カンイチ事件簿 交渉人編ー1
うう…。入れる場所が…。胸糞っぽい話が連続しますが勘弁くださいませ。
カンイチ事件簿。人攫い2(交渉人)
「おう! カンイチぃ、今日は朝も早くから何処行くんだ?」
「おはよう。ハンスさん! 今日は西の川の方に行こうと思っての!」
ある晴れた朝。目的地へと向け出立する商人の馬車がひしめく、南門。その中にカンイチと二頭の犬の姿があった。いつもの大手農機具メーカーから頂いた青いツナギを着て。
南門からクマたちを連れて出る。今日はハンスの当番の日らしい。片手を挙げ応えるカンイチ。いつも見られる南門の風景だ。
「毎日、毎日ご苦労だな。西……かぁ。まぁ、町中は通れないものなぁ」
「そりゃぁ、依頼を熟さんと、おまんまの食い上げじゃて」
カンイチの連れている、犬。クマとハナは大きい。元は、ハスキー犬だが、今では二回りは大きく、毛も長い。見えないが牙も大きい。そんな獣を連れて町の中を通ると余計ないざこざが起きる。
恐怖で騒ぐ程度なら良いが、ペットにと取り上げようとする者、最悪、毛皮にして敷物にと無理を言うものも居ないとは限らない。
特に権力を笠に着て、己中心に世の中が回っていると勘違いしている貴族の連中だ。
「うむ。ハンスさんにも余計な手間かけるからの」
「まぁなぁ。が、結構稼いでるって聞いたぞ?」
「誰からじゃ? ……もしや、リストさん……かの?」
あからさまに顔色が変わるカンイチ。守秘義務の範疇じゃろうがと。
「いやいや、ギルドで噂になってるくらいだ」
それを察してか、一応、フォローを入れるハンス。どうしてもリストは裏で動く傾向がある。好んでいるといってもいい。ハンスは幼馴染故、もう慣れてるが、カンイチが好まない事はなんとなく判る。
「まぁええ。畑買うのにいくらあっても足りんじゃろう?」
「畑なぁ。なぁ、マジで、”ミスリル”目指さんか? カンイチ?」
「う~~んむ。何時までもギルドの兵隊っていうのものぉ」
「そうすりゃ、この町だって正式に住民になれるぞ?」
「……ここの領主様は好かん。しみったれなんじゃろ?」
「……そうだったな。……まぁ、考えておけ」
「うむ……じゃ、行ってくるで!」
「おう! 異変があれば報告なぁ~~」
――ミスリルに、住人かぁ。
が、カンイチの頭の中に、どうせ住民になるならもっと内陸の悠々畑が耕せるところなら考えるが……。わざわざ、魔物やら害獣が沢山いるこの町は御免だと。
クマ、ハナの首輪から手綱を解き、放つ。
「よぉし! 行こうかのぉ!」
”ぅおん!”
城壁に添って西を目指す。
クマ達も草の匂いを嗅いだり、齧ったり。ついでに蛇や蜥蜴を齧ったりと……
「しかし良く食うのぉ……。朝、猪食わせたじゃろがい……」
”うぅおふ!” ”わふぅ!”
「ま、ええがの……。うん?」
スラムに差し掛かろうかというところに、場違いな、身なりの良い商人風の男が。護衛も付けずに一人立っている。
不用心。待ち人かもしれないが、あれでは襲ってくれと言っているかのようだ。
――ふむ。こんなところで……。ちょっと声を掛けてみるか……の
「あのぉ。どうかされましたか?」
極力低い声で驚かせないように話しかけたのだが、予想以上に”びくり!”と身を跳ね上げる商人風の男。
「う、うん? ……? ……坊やこそこんなところに居ると危ないよ」
「……ワシはこれでも成人しておる……成人しています。冒険者をやっています」
「ほ、ほぅ。その年でねぇ。狼使いかい? ほぅ」
何とも余裕のない……話をすぐに切り上げたいような。視線もあちこちに落ち着かない。
「何か困ったことでも?」
「い、いや。大丈夫だよ。問題ない」
「ふぅん……そうかのぉ」
そうは見えんがのぉ。と、思っていると、男4人、女一人、計5人の集団がやってきた。
「何だぁ? 約束じゃ、一人で来ることになってただろう? おい」
「おいおい。約束守れよぉ」
挨拶も無しに大声を張り上げる男たち。
「い、いえ、この子と合ったのは偶然。今、ここででして」
焦る姿を隠そうともせずに弁明する商人。それを疑いの目で見る男女……
何か貴重な取引でもあるのかと。その様子を窺う。が、どうも、邪魔のようだと。先に行くことにする。
「うむ。邪魔したな。ワシ……私は冒険者だ。ここに商人の男が護衛も連れずに突っ立っていたから、おかしいと思って声を掛けたまで」
「ふぅ~ん」
カンイチの弾のてっぺんからつま先まで。吟味する女。
「そうかい。って、信じられっか! このガキ!」
と怒鳴る男共
「で、ですが!」
慌てる商人。
「信じられんのはそちらの勝手……じゃな。ワシは知らん。待ち人が来たようじゃて、ワシは行くの」
「おい! ガキ! ちょっと待て!」
ピクリ。臨戦態勢を取るカンイチ。手を伸ばしてこようものなら、斬り飛ばしてやろうと。
「よしな。事を荒げるんじゃないよ。いいよ。行きな。お兄ちゃん」
このグループのボス? なのだろうか。女がカンイチに手を伸ばした男を言い留める。
この中でも一番派手で装飾品も身に着けている。年の頃30中か。40には届くまい。
「チッ――!」
「それでは失礼しよう」
その時に女が、後ろの一人の男に何某かの合図を出していたことをカンイチは見逃さなかった。
隙を見て襲い掛かって来るかと思いきや、へらと笑いながらスラムの建屋物の方に走っていく男……
特にこちらをどうこうしようともせずに、商人と共に歩き出した女たち。
「はて。何じゃったのじゃろの。のぉ。商人さんといい、今の男女といい……それにあの男も……はて?」
”ぅぅおふ?” ”わふぅん?”
「そりゃ、クマには解らんよのぉ。ふふふ」
……




