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二(かんいち)爺ちゃん、異世界へ!(仮)  作者: ぷりぷり星人
閑話 カンイチ事件簿 
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カンイチ事件簿 誘拐犯編ー1

 クマたちを繋ぎ、今日は外で一杯と宿舎を出て来たカンイチ。ようやくこの町、フィヤマの生活にも慣れてきたところだ。

 彼のお気に入りは日本にあるような焼豚やきトン屋風の串焼き屋だ。

 こじんまりした店舗。長年串焼き屋を営んできたのだろう。壁や柱が黒光りしている。が、ベタついたり、埃がついたりと不快なことは無い。これも魔法のお陰だろうか。

 奥の席に着き、猪の串焼きで一杯。モツのごった煮で一杯……。

 杯を重ねてご機嫌で店を出る。

 

 「うん?」

 店を出て、少し進んだところで行く手を阻むように男たちが現れた。

 

 「お前が、ここらで噂のカンイチか? ”収納”の恩恵持ちの」

 「本当に”銀”かぁ? こいつ。ガキじゃん!」

 「油断すんなよ。痛い目に合うぞ。あのジーンもボコボコにされたというしなぁ」

 一人一人、よく顔を見るも、見た顔は一人もいない。

 

 ――ジーンさんとの事は公開されとるが……。”収納”を知っている? これはギルド職員でも一部の者と聞いている……どこからか情報が……

 と、思いを巡らせる。

 酔いも飛び、警戒態勢。身構える。何時でも武器が出せるように。

 ”収納”に用があるという事はこいつ等は”人攫い”の一味だろうかと。

 

 「何じゃぁ? 貴様らは」

 男たちの顔を睨みながら、警告の声を発する

 

 「落ち着きなさい。少々話があってね。ふ~~ん」

 道を塞いでいた冒険者風の者達を押しのけ、カンイチと正対するのは商人風の男。

 身なりはキッチリしている。が、そのネチっこい不快なしゃべり方、そして、人を人とも思わない。値付けをするような目……

 

 ――イヤな雰囲気じゃな。この男……

 警戒も一気に最上に。

 

 他にぐるり、冒険者風のごつい男たち、ここには5人。そして、遠巻きも5~6人はいるだろうか。視線はこちらに向いている。が、ここは大道り。人々が今尚、多く行き来している公道だ。

 

 「それで、何の用じゃ?」

 再び、低い声で尋ねる

 ”ジリリ……”

 足の位置を正し、軸足に力を込める。返答次第では一気に詰め寄り殺害するつもりだ。

 

 「ほう。その年でねぇ。怖い怖い。いやぁ。何でもないよ。邪魔したねぇ。くくく」

 そう言って、道を空ける商人。

 どう見ても、何処から見ても怪しい商人だ。カンイチも警戒しながら離れる。もちろん襲い掛かってきたら殲滅する気だ。

 

 特に罠もなさそうだ。罠を張るにもここは公道。町の大通り。冒険者達もにやにやと笑っているが、只立ってるだけだ。

 

 ――一体……何なのじゃ? このものらは? 意図が読めんわい

 夕食終わりの少々遅い時間帯といえ、行き交う人も多い。こんな所で、人をかどわかす事も出来まいと、宿舎への道に一歩踏み出す……

 

 「むぅ!」

 

 数歩進んだところ、足の裏から何かが浸み込んでくるような不快な感覚! 足の自由を奪うような。それが体全体に広がり、押し寄せる倦怠感。体がいつもの何杯も重くなり力が抜けていく。

 ガクリと膝をつくカンイチ。大声を出そうにも力が入らない。気を少しでも抜けば、意識を持っていかれ、ばたり、倒れそうだ。

 ”収納”から散弾銃を出そうとするも集中が出来ない。

 

 「ぬ――! ぐ、ぐぅ? ぐぅ!」


 その膝をついたカンイチに、覆いかぶさるように肩を組む商人。ガシリとカンイチの肩を抱き、その耳元に、にちゃりと笑う。

 「さすがその年で”銀”というべきかぁ。結構時間がかかったな。くくく。酔ったのでしょうか? どれ、私が介抱をしてあげましょう」

 何事かと足を止めた通行人に、仕方がないなぁという風に告げる。それを聞いて通行人たちも立ち去る。

 ”カチリ”

 今度は両手首に金属製の腕輪がハメられる。

 「しょうがないですねぇ。そんななりで酒など飲むから。くくく。おい! ”陣”と綺麗に消しておけよ。(魔道具の)回収も忘れるな」

 「はい。へっへっへ」

 「チョロかったですねぇ。キプロチ様。くくく」

 

 ――”陣”じゃと……まんまと罠に嵌ったという訳じゃな。が!

 じたばた暴れるも、今度は手首から妙な感覚、そして体の自由が封じられる。さらに酷い倦怠感。

 

 「さっさと馬車に載せろ撤収だ。おい。カンイチとやら。その腕輪は呪物。私以外外せない。抵抗せず、おとなしく言うことを聞くのだな。態々痛い目に合うこともあるまいよ」

 「き、貴様ぁ……」

 「貴様ではない。これから私の事はキプロチ様と呼ぶといい」

 「かどわかしの分際で……屑めが……」

 搾りだすように本当の事を告げてやる。

 仮令、殺されてもキプロチ様などと決して言わないだろう。

 「本当に生意気なガキだな。”痛みを”!」

 「ぐぐぅ……」

 キプロチが手を翳し、『痛みを』と命令を下す。

 腕輪同士が磁石のようにくっつき、更に捻るように腕の自由を奪う。その腕輪から、更に何か、気持ちの悪いものがジワジワと染み出し、腕に浸透していくような感覚

 いや、現に、腕の筋繊維を押し広げ、剥がすような痛みを伴う。

 「ぐくぅっ――!」

 「叫びたくとも大声は上げられまい。くっくっく。ちゃんと言う事を聞くんだな。うん? その目は未だ諦めてないねぇ。くっくっく。おい。足にも呪物をつけておけ」

 「はい。災難だなぁ。坊主。くくく……」

 ”かちり”。

 足首の自由も奪われる……

 

 ――災難だとぉ。きっちり返してくれるわ屑どもめ。チッ――! 油断したつもりはないがのぉ。なるほど……こいつが”魔法”という奴かのぉ。身体の自由を奪う魔法……”陣”と言っておったな。それと、何かを回収と。魔道具かなにかかのう。……ふむ。立ち入ればアウトという訳じゃな。それと、腕輪こいつは”呪物”とか。”命令”で相手の身体の自由を奪い、苦痛を与えるか……。それで人の意思を意のままにする……か。ふん! 屑にはぴったりの小道具じゃな! このまま”収納”には入らん……か。よう出来てるの。

 

 ――だが! ワシはこの程度の”痛み””呪”なんぞ負けん! 屁でもないがのぉ!

 

 乗せられた馬車の荷台。座禅を組み目を閉じ、精神集中。呪物に真っ向勝負を挑む。

 ……

 

 馬車で町中を進み目的地についたようだ。時間にして十分もかかっていないだろう。

 「着いたぞ。大人しくしてろよ……。ガキ!」

 腰に結ばれたロープを無造作に引かれ、地下室に放り込まれたカンイチ。あれからずっと、精神集中。呪物と闘っている。

 「何してんだ小僧! 返事ぐらいしねぇか!」

 ”どがぁ!”

 カンイチの脇腹に蹴りが入る。

 「ぅぐ!?」

 だが、声を上げたのは誘拐犯の方だった。精神集中。カンイチの肉体は鋼のように硬い。

 「何やってんだ! 大事な商品だぞ貴様ぁ! ケガさせたら、ポーション代、お前の分け前から引いておくからな! 万が一死なせたら……わかってんのか? お前?」

 「す、すいません! すんません! あ、兄貴ぃ!」

 「ふん! 水配っとけよ! ったく。使えねぇガキだな。お前ぇわ」

 「へ、へぇ! す、すいません! すいませんん!」

 カンイチに蹴りをくれた男は水差しに水を補充し、部屋から出て行った……

 

 地下室の狭い空間に放り込まれたカンイチ。

 さて、これからが腕輪、呪物との対決の時だ。人の精神vs呪物の……。


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