カンイチ事件簿 誘拐犯編ー3
……
「さてと。この連中は交渉は無用じゃったな。頭一人、いればよかろう。よし。皆殺し……じゃな。確か昨日は10人はおったのぉ。先ずは一人。いや、鬼畜、畜生の類じゃ……一匹じゃな!」
首がまさに折れ曲り、あらぬ方向を向く若い男を見下ろす。首の骨が折れても直ぐには死なない。今もピクリピクリと動き眼だけでカンイチを追う……
昨日の脇腹への蹴りの分は利子をつけて返済できただろう。
梯子を滑るように上り、下で死んでる下っ端男の兄貴分の背後に回り込む。背後から襟を掴み一息に締め上げる。
「ほぐぅ……!? ……」
「おい。少し話をきかせてもらおう? ……うん?」
一気に弛緩し、ずるりと、カンイチの腕の中で崩れ落ちる兄貴分。
「おっと。落してしもた。話聞こうと思ったがのぉ。ま、未だ10人はいよう? 足りるじゃろ」
一応証人として残しておこうと生かしておくことに。カンイチの腰に結んであったロープで兄貴分の手、足を括り、先ほどまで監禁されていた地下室に蹴り落とす。弟分の上に。梯子を上げて床板を嵌める。
「良し……と」
そして、隣の……三人の子供が監禁されているであろう地下室の”蓋”の床を見つめる。カンイチが捕らわれていた地下室と違い、床の継ぎ目がわからない。
しかも、孤立無援。子供を3人も連れての戦闘は不可能。
「……可哀そうじゃが、このまま、ここで辛抱してもらおう。必ず戻るでのぉ!」
心配だが仕方ない。一刻も早く屑を駆逐し、解放しようと。早く戻ろう! と。
「……それまで辛抱じゃ。辛抱じゃ……」
己にも言い聞かせ、その拳を固く握る。そして、その黒い瞳に炎が灯る!
「どれ……」
声のする方に進む。途中、窓から外を確認する。町の様子がみてとれる。行きかう人々。炊事の煙。
本当に極普通の町中の風景。この事件はその普通の町中で行われているのだ。
この壁、薄いこの壁を一枚挟んでこうも違う世界なのかと。
食堂だろうか、そこにはカンイチの記憶にある昨日のごろつき風の冒険者の男が6人。雑談しながら食事の真っ最中のようだ。
”収納”から山刀を取り出し、鞘から引き抜く。そして談笑している男たちのほうに足音を立てずに忍び寄る。
話と食事に夢中になっている男たち。気配を殺したカンイチの接近に気づかずに……
”どしゅ!”
背を向けていた一人の首を高々と斬りとばす! 仲間の血を浴び、何が起きたのかと周りを見渡す男たち。
「な!」
「ほぐぅ!」
その一人の胸から、背より刺された山刀の先端が覗く。
「な、なんだぁ! お、おい! なにがぁ!? あがぐぅぎ!?」
背後から口元をおさえられ、ぐいと上を向かされる。露わになった喉を山刀の刃が走る! 喉をバックり、骨まで斬られ、噴水の様に血をまき散らす。
「な!? が、ガキ!? き、貴様ぁ! どうやってここに!」
この段になり、相手が昨日攫ったガキと認識するも、もはや手遅れ。
「このクソガキ?! ”どしゅ” おぐぅ? あ? あああ?!」
臍下に食い込む山刀。その刃は上を向いている。そのまま鳩尾に向け斬り上げる。腹を縦に割られ、零れ落ちる内臓を押さえ膝をつく。
膝をついた男のうなじに容赦のない山刀が叩き込まれる。ある意味、慈悲か。
”ごろり……”
転げ落ちた首が、己の首から噴き出る鮮血で真赤に染まる
「く、くそがぁ! 何しやがる!」
叫ぶ人攫い!
「は!? その口でよく言う! それはワシの台詞じゃ! 人攫いの屑共が! 天誅じゃ!」
思い切り山刀を横に薙ぐカンイチ。
”ききゅん” ”きん!”
刃を合わせた人攫いの剣が途中から斬り折られ、刃先が後方に飛んでいく。
「……あ」
「ふん!」
返す刃で呆けた男の表情をそのままに首を体から斬り飛ばす。
「や、やってくれたなぁ! クソガキがぁ!」
最後の一人。この中でも大柄な男が覆いかぶさるようにカンイチに掴みかかる! その体格差を生かして! 最悪切られても近すぎて、柄元、ダメージは軽いと推測して。
掴んでしまえばこっちのものだと。
大きな手のひらを広げ、掴みかかる!
「ふん。付き合う訳なかろうが。屑が!」
大男の横を潜るように身をかわし、男の足をかけ、掬い倒す。
ばたりと倒れた男の背を踏み押さえ、じたばた暴れる男の首に躊躇なく必殺の一撃! 山刀を叩き込む!
”ざくり”
「うちぃ! いぎぃ……」
広がる血の池……
「ふん……。屑共め! で、お前さんもその一味……かいのぉ?」
キッチンの影に身を伏せ、震えている若い、コックの男に声を掛けるカンイチ。この男はカンイチの記憶には無い。
「い、いえ! わ、私はこの家の使用人の……ティ、ティケと申します! い、一味? と、とは?」
「ふぅむ。ティケとやら。ひと段落するまで拘束を受け入れるかのぉ? 嫌と申すなら、こ奴らのようにこの場で死んでもらうがのぉ」
”どきゃ”
断たれた頭を壁まで蹴り飛ばす。
「は! はい!」
「大声も無しじゃぞ? で、ここの主は、確か、キプロチとか言ったかの?」
「はひぃ! そ、そうです! キ、キプロチ様の……」
「うむ。で、ここがそいつの家かの?」
「い、いえ、廊下で繋がった離れ……別邸ですぅ! こ、この先にキプロチ様の店舗兼、住居があります!」
「うむ。で、こいつ等はなんじゃ?」
首なし死体共を指さす。
「はひ! 商会と契約を結んでいる”冒険者”の方々ですぅ! 馬車の護衛に雇ってると、き、聞いておりますぅ」
「なるほどの。……で、ここには……キプロチには子はいるのかのぉ?」
今までの行い。しかも、さらに三人の子供が攫われている現状。否応なしにもカンイチから殺気が漏れる。
「は! はひぃ! い、いますぅ! いますぅ! 10になる女の子とぉ7つの男の子がぁ」
使用人の口より、子の存在を聞く。
――子が居るのかの。普段は何食わぬ顔で商売を。そして副業で子供達を売り払い……どっちが本職かわからんがの。どのみち、粛清じゃ!
ぐっと、込み上げる怒気を抑える
「ふぅ……。そうかの……。じゃ、手足の拘束と猿轡。受け入れてくれるかの?」
「は、はい! お、お願いしますぅ」
……
――さてと。




