その左右には黒い装束を纏う二人の男が立つ。

 そしてソファに掛ける男の前に跪く男、その拳は白くなるほど握られ、震えている。

 

 「は、はい。す、すいません……まさか……まさか……」

 恐怖に震えながら絞り出す。

 

 ちょっと小遣い稼ぎのつもりで受けた依頼。偶々、事務所にいたグリエのチームを派遣した。

 相手は成人したてのガキ。ちょろい仕事だ。それに、人攫いの”交渉役”はいい客だ。金払いも良い。

 おまけに急ぎの割り増しもポン! と置いて行った。

 それがまさか、返り討ちに合うとは

 

 「で相手は?」

 「は、はい……。……」

 

 たまたま”交渉人”の待ち合わせ場所に現れた”冒険者”のガキ。それ以上の情報はない。

 調査を怠ったのだ。受けたからには完璧に仕事を熟してナンボの”暗殺者”達にとってはあってはならない事だ。

 

 やれやれといった風に頭を振る若者

 「まさか名前も知らないのかい? ターゲットの?」

 「……」

 「ふぅ。了解。じゃぁ、どのようにやられたんだい? グリエは? うちでもそこそこの腕だっただろう?」

 「……」

 「はぁ? まさか、見届け人までもやられちゃったの? 凄いな……。で?」

 「は、はい……」

 「いえ、若、観察者(見届け人のこと)を付けてけていなかったようです」

 「ふぅ~~ん……」

 

 ”観察者”見届け人とも呼ばれ、一人ないし、二人で事に当たる。仕事の成否の確認が任務となってるが、仕損じた時の為の後詰という面が大きい。相手が手傷を負って弱っていればとどめを。ピンピンしてればターゲットの所在の追跡。そして、死んだ仲間の回収、処理も仕事だ。

 

 「おゆ……お許しを……お許しを……わ、若……」

 大きくため息を着く”若”と呼ばれた男。

 「ダメっぽいよ? 君ぃ? いくつ決まりを破ったんだい? 堂々とお天道様の下を歩けない裏稼業。その裏の決まりも守れないとなると……生きていく場所? 無いよね?」

 「は……。お、お許し……」

 ”しゅるり” ”ざしゅ!”

 頭を垂れた男の首がそのまま切断され豪奢な絨毯の上を転がる。よく見れば、キラリ。ランプの光を反射する極細な鋼糸が。

 「”斬糸”……と。無理だって。あ? ああ! やっちまった! この絨毯、気に入ってたのに! 洗濯屋出せるかなぁ。で?」

 右に控えてる男に問う。仔細について。

 「死体も無し。恐らくは例の”収納”持ちの冒険者……カンイチの仕業かと」

 「仕業……って。言葉違うでしょうに? こっちから襲ったんだ。襲われたら反撃するだろうに? 正当な権利だよ?」

 「は。言葉、足りませんでした」

 「カンイチ……かぁ。極力関わらないようにしてたんだけどなぁ。で、エリオディオ。お前はどう見る?」

 

 もう一人、若い男の背後の陰に。つまらなそうに事の成り行きを見ていた。護衛のエリオディオと呼ばれる男。背は高くない。細身が、その耳はアールカエフのように尖っている。

 そう、エルフ族の男だ。見た目からでは年齢もわからない。

 

 「俺か? そりゃぁ、お前が言う通り、反撃だって権利だが、うちの面目丸つぶれ。仕事もどん! と減るぞ? 依頼主の”交渉人”のレセだって空き家に吊るされてたんだろ?」

 「ああ。そうみたい。部下諸共皆殺しさ。おまけに交渉の仕事出してた胴元や誘拐団も壊滅したと聞く。そんじゃ、汚名返上! 打って出る?」

 信頼回復にはターゲットの完全なる死。それしかない。

 「そうだな。……と言いたいが、勝てねぇぞ? ありゃ、普通の”人族”じゃねぇな。犬? にしたってもはや魔獣だ。しかも、アールカエフの婆さんがいたくご執心だ。おそらく近づくことも出来ねぇぞ」

 「へぇ! 人間じゃないの? じゃぁ何よ?」

 「知らん」

 「知らん……って。それにアールカエフ様かぁ。同じ精霊魔法使いだろ? どうにかならんのか?」

 「ふん。その気もないくせに。アールカエフの婆さんは俺の何十倍も生きてんだぜ? 使役する精霊の格が違い過ぎる。敵対した途端、俺の使役する精霊たちは皆、婆さんの精霊の指揮下に入っちまう。で、俺らは何もできずに切り刻まれて仕舞だ。それに執念深いぞ……どこまで逃げても追い詰められてなぁ」

 「怖ぇええなぁ! おい!」

 「あの婆さんも大概だからなぁ。特に女はしつこいし、容赦ねぇし? 手出ししねぇ方がいいぞ。必ず死んじまうわ」

 「う~ん。じゃぁどうしよう? ウチも敵認定喰らってるだろ?」

 「そりゃなぁ。命狙ったんだし? お前さんが言う通り、敵認定も権利の内だろ? くっくっく」

 「それ言わないでよ……。う~~ん。この首もって詫びに行くかぁ。金貨付けて」

 つまらげに先ほど落した”首”を足で弄ぶ。

 「五分と五分だな……。いきなり斬られちまうかもな。いや? 魔法か? ほれ、前の流れの……確か、マットとか言ったな?(第43話『襲撃』参照)あの屑共のように」

 「う~~ん。アレな。正に破壊されてたもんなぁ。ぐちゃぐちゃだったわな。あんな無様に死にたくないのだが? 頭が痛いなぁ」

 「うん? 接触するなら早い方がいいぞ? あちらさんも焦れて乗り込んでくるかもしれないし? それに、その首、腐っちまうぞ?」

 「ん? ああ……魔道具で凍らせておくさ。ふぅ。スラム抜ける時、接触してみよう」

 「……付き合わねぇぞ。俺。死にたくねぇし?」

 「はぁ? 俺の護衛だろ?」

 「仕事ならともかく……。ま、お前の死体の回収と墓建てるくらいはしてやる。安心して死んで来い」

 「おい!」  

 ……

 

 「うん? 何じゃぁ? 確かお前さんは……」

 カンイチの進行方向に3人の男が現れた。何時ぞや会った連中だ。

 「待ってくれ。君と少し話がしたくてね。敵対の意思はない」

 

 両腕を上げて敵意の無いことを示すがそこは暗殺者だ。どんな暗器を持っているか判らない。

 ジロリと相手の目を見るカンイチ。

 

 「ま、ええじゃろ……うん? この前の暗殺者の件かの?」

 「判ってるなら話は早い。ウチのアホが組織を勝手に動かしてね」

 「ふん。こっちは知らん。で?」

 「だな。貴殿の言う通りこっちの都合さ。掟でそいつは粛清した。見舞金で金貨500枚用意した。これで手打ちにしてもらえまいか?」

 頭の若者の合図で右に控えていた男がバッグから凍った首の入った陶器の瓶と金貨の詰まった麻袋を出す。

 「……ほう」

 

 敵意の無いことを示す。マジックバッグではなく普通の鞄から出された品々。武器はないという意思表示なのだろう。が、もちろん、カンイチは信じない。そして、気も抜かない。

 

 「名前も知らず。ターゲットが子供だと小遣い感覚で受ける屑だった。相手を良く調査もせずにね。ま、こっちの事情だが、これでも色々と掟を設けている。只の人殺しじゃぁないという自負だってある」

 「ふぅん。人が金を貰って人を殺すに、どんな理由もないと思うがの。よくもまぁ、お日様の下に出てこれるものじゃて」

 と、つまらなそうに言葉を吐き捨てるカンイチ。

 「まぁ、その辺りは色々言いたいが議論する気はないよ。恐らく何処まで行っても平行線だ。で、どうだい? 申し入れを受けてくれるかな?」

 「今回の件……という事だな?」

 「そうだね。こちらとしては今後も貴殿とは関わり合いたくはないと思っているがね」

 「ふん。それはこっちの台詞じゃ。いっそのこと、キッチリ片を付けた方がええか? お互いのためにのぉ」

 カンイチから殺気が放たれる。これ見よがしに。クマ、ハナたちも体勢を低くし身構える。

 「それは是非とも避けたいところだな……」

 ピシりと空気が凍る。今、どちらかが少しでも動けば

 

 「ふっ……。まぁ、ええ。納得は出来ん。が、キプロチに子を攫われた人達の無念を晴らす手伝いもしたんじゃろ? 何だかんだ言ってもワシらの理屈は”力あるもの”の理屈じゃ。そして、力なき者が求める力……なんじゃろ」

 「ま、正義やら必要悪……とは言わんがね。じゃぁ、これが手打ち金の金貨500枚だ」

 「金は要らん。手打ちの件は了承した。これで仕舞じゃ。去ね!」

 「うん? 迷惑料だ持っていけ」

 「いらんと言うてる。お前さん達と慣れ合う気もない。それじゃぁの。行くぞ! クマ、ハナ」

 ……

 

 「ふぅ」

 カンイチと2頭の犬の背を見送り。力を抜く若い頭。

 そのまま、どさりと草原に腰を下ろす。

 「やるなぁ……。声を掛ける前からこちらの存在に気づいていたようだ。本当に強いねぇ。ありゃぁ」

 と、独り言。のつもりが

 「予想以上だな……。カンイチか」

 何時の間にやら傍らにはエルフの青年の姿が。

 「お? エリオディオ? 来てたのかい?」

 「ああ。お前さんの死体回収にな。ま、あれで上出来だろうさ。よくも手を出さなかったな。短気のお前の事、仕掛けるとも思ったが」

 「出せなかった……かな。隙も全くと言っていい程無かったしなぁ。動けなかったというのが正しい」

 「正解だ。出したら最後、死んでたわ。あの気……。それに、アールカエフ婆さんの使役する精霊も付いてたしな……ったく」

 「エリオディオが言う意味少しは判ったよ。人じゃねぇな。何だろうか……。爺さん言葉も気になるしなぁ。エルフが化けてるとか?」

 「そりゃねぇな。可能性は0じゃないが、人に化けるエルフなんぞまずいねぇ。ま、奴とは当初通り不干渉で行こうや。アホが手を出さないように受注関係に話回しておけよ?」

 「ああ、そうしよう。じゃ、リスト入りだなこりゃ」

 「まぁなぁ。”収納”持ちであのセンス。そうそう勝てる奴はいねぇな。お前さんの”糸”だって首に届く前に見切られて”収納”行かも知んねぇぞ?」

 「げ? そんなもんか?」

 「判らんが……認識すればだろう? 俺、”収納”ねぇし? ハンスのおっさんは数集めりゃ行けるが……」

 「あの人には手ぇ出すなよ。借りがある」

 ジロリとエルフの青年を睨む若者。

 「うん? ……ああ」

 「しかし。強い奴はまだまだいるもんだなぁ。んじゃ、あまりウロウロしてっとお日様に叱られるから帰ろうか」

 「ふっ、カンイチの言葉、気にしてんのかよ?」

 「まさか。くっくっく」    <完>

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