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二(かんいち)爺ちゃん、異世界へ!(仮)  作者: ぷりぷり星人
閑話 カンイチ事件簿 
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カンイチ事件簿 誘拐犯編ー4

 …… 


 「それじゃ、今少し、大人しくしておるのじゃぞ。全てが済めば戻って来るでの。余計なことはしちゃいかん……」

 チラと、血の池に沈む首なし死体に視線を向ける。こくこくと真っ青な顔をして頷くこの家の使用人のティケ。

 「ふぅむ……。ここはハンスさんに知らせた方が良いのじゃろが……。ワシの気が収まらんの。売られた子達の無念ものぉ! とことん追い込んでやらねばのぉ」

 

 ぐいと腕まくりをし、気合を入れるカンイチ。

 転がってる男たちの首を麻袋に。繋がってるものは順に山刀で掻いていく。

 麻袋を両手に下げて廊下を行く。血を点々と滴らせながら。

 ……。

 

 「……で、キプロチぃ。例の”収納”持ちのガキ、売り先は決まってるのかよ?」

 「は? 馬鹿言うなよ。ダヤン。王都に運んで闇オークションにかけるに決まってるだろう? 大きな目玉になるだろう? くくく。幾らつくか楽しみだわ!」

 「だが、王都のオークションだとまだ日があるぞ。リストの野郎も目をかけてると聞く。大丈夫か?」

 「問題なかろう。証拠も無し。たかだか、身寄りの無い冒険者が一匹消えるだけだ。どうという事もあるまい。なんなら、カンブルに適当に依頼でどっかに行ったことにしてもらえばいいだろうさ」

 「なるほど。そいつは名案だ。それで、帰ってこれなかったと……くくく」

 「そういう事だ。くくく」

 

 店舗の手前の商談室だろうか。そこに、奴隷商人のキプロチと、昨晩の道を塞いだ冒険者の一人。ダヤンと呼ばれた男が。恐らくこいつが冒険者達をまとめるリーダーなのだろう。

 その二人が、タイミングよくカンイチを売る事によって得る莫大な利益について話をしている所だった。

 当のカンイチにしたら腹立たしいこと、この上ない。

 が、今は自由の身……

 さぁ、報復をくれてやろうか!

 

 「うん?」

 血の匂いに気が付いたか、はたまたカンイチの気配に気が付いたか、冒険者の男が話を切る。

 そこにカンイチが両の手の麻袋を放る。ぶちまけられる血塗られた首! 首!! 首!!!

 

 「な!? ガ、ガキ! なにぃ!」

 ぶちまけられた首。そのどれもが知った顔。皆、男のチームのメンバーだ。

 あまりの驚きに固まる。武器も抜かずに……。つい先ほどまで話をした仲間が首になってるのだ。悪人稼業。他所のチームより結束も固かろう。

 その隙を逃すカンイチではない。一気に距離を詰め、右膝をダヤンの腹に叩きこむ!

 

 「ぐ? ぐげぇ!」

 腹を押さえ、前屈姿勢に。

 カンイチが腕を上げるとその手には”収納”から直接抜き放たれた山刀! その刃がキラリと光る!

 「昨晩の礼じゃ!」

 一思いに斬り降ろす。狙ったように頸骨のつなぎ目に滑り込む青光りする刃! 音もなく易々とその首を切り落とす。

 

 ”どさぁり”

 

 ”びゅくぅびゅく”と血を噴き出す体。今尚、首がつながってるかのように。遅れて、体が前のめりに、転がった頭を求めるように倒れ込む

 

 「な! だ! ダヤン! ダヤァン!! な、なぜ! 貴様! 動けるのだ! 『痛みを!』 『痛みをぉ!』 !」

 ”ばしゅ!”

 呪文と共にカンイチに向けられた右腕が肘から先が消える。

 「な?」

 切断面から一気に血が噴き出し、燃えるような熱! 痛みが、キプロチを襲う!

 

 「い! いぎぎぎぎぎぃいい! い、痛い? い、痛いいいいぃ!」

 「ふん! 悪党が! そんな痛み、子供らの苦痛に比べたら……が、貴様は殺さん!」

 「あ? あぐぅ! あぐぎいぃ! こ、このぉガキぃ!」

 左手を使いナイフを取り出すキプロチ。

 「ガキぃがぁ!」

 身を預けるように突っ込んでくるキプロチ。

 その手首を左手で掴み、右手は釣り手、服を掴み柔道の技でいう払い腰で床に思い切りたたきつける。

 「ぐげぇ!」

 取った腕をそのままに、肩に膝を当て 

 ”ばきり!”

 キプロチの左肩をへし折る。

 「ぎぎゃぁあああ!」

 「まだまだ元気そうじゃな? 人攫い! ふん!」

 ”ばききり”

 カンイチの踏み下ろしがキプロチの右膝を砕く。奇妙な方向にネジれる右足。

 

 「あぐ! ぎぃやぁ! い、痛い! 痛い! やめぇ! やめてぇ! はひい! やめ!」

 「あの三人の分じゃ! 他にもおろうが!」

 ”ばきききぎ!”

 再び上げられたカンイチの足が、投げ出されていたキプロチの左膝を踏み砕く。

 「あぎゃぁああ! 痛い! やめて! いた! ま、待って! 待て! わ、わかったぁ! わかったからぁ! た、たす……助けてくれぇ! 金! 金を! 金ならいくらでもぉ……命ばかりは! 命ぃ!」

 涙と鼻水でドロドロの顔、ふっと、あまりの痛さに気絶しそうなキプロチ。反転しそうな目を必死にカンイチに向ける。慈悲を! お情けをと。

 

 「いらん! じゃぁ、おとなしくしておれ!」

 ”がしゅん!”

 山刀の柄尻を思い切りキプロチのこめかみに叩きこむ!

 「あぐ? ……ぎ……げ……がぁ……」

 ”ごとり”

 そのまま仰向けに倒れるキプロチ。

 「うん? 少々強く入れ過ぎたか? つい、我慢ならん畜生じゃったからの。死んでしもたか? ま、それも良かろう。天誅じゃ」

 一応、キプロチの首筋に指をあて脈を診る。

 ”ぴくぴくぴく……”

 意識とは別に今尚、体は活発に生命活動を行っているようだ。

 「……しぶといのぉ。ま、悪党はしぶといと相場は決まってるものじゃて。出血死は無しじゃな。お上の判断に委ねようかい。ハンスさんも追ってるって言ってたものな」

 

 斬り飛ばした右腕の切断面をロープで思い切り縛り上げ、止血。

 両膝も砕いた、左肩も砕いた。これからの生、まともに歩くことも出来ぬだろう。これで逃げられることは無かろう。

 さて、衛兵を呼ぼうかと立ち上がる。が、カンイチがこの場を離れるわけには行かない。まだ仲間がいてキプロチを連れに来たら……口封じという可能性もある。

 う~~ん。どうするかと思案していると……

 

 「きゃーーーーー!」

 

 屋敷中に響く甲高い悲鳴。

 キプロチの妻だろうか。30代後半の女と、執事風の男が入って来た。驚く執事。

 その執事……カンイチの記憶にある! 昨日の襲撃者の中に!

 「キ、キプロチ様? あぐぅ!」

 着物の襟を取り、引き倒し、捩じ上げる。

 「お前さん、昨日の道を塞いだもんの中に居たのぉ」

 

 「だ! 誰か! 誰かぁ! アナタぁ! アナタぁ! 衛兵を! 衛兵を呼んでぇ!」

 

 背後で騒ぎ立てる女。まぁ、どのみち呼ぶつもりだったし。好都合と放っておく。

 衛兵を呼ぶという事は、女房は旦那の裏家業を知らぬかもしれない。が、『人攫い一家』には相応しかろう。と。

 

 使用人やら、客が騒ぎを聞き付け部屋に駆け付ける。

 「な、なんだぁ? こりゃぁ!」

 「ひ、ひぃいい!」

 「うげぇ!」

 部屋には7つの冒険者の首が転がり、冒険者のリーダは殺され首なし死体に。辺りは血塗れ。

 当主のキプロチは片腕になり伸びており、家宰は子供に締め上げられて、奥方が叫ぶ……。

 血の海……理解の及ばない殺戮の現場だ。

 

 「おい! 衛兵呼んで来い! 急げ!」

 「家主が殺されるぞぉ!」

 「ぶ、武器持ってんぞ! は、ハンスさん! ハンスさん呼べぇ!」

 

 ――うん? ハンスさんかい。かえって都合がええわい。

 駆け付けた者達、その中に記憶のある者がいたらと、今拘束してる執事を締め落し、身構える。

 幸いにも記憶にある者の顔はない。どのみち、襲ってきたら返り討ちにするが。

 

 「だ、誰よぉ! 貴方! ここでなにしてるのよぉ! ここは私の家よぉ!」

 涙と鼻水で化粧もぐちゃぐちゃだ。

 「うるさい! 静かにしておれ! 直ぐにも衛兵が来るだろう。話しはそれからじゃ」

 「な、何よ! このガキ! アナタぁ! アナタぁ!」

 意識の無いキプロチに縋り、騒ぐ女。

 「ふん。うるさい女子おなごじゃわい。騒ぐ前に医者でも呼ばんか」

 罪人だが少々不憫に思うカンイチだった。

 ……


 ……


 ”どかどかどか……”

 『退け! 退け!』

 『ここか! 未だ殺人鬼は居ると?」

 ”がやがたがや……”

 『おい! ヨルグ! 一隊率いて裏口も固めよ!』

 『応!』

 

 店の外が騒がしくなってきた。どうやら衛兵隊の到着らしい。

 ”殺人鬼”という事で、ハンス以下、南門に詰める二つの部隊でやってきたようだ。

 

 「お! あの声はハンスさんじゃの。ヨルグさんも来たのかい。まったくご苦労な事じゃわい」

 この惨状を引き起こしたカンイチだが、すでに人事だ。どっかと、この店の主の為の豪奢な椅子に腰かけている。

 一応、キプロチがこの場から逃げるのを防ぐために。が、一向に目を覚ます気配はない。

 衛兵達の到着で野次馬も順に排除されていく。

 

 「ガ、ガキ! 衛兵の方々が来てくれたわ! 大人しくしなさい!」

 味方の衛兵の到着でさらに強気になり、がなり立てる女房。

 「大人しくしておるじゃろが……。が……」

 「死罪よぉ! 死罪! 明日にも首を括られるといいわぁ! 罪人めぇ!」

 「……。ふぅ」

 言葉を切る。

 

 ――何も知らないというのは幸せじゃのう……いや、可哀そうなことじゃな。が、罪は罪……。この後、どのような運命が待っているのか……の

 どうしても哀れに思えてならない。

 それに、明日、絞首刑のロープにぶら下がるのは主の旦那じゃ。と。

 

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