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二(かんいち)爺ちゃん、異世界へ!(仮)  作者: ぷりぷり星人
閑話 カンイチ事件簿 
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カンイチ事件簿 誘拐犯編ー6

 …… 


 なんとか無事に三人の少女を保護することが出来た。表に出るにはキプロチの転がる部屋の前を通る。

 その様子を見て女房が吠える!

 

 「な、なに? その娘達は! それより早くそのガキに縄を打ちなさいよぉ!」

 何処から現れたか判らない少女たち。衛兵たちと気兼ねなく話す殺人犯カンイチ。縄を打たれることも無く。

 その様子をみて、よほど頭にでも来たのだろう。なにせ女房の、被害者側の主張がいっさい認められていないのだから。

 傍らには今尚、ピクリともしない亭主。

 

 「何で縄打ってないのよぉ! 人の家で好き勝手してぇ! 早く捕まえなさいよぉ! それに、何処から連れて来たのよ! その小汚い娘は!」

 相も変わらずがなり立てる女房。キプロチの子供達も来たようだ。

 子供達も父親に縋り泣きわめいている。

 

 「小汚い……かのぉ」

 隠すことなく、殺気を放出するカンイチ。その表情も羅刹のようだ。

 「ひ……」

 さしもの女房もがなり立てるのをやめる。泣きわめいていたキプロチの子供らもピタリと止まる。

 「落ち着け……なんて言えねぇな。で、そこの執事みたいのも生きてんな。縄打っとけ」

 「はっ!」

 「店主は……こりゃ歩けねぇな。叩き起こして詰所に連れてけ。そうだ檻馬車呼んどけ。馬でも構わんぞ」

 「ハンスさん。そいつ、魔法とやらを使うぞ。"陣”とやらに絡めとられたわ。それと、こんな小賢しい道具をつかう」

 バック経由の”収納”から腕輪と足環を出し、ハンスに渡す。

 その腕輪に描かれている紋様を厳しい目でチェックするハンス。

 「こりゃ、ご禁制の『隷属の腕輪』か? 何で2個も?」

 「うん? 片方は”足環”じゃないのかの?」

 「……カンイチ、おまえ、余程言う事聞かなかったんだろ。で、隷属の腕輪、足にも付けられたんだろさ」

 「……そうかの。まぁ、問題なかったがの……」

 

 「な、何の話よ? い、いったい……」

 「ああ。良く聞け! お前の亭主は、この町で暗躍していた”人攫いグループ”の一人、いや、”頭”だ。お前たちにも話を聞くこととなるな。言っておくが調書ができるまでこの町からは出られん!」

 「は? はい? ひ……人攫い? 人攫い……って?」

 女房は何が起きたのか。自分の亭主が人攫い?

 人攫いという単語の意味も一瞬で記憶から消えたかのように呆けている。

 

 「お前の亭主は少女ばかり狙った屑野郎だ。この子達は被害者だ。今、俺たちが離れの床下から保護した。で、大暴れしたこのカンイチも昨日攫われた。こっちが本当の被害者だ! お前の亭主じゃぁねぇ! で、隙を見て逆襲に出たって訳だ。さぁて、忙しくなるぞ! 商人ギルドにも使いだせ! 口座も凍結しとけ! 賠償金に充てる! 家の財産、店の品物にも一切手ぇ触れさせるな!」

 {はっ!}

 「人……攫い? う、嘘……アナタ? 人攫い? ?」

 

 ハンスによって現実に引き戻され、最悪の犯罪。人攫いの実行犯であると改めて告げられる。

 がなり立てて真っ赤に染まっていた顔も、今では真っ青。いや、通り越して真っ白だ。さした口紅がやたらと紅い。

 「人攫い……人……」

 その紅い口から紡がれる言葉は同じ文言。これは死刑宣告に等しい。最早、彼ら、死人の家族も含めて真っ当に生きてはいけないだろう。

 

 人攫いの話は女房の耳にも入っていた。仲間の商家の娘が攫われ。さらに辛い事に身代金の交渉が無いのだ。行きつく先、それは、どこぞともしれぬ場所に愛娘が売られる事。その後の生死すらわからずに。

 交渉ができればと多くの親が涙した。女房にしたって気が気でない。自分にも同年代の娘がいるのだ。

 商売柄、多くの冒険者を雇い、家の離れを使わせていたのもその用心とも考えてだ。

 だが、町の憎むべき”人攫い”の犯行グループの一つが亭主、そして、その冒険者たちだったとは……

 

 「はっ! 父さま……父様! 父様に!」

 旦那、子供を放置し、駆け出す女房。父親に助けを求めるのだろう。が、衛兵に止められ、逃亡容疑で縄を打たれる。

 「は、放してぇ! 放しなさいよぉ!」

 「取り調べが済んだらだ! が、親父、身内は呼んでやろう。子供らを預けるといい……。但し、来れば……だがな」

 「……」

 

 対人の商売を行う商家ではこんなスキャンダル到底受け入れることはできないだろう。

 恐らくは、離縁の後、女房の父が未だ表に出ているのなら、引退。そして娘、孫達を引き取り、ひっそりと暮らすこととなる。

 キプロチの親兄弟は、この事件が公表される前に新天地を目指すほかないだろう。誰も自分らのことを知らない国外に。いや、調査の手が入るだろう。下手をすれば私財没収の上、町の外に着の身着のままで追い出されかねん。住民によるリンチの恐れもある。

 情報封鎖、そんなものここに押しかけていた野次馬から今日、明日中にはこの町中に広がるだろう。

 それに、キプロチのグループが攫った相手に大きな商家も含まれる。先日運良く助けた薬屋の娘がいい例だ。報復に出る家だってあるかも知れない。暗殺者を雇って。

 暫く市井は荒れるだろう。

 ……


 「期せずとも大活躍だな。カンイチよ」

 「そういう言い方は好かん……」

 ブスッとするカンイチ。まだまだ暴かれていない、売られた子もいるのだ。

 「いや、あえて言わせてもらう。助かった。これで町の治安も少しは良くなるだろうさ」

 「ああ。まさか、キプロチがなぁ」

 「けっこう真面目な商人って印象だったものなぁ。ありがとう」

 カンイチも、皆同じ気持ちと気づく。

 「うむ。売られた子も帰って来るとええがのぉ……。王都のオークションがどうのと言っておったが……」

 「ああ。申し送りはしておくが……な」

 そのハンスの表情で察する。過ぎた時、そして大きな闇の組織の影。

 「期待薄じゃな……」

 「ああ、時はどうにもならん。時間が経てば経つほどにな。カンイチ、悪いが、ギルドの方にも付き合ってくれんか?」

 「うむ。ワシもその……カンブルじゃったか? そいつの顔を拝みたいからの」

 

 言葉少なく、が、怒りに燃える集団がキプロチの店舗から出る。そして、【冒険者ギルド】へと。

 ……

 

 その後の対処としては、売られた娘達の調査が行われる。特定はできるが王都まで運ばれ売られた子は、戻って来る確率は恐ろしく低い。0といっても良いだろう。

 

 王都のオークション。表があれば裏もあり。裏、【闇オークション】にかかれば、一切の伝手を辿ることはできない。貴族も多く関わっている。蜥蜴の尻尾きりのように誰かが殺されてそこでお終い。それに何が出て来るか予想できない。国の警備担当大臣の首すら替わることだってある。ある意味触らぬ”聖域”と化している。

 

 売られた情報を元に金目当てに殺された冒険者たちの特定については、実行犯共の聞き取りと”情報を売った”者との証言を照らし合わせれば判明するだろう。

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