大ナマズ
……
大きな解体台に出されたヨロイオオナマズ。もちろん尻尾は台からはみ出る大きさだ。
「これまたデカいのぉ。よくもまぁ仕留めてきなさった……」
「うんうん! 立派だね! うぅん? 釣りでもしたのかい?」
アールカエフの指摘の通りナマズの口からデロンと、蛙の足がはみ出る。
ルックが引っ張るもビクともしない。喉の奥に引っかかっているのか。
「ま、似たようなものだわ。アールも要るのか? こいつ」
「今のところはいいや。特に利用方法、欲しい素材は思いつかないしぃ。魔石あっても小さいだろう? ! あ! 期待するのは胃袋の中身だね! 捕食した際の魔石が吸収されずにあるかもしれない! よぉし! バラそう!」
……
アール指揮のもと、順調に解体されるナマズ。
それをお茶をすすりながら、リストとその様子を観察するカンイチ。
最終的には3枚におろされるようだ。
一番の素材は全身を覆う甲殻。硬い割に粘り、弾力があり、カニやエビの様ように簡単に割れることもない。主に鎧、大きいものは商会が有する装甲馬車の防壁等に使われる。水中型モンスター故か、耐火性能もあり、軽く人気の素材だ。
その白身の身も癖も無く、ムニエル等が人気だ。魔物肉故、入荷も稀で値段もお高い。貴族などがその財力を突っ込んで楽しむものになっている。
時期と雌の個体によるが、卵があれば一攫千金! 身は痩せて味は落ちるが、その分を十分に賄える値段がつく。ザクザクとした歯ごたえ、高い栄養価が人気で、不老不死の素材として高値で取引される。
「しかし……カンイチよ。よくもまぁ。こんなにデカいの一人で狩って来たもんだな」
「うむ。思った以上に池から出て、這ってでて来ておったからなぁ。水の中だったらこうはいかん」
「まあな。引きずり込まれてちまうな」
内臓が抜かれ、片方の身(半身)が剝がされたところだ。
新雪のように真っ白の肉が現れる。
「うむ? うん? こりゃぁ美味そうな白身じゃな」
「ああ。あそこの沼の色は黒い池だが、ただ黒いだけで水自体は奇麗なんだよ。泥臭くも無くて美味いぞ」
「ほう。半分引き取るか」
「あ……油断した。お前、”収納”持ちだったな」
そう。大抵は全量買い取り。物好きな者でも一回分の肉を引き取る程度だ。が、カンイチは”収納”持ち。腐らせることなく、大量の肉を所有することが可能だ。そして己で消費しても良いし、ギルド以外の処に売っても良い。
はっきり言ってギルドより他所で売った方が高く売れる。カンイチは未だその辺りの知恵も伝手もないし、ドルの親方達との付き合いもある。リストにも随分と世話になっている。
「なぁに、お裾分けはする。ご家族で楽しんでくれ」
「むむむ……」
リストが顔をしかめているときに、解体現場から歓声が上がる。
「おおお! カンイチ! 当たりだぞ! 当たりぃ! ほら! ほらぁ!」
でろんとトレイに広げられた胃袋から、アールカエフが拳大の塊を掴み出す。
「おぅん? なんじゃそれは……?」
「うん? 魔石だよ! 魔石! なかなかの大きさだぞ? 恐らく、沼の底に沈んでたんだろう。ラッキー!」
その、独特な色の塊をもって小躍りするアールカエフ。
半面、ガクっと肩を落とすリスト。魔石は高価販売利益マシマシアイテムだ。予約リストには数年先まで一杯だ。大きけりゃ大きい程、もの凄い付加価値が付く。
「そ、そうか……良かったの。アールよ」
「何を言ってるんだい。カンイチ! こいつはキミの風呂釜になるんだぞ! これだけ大きれば高性能な風呂釜になるだろう!」
「高性能の風呂釜じゃと? ……普通ので良いのだが」
「まぁ期待してくれたまえ!」
ナマズの解体も終わり、甲殻と肉の半身分、内臓等がギルドに卸された。カンイチもお裾分けと、ドル、ルック、リストに。この場に居ないハンスの分もリストに託す。
もちろん、アールカエフも持って行った。収納持ち故か多めに。しっかりしている。
「じゃぁ! 失礼するよ! またね!」
ホクホク顔で出ていくアール。
笑顔で見送るリスト。内心は……
「ま、ナマズ食って機嫌を直してくれ。リストさん」
「ああ。馳走になるよ。カンイチ。しかし……”精霊”様云々は、眉唾だったが……。満更嘘ではなさそうだな」
「うむ……ワシには解らんがの。ここにも今尚、”精霊”様とやらが居るのじゃろか?」
どうにも背後が気になるカンイチ。
「見えるかの? リストさん?」
リストに背を向けるも、もちろんリストにも何も見えないし、感じない。
「いや。俺にも見えない。が、これだけタイミングはピッタリだしなぁ。他に説明がつかん。今後、カンイチが獲物を持ち込むたびにアールカエフ様が来るのか……」
「アールだって毎回って訳でもあるまいよ。欲しい素材と魔石じゃったか? それが期待できるときじゃろ?」
「そいつがうちでも買い取りたいのだがなぁ。ふぅ……」
「何をいっておる! ギルド長。アールカエフ様の知識が得られるのじゃぞ」
と、ドルの親方
「はい。勉強になります。エルフ族の知識。明日以降のカエルの解体にも活かせられるでしょう。午後、研修にしましょう。通達お願いします!」
と、ルックが追従する。
「あ、ああ。分かった」
「そうじゃ。カエルの肉、回してくれ。焼いて食ってみるから」
「ああ。覚えてたか……」
……
ギルドを出て、宿舎に。ナマズ自体は難敵ではあるが、年数匹持ち込まれると聞いた。ならばと、一回分の切り身を渡す。今回も味見だと強引に。
「う~~む。毎回は流石にアレか。ワシの”収納”云々は内緒じゃからなぁ」
どこかで店に持ち込んで気兼ねなく楽しみたいものよ。と。その時名案が!
「うん? こういう時こそ、アールじゃな。聞いてみよう。そういった店の一つや二つ知っているだろう」
と。そのような店があれば狩にも力が入るだろう
ますます、ギルドに卸される素材が減るが……
……
夕食までの一仕事。
毒蛇の入った瓶を一つずつ見て回る。
「そうそう。新入りも居たのぉ」
水の交換と新たに捕まえてきた蛇を瓶にいれる。これですべての瓶が埋まった。
次に畑を耕し、草を引く。採取してきた、クレソン、セリ、ヨモギを土に刺す。水を掛ければ終いだ。
ポツポツ緑が増えて来た小さな畑。家庭菜園か。それでもカンイチはご機嫌だ。
「さて。夕食まで休憩しようかの。のうクマ、ハナよ」
”ぅぅおふ!” ”わぉふ!”
クマ達と戯れながら食事を待つ。今日も無事に一日を乗り切ったカンイチだった。




