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二(かんいち)爺ちゃん、異世界へ!(仮)  作者: ぷりぷり星人
閑話 カンイチ事件簿 
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カンイチ事件簿 誘拐犯編ー0

 「うん?」

 

 今日もクマたちの散歩と食事を兼ねて南門に向かうカンイチ。

 ふと、前に並ぶ商人? その大きな幌馬車に目が行く。うっすらと糞尿の匂い。魔改造された故の特殊な嗅覚、超感覚か?

 が、馬車での生活ではそういった生活臭もつくのだろうと。意識を他所に向ける。

 が、

 

 ”ぅおん!” ”ぅうわん!”

 

 「お? おお? どうしたんじゃ? クマ? ハナ?」

 そんなカンイチに反し、目の前の馬車に吠え掛かる犬達。

 

 ”ぅぅおん!” ”わぉん!”

 犬達の反応に、なにかあるのかと思い始めたときに、

 「うん? 今から外に出るのか、カンイチ。クマたちが吠えるなんて珍しいな」

 「ああ。どうしたんだ? クマ?」

 交代のため詰所から出て来たヨルグと隊員に声を掛けられる。

 ヨルグがクマを落ち着かせようと頭に手を伸ばすが、それを躱し更に吠え掛かる。

 その視線の先は例の馬車……。

 その様子にヨルグが何かを感じたか、

 「うん? クマ? ハナ? おい! その馬車止めろ!」

 「は? 副長?」

 「ヨルグさん?」

 カンイチも何が何やら?

 

 「ちょっとクマとハナ借りるぞ。カンイチ!」

 「ヨルグさん? あ、ああ。そりゃあ、構わんが?」

 カンイチの手から手綱をとり、クマたちと共に件の馬車に駆けていくヨルグ。

 カンイチにしてみれば特に怪しいとは感じないが。カンイチも後についていく。

 

 「お? どうした? ヨルグ?」

 と、丁度、この馬車の主の審査をしていたハンス。

 「ちょっと気になることがね。クマ、ハナ頼む!」

 

 ”ぅおん!” ”うわん!”

 

 ヨルグに、『任せておけ!』と言わんばかりに一吠えし、周辺の匂いを探る。同時に器用に向きを変える耳。小さな音も聞き逃さないように。

 

 「な、なんですか! ハンス隊長? こ、この狼は! き、危険では?」

 ハンスと書類のやり取りをしていた商人が大きな声を上げる。仕方あるまい。クマもハナも随分と大きい。襲われると思っても仕方がない。

 本気で噛まれれば、骨の一本や二本、楽に持っていかれてしまうだろう。

 「ふぅむ。よくわからんが……ま、安全だ。一応、犬だ、犬。なぁ! クマ!」

 ”うぉふ!”

 「はぁ? い、犬ぅ? これが? 一応って……」

 商人の匂い、そして馬車の方に向かうクマたち。

 

 「で、一体何事だ? カンイチ?」

 

 ウズウズとしているのが丸分かりのハンスがカンイチに声を掛ける。

 この状態を楽しんでいる。

 当のカンイチは何が何だか。

 

 「はて。ワシが聞きたいくらいじゃ。クマたちが珍しく吠えだしてな。で、ヨルグさんがの。確かに一瞬、違和感は感じたのじゃがのぉ」

 「ほぅ。どんなだ?」

 ぐっと、身を乗り出すハンス。

 「糞尿の匂い……。薄っすらだがの。が、隣町迄でも結構な距離があるのじゃろう? であれば、馬車での生活。そういった臭いも付くものじゃろうに?」

 「ふぅん。そうか……」

 ハンスが何やら手で合図をすると、馬車を囲むように衛士が立つ。さらに詰所からも人が出て来る。

 「うん? ハンスさん?」

 カンイチを他所に、何やら大事になっていく現場。

 

 ”ぅおん!” ”うわん!”

 今尚、吠えることをやめない犬達。御車台の座席の下、さらに下の匂いを嗅ぎ、道具入れの辺りをひっかくクマとハナ。

 その時、一瞬、顔色が変わる商人。ハンスの目はそれを見逃さない。

 

 「よし! 皆、動くな! ヨルグ! ローガン! やれ!」

 「「おう!」」

 「な、何を!」

 大きなバールのようなものを、箱の隙間にねじ込み、こじ開ける!

 

 ”ばきばきべきばき!”

 

 「な、何をします! こ、これから出立するのに! ば、馬車が壊されては!」

 慌てる商人。これから出発だって時に馬車を壊されてはたまらない。商人に雇われた護衛達も動こうとするも、衛士たちが睨みを利かせる。

 「なぁに。安心しろ。後で弁済はする。但し、なにも無く出立できればいいがな」

 「はいぃ? それはどういう意味でございますか!?」

 

 ”べきき……”

 ”がらがらがら” ”べきばき!”

 

 了解も得ず、しかも有無を言わせず馬車を破壊していく衛士たち。

 道具箱を壊し、中から馬車の保全のための道具やら工具を引っ張り出すも、特に怪しい所はない。

 工具の金属と焦げた油のにおいがするのみ。

 二重底の様に開閉機能も無い。

 

 「も、もうよろしいか! 商会から抗議を入れさせてもらうぞぉ!」

 真赤に紅潮させた顔でがなり立てる商人。

 彼の言う通り何も無し。

 

 「何も無いのぉ」

 カンイチも破壊した工具箱周辺を覗き込みぼそり。

 「ふむ」

 腕を組み様子を見守るハンス。

 「クマ? ハナ?」

 

 ”ぅおん!” ”うわん!”

 

 今度はヨルグの顔色が……。が、今尚、諦める様子の無い犬達。

 

 「どれ。後は床……か。剥がせ!」

 「は?」

 「ええのか? ハンスさん?」

 「なんだ? カンイチ。クマたちの主のお前さんが信じてないのか?」

 「そんなことは無いがの……。だが、何が起きているのやら。全く以てよぅわからんのだが」

 ハンス、ヨルグたちは何らかの容疑、いや確信を得ているようだが、この世界の”犯罪”についてはまだまだ知らないカンイチにとってはなにが起きているのかさえ判らない。

 今はヨルグやハンスの、何も無かった時の今後の心配をしているくらいだ。

 「うん? そうか? それ剥がせばわかるだろうさ」

 「隊長。でもこの下には何も……」

 「ええ。地面ですぜ」

 「構わん! やれ!」

 「な、何を……」

 

 ”べきばきべき……”

 工具箱の底、馬車の床部。本来であれば、地面が覗くことになるのだが……

 

 「あ! 隊長!」

 「隊長ぉ! 水ぅ! 水! 治癒師を!」

 板をはがしたヨルグ、ローガンが叫ぶ。

 

 「よぉし! そいつら拘束しとけ!」

 {ぅ応!}

 数人の商人、馬車の御者、護衛に縄が打たれる。その際、

 

 「くそ!」

 一人の護衛の男が剣を抜く!

 

 「ふん! 死ぬ気か? 貴様! よぉし! かかってこい!」

 腕まくりして槍を構えるハンス。

 

 「ハンスさん……?」

 「毎度のことだ。カンイチ」

 「ああ。放っておけ。脳筋隊長だしなぁ?」

 「ああ。すぐ終わるだろうさ」

 

 打ちかかって来る護衛。抜き払った剣を振りかぶり、上段からの斬り落としを放つも、

 「ふん!」

 ひらりと躱し、その剣を握る腕に思い切り槍の柄を叩きつけるハンス。

 

 ”ばききぃぃ!”

 

 打擲された部分から、反対側、あり得ない方向に曲がる腕。新しい関節でも生えたかのように。その勢いで剣も後方に飛ぶ。

 そんな訳ではなく、骨は砕け散り、筋も切れたか護衛の意思とは別にただ、ただ、プランプランとゆれるのみ。

 「あぐぐぐぅ……」

 変形した右腕を抱き膝をつく剣士。

 「次は死んでもらうが? ま、どのみち死罪だろうがなぁ。”誘拐””人身売買”はなぁ!」

 ぐいと、槍で護衛の首元を押さえつける。

 そして、ハンスの視線の先、ヨルグたちが抱え、床下に作られた隠し収納から救出されたのは幼い少女が二人。

 手足はぐるぐるに縛られ、目隠し、口には布が詰め込まれ……下手をすれば窒息で死んでしまうほどだ。その状況下で、真っ暗で狭い隙間に押し込まれ、身動き一つできずに。

 余程の恐怖だっただろう。顔には涙の跡がくっきりと。さぞ苦しかっただろう。怖かっただろう……

 

 「惨い……のぉ。惨い。こういうことじゃったか!」

 カンイチの曾孫の早紀とそう年も変わらない少女たち。無意識に拳を固く握る。

 「すぐに拘束を解いてやれ! 水もってこい水! そういう事だ、カンイチ! ちっ! こいつら、定期的に来てるな……クソ。おい! 何処で仕入れてるんだ! 貴様らは!」

 「……」

 「まぁ良い。時間はいくらでもある。口を割るまで……いや! 死ぬまで責めてやる! クマ! ハナ! そんで、ヨルグ。お手柄だな!」

 ”ぅおん!” ”うわん!”

 「え? ええぇ? 俺、クマたちのおまけかよぉ!」

 ”ははははは”

 ……

 詰所奥に引っ立てられる罪人たち。表向きは真っ当な商人。が、その実は違法奴隷商人だった。

 

 奴隷にも数種類ある。戦争奴隷、借金奴隷。今では違法であるが、性奴隷や、農奴(農業奴隷)。が、ここらの話は主に貴族や、豪商などの金持ちの話。

 違法奴隷、特に、農業奴隷などは、今でも小作と称して、生まれ来る子供達にも番号を付けて管理している始末だ。

 それに抜け道はいくらでもある。なにせ、その法律を作るのは、そういった人々を欲する貴族の連中だ。まだまだ闇が深い。


 「助かったぞ。カンイチ。行方不明になっていた薬屋の娘と、木工職人の家の娘を助けられたわ」

 「いや、ワシの手柄じゃない。……が、惨い、惨いの」

 「だな! ま、こういった事例もあるって事、覚えて……うん? カンイチも農業奴隷の出だったっけか?」

 「違うわい。しかし、他にも行方不明の者はいるのかの?」

 「今の所は……。が、もう、どこかに連れて行ってしまってるだろう。口惜しいがな。仕入れ先、誘拐の実行犯連中にはなかなか行きつかんだろうなぁ」

 「うん? ご自慢の判定機やらは?」

 「それな。住民はフリーだわ。カンイチだって最初の一回だけだろ? ま、今回発覚したからしばらくは住民にも実施されるがな。犯人共もアホじゃない。当分は大人しくしてるだろうさ」

 「なるほど……のぉ」

 ……

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