秘密
……
「いやぁ~~本当にすごいねぇ。カンイチ!」
――いや、アールこそじゃ……わざわざ魔石を取りに来るとは
と心の中でつぶやく。
カンイチが大物を仕留めたのを何処からか聞きつけて、そのメインの素材”魔石”を取りに来たのだから。
「そりゃどうも。じゃが、本当に精霊様が?」
不思議でしょうがないカンイチ。一応聞いてみる。
「さて……。ね。ふふふ」
アールカエフは楽しそうに笑うのみ。
こりゃ、聞いてもこれ以上の回答は無いなと諦めたカンイチ。
「しかし、カンイチ。お風呂かね?」
「うむ。ここらの銭湯は、金をとるくせに汚くてのぉ。あの湯舟は我慢ならん」
「そうなんだぁ。僕は入らないからなぁ」
「え!?」
信じられない……そういったカンイチの視線に。
「あ? ああ? 汚くないよ! 僕は! ちゃんと”洗浄”の魔法で綺麗にしてるしぃ! 心外だな! もう!」
「なるほど、ここでも魔法か。アールよ。ワシにも教えてはくれんか? そいつを」
「構わないよ。うちに来るといい! 代価は……そうだなぁ、掃除だな!」
「了解した。よろしく頼む」
――うん? ”洗浄”でどうにかできんのか……”清掃”がないのは残念じゃな。
「なんだい? カンイチぃ~~」
にこやかに詰め寄ってくるアールカエフ。
「いやのぉ……なんでもない」
……
「お帰りなさい、カンイチさん。あれ? アールカエフ様?」
リストとの契約書を握り、解体部屋にやって来た。ここで資材の引き渡しが行われる。
「久しぶりだねぇ! ルック君! ドル君も元気そうで何より! うん? 随分萎んだねぇ、ははははは!」
「良くおいでくださいましたな。ルック、茶。 「はい!」 で? いかがされました? アールカエフ様?」
「ああ、ドルさん、アールが何処からか聞きつけて来てのぉ。ギルド長に魔石を取られないか心配でわざわざ来たそうだ」
「まぁ、仕方ねぇか、アールカエフ様だし」
「はっはっは! そういう事! 早速、今回の魔石、見せてくれるかな! カンイチが風呂釜にとご所望だ!」
「風呂釜……ですか?」
「だろう! カンイチ!」
「ええ、まぁ。そうそう、アール。トンボの羽ってこれで良いかな?」
「うむうむ! 上出来だ! ほう! 中々いい魔石じゃないかね!」
ドルの親方が金属のトレイに乗せて持ってきた物、少々歪だが、大きさはハンドボールくらい。色は例えるならば、赤と黒の飴で何層もコーティングしたような深い色味。
――こんなものが体内で作られるのか……。うん? 尿結石や胆石みたいなものかの……
カンイチの認知としてはこの程度のモノだが、誰もが欲しがる大きな魔石だ。領主が見れば、接収! 接収! と騒ぐかもしれない。
「……違うよ……カンイチ。作られる場所も心臓付近、臍の下、脳内とかさ。こんなのが詰まったら死んじゃうぞ?」
呆れた表情でぼそりとアールカエフ。
「……」
またもやアールに思考を読まれたようだ。しかも少々恥ずかしい内容の。
「ふむふむ。こいつを圧縮すれば、恐ろしい出力が出るな……。大樽くらいの水は一瞬で沸騰するだろうな」
「……アールよ。それじゃ風呂にならんが……」
「それだけ良い魔石ということさ。出張ってきた甲斐があったよ! よし、こいつは研究資材でいいな? 後々、出力の高いものの為に取っておこう。数個集めりゃ、空飛ぶ船も作れそうだ! なぁ~~に。心配するな、カンイチ! 風呂釜には僕の手持ちの魔石でこさえよう!」
そういうと。布で包んでさっさと彼女の”収納”? に入れてしまった。
「そうそう、風呂釜には、この前書いたカエルの素材が必須だ。ギルドじゃ無く、僕の所に持ってきてくれたまえ。特別な加工が必要だ。鞣し師のフルンゲル君にやらせるからさ。じゃ、行こうか! カンイチ! 掃除しに!」
肉の収納もあるので時間を少々頂く。もちろん、ドルの親方たちにもお裾分け。アールもしっかり受け取った。リストとハンスの分をルックに託し、ギルドを出る。
……
「で、カンイチ。キミって神様か何かかい?」
二人並んで道を歩いていたアールカエフが唐突にカンイチに尋ねる。さらりと。
「ワシがか? ははは。まさかな」
「そうかい? 気の在り方が、他のとまったく違うのだがねぇ」
「神なら、風呂一つでこんなに騒がんじゃろ?」
話の内容はこの世界にとっても重大な事……が、並んで歩く姿はごく自然。恋人一歩手前の微妙な距離感だ。
「はっはっは! そういえばそうだね。う~ん。じゃ何者だい?」
「そうじゃなぁ。この星の異物。よその世界の人間。……というのはどうじゃ?」
信じる信じないは別にしてアールならばいいかと話す。自分だけの秘密……誰かに聞いてもらいたくもある。
「ふ~~ん。空想の話だなぁ。面白いねぇ。なるほど。なるほど。納得だね」
「へぇ? 納得するのかよ? アールよ」
「そうだねぇ。突飛な話だけど、信じるに足る確証もあるしね。なにせ、精神と肉体の齟齬。身体能力。加護持ちだし。”収納” ”鑑定”だって持ってるんだろう?」
「なんじゃ、”鑑定”って?」
「うん? 知らないのかい? 物体などの真意、特性を知ることができるよ。ま、帰ったら説明するよ」
「……なんでわかるんじゃ?」
「僕も”鑑定”持ってるし?」
「じゃ、アールも ”収納” ”鑑定” 持ってるのじゃろ、他の世界の人間かの?」
「まさか。僕は正真正銘、この星、世界の人間だよ? 長く生きてるから色々と受け入れられるんだと思うよ? 伊達に1000年生きてないしぃ?」
「すごいのぉ……ワシの10倍か?」
「ふふふ。まだまだ若造君だねぇ。カンイチ君。ふふふ」
――そうだ……ワシは、アールの本質に”母”の姿を見たのかもしれない……のぉ
お互い見た目は青年だが。




