魔石の行方。
……
「おはようございます。ドルさん」
「おう。カンイチさん」
言葉少なくドル親方登場。疲労の色が濃い。
「なんか悪いの……。手間かけさせての」
「いや、はっはっは若い物にも良い経験が出来たわ。あれだけの大物、そうそうバラすことも無いからのぉ。一応、素材の引き渡しはギルド長との契約後での」
「了解した」
”むくり!”
「うん?」
「はふぅ~~い。カンイチさん、おはようさんですぅ」
解体台に寝ていたようだ……
「お? おお。居たのかルックさん。泊りか。ご苦労じゃったな……」
「いえいえ。今、お茶淹れますね。少々お待ちを。来客用のかっぱらってきますんで……」
そう言いながら、解体部屋を出て行くルック。
「やれやれ……よくもまぁ、解体台で寝れるもんじゃ」
さしもの親方も呆れ顔だ
「違いない……」
「で、カンイチさん、礫と言っておったが、体の中には何もなかった」
と、小声でドル。
「そうか……。魔法で生成されているのか、役目を終えると消えるのかもしれんな」
と、頷くカンイチ。
「魔道具か何かかい? おっと、手のうちじゃな」
「構わんよ。ドルさんならの。”あーちはくと”? じゃったか? それが礫を撃ちだすんじゃ」
「アーティファクト……か。なるほどの。心臓に見事に達しておった」
「ああ。普通じゃ無理じゃろ。犬達がの。ガッチリ押さえつけてくれたんじゃ」
「あ、あの大猪をかの」
「最近また大きくなってるようじゃし。狼にでもなるのだろうか?」
「……元は一緒とは言うがのぉ」
ゆっくりと茶を呼ばれてから、一旦ギルド長の所にいくことに。
またあとでと小屋を出る。
……
その時、中庭経由で行く。未だテントが張られたまま。覗こうと思ったが追い払われた。しょうがない。秘密での作業。カンイチが仕留めたと知ってる者も極一部だから。
「やぁ、おはよう」
いつもの執務用の椅子ではなく、ソファーにだらりと腰掛けるリスト。
ギルド長も寝不足のようだ。
「ご苦労じゃったな」
「いや、この”手数料”と”販売益”で食わせてもらってんだ。問題ない。もっとジャンジャン狩ってきてくれ」
「……偶々じゃぞ。今回上手くいったのも」
「わかってるさ。あんな大物。よくもまぁ、生きていたもんだ。それに言うだけは只だからな。で、引き取りだな。魔石売る気は?」
「無い。今は風呂釜が欲しいでの。沸かせる魔道具があればどこでも風呂に入れるしの」
「はぁ、風呂だって?」
「うむ……。ここの不満は風呂と緑茶がないことじゃ」
「……なんてこった。りょくちゃ? というのは知らんが、風呂かぁ。あ、そうか……魔道具があればどこでも入れるな。”収納”持ちだからなぁ。くそ」
風呂となると、そうそう用意はできない。魔力にしろ薪にしろ高価だ。
今回取れた魔石自体は大きく、風呂の魔道具には勿体ないが、代わりに魔道具で補填しようにも、魔道具自体が恐ろしく高価だ。小さい魔石でも。
それでも販売益が出ようが、アールカエフが黙っちゃいないだろう。必ず抗議の声を上げるだろう。彼女の研究にも必要な物だろうから。
「そういう事じゃな。もう少し、銭湯がきれいじゃったら良かったんじゃがのぉ。ありゃなぁ」
垢の被膜に覆われた湯舟を思い出すカンイチ。リストは、風呂を沸かすのをケチったばかりにと臍を噛む。
「ふぅ……今後に期待だな。次は回してくれよ?」
「さて。まだまだ欲しい物があるでの。アールの腕次第じゃな」
「女はがめついからな……」
「ほっほ。伝えておこう」
「ちょ、チョイ待て! カンイチ!」
”こんこん”
「うん? なんだ?」
『ギルド長。アールカエフ様が急ぎの用事と……』
「へ? アールカエフ様ぁ? ……カンイチ?」
ちょうど、彼女の話をしていた所、面食らうリスト。
「はて? ワシは何も知らんぞ。あれから会っておらんし。知らせてもおらん。この後、魔石を持って行こうと思っていたがの。別件じゃなかろうか?」
こんな時にと、顔を見合わせる二人。
「そうか。なんの用だろうか……」
「さて、じゃ、ワシは席を外そうかの」
「悪いな。頼む。すまんな。カンイチ」
「いえ。では失礼するで。また後での」
”ぎぃいいい”
扉を開けるとアールカエフがするりと部屋に入って来た。
「いやぁ~~聞いたよ! カンイチ! 期待通りだねぇ!」
そういって、カンイチの両手を取り、ぶんぶんと上下に振るアールカエフ。
「は? 何のことじゃな? アール?」
「とぼけちゃいけないなぁ。僕達、共同開発者だろ。猪だよ猪。でっかい魔猪!」
驚きのリストと、カンイチ。
あれだけ朝も早くからコソコソやっていたのにと。
「ア、アールよ、何処で聞いてきたんじゃ?」
「うん? エルフ族に隠し事はできないよ! 特に面白いことや、あっ! と驚くことはね。”精霊”様から聞くんだよ? その顔……信じてないなぁ~~カンイチ!」
「い、いや、精霊様……というより、木や草やらにも”神”はいらっしゃると信じてるが……」
「良いね! 良いね! そうそう、それだよそれ。良い心構えだ!」
「ちょ、ちょっといいかな、カンイチ。アールカエフ様、本当に今回の件どこでお聞きに?」
「だから言っただろう、リスト君! 精霊様にだって。マジだよマジ。僕が精霊魔法の使い手って知ってるだろう? 索敵の魔法だってあるんだ! ま、僕の場合は敵を探るより面白い事を探る専用だがね!」
――面白いこと? そんな事に使わないで、精霊様に掃除に力を貸してもらえばよかろうに……
と思うカンイチだった
「それじゃつまらんだろう! カンイチ! 掃除はカンイチが手伝ってくれるのだろう?」
心の中を見透かされ驚くカンイチ。満更、精霊も嘘ではないのかと
「わかりました……。それで、アールカエフ様。急ぎの用事とは?」
「ワシは席を外そうか」
「いいよ。カンイチ。キミにも関係ある事だ。手八丁口八丁なギルド長に説得されて、魔石を手放すかもしれないと心配に思ってね。態々こうしてやって来たんだ。この出不精の僕がね!」
「……」
「……」
どうやら、魔石を取りに来たようだ
「何かね? その表情。うん? 杞憂だったかね?」
「う、うむ。風呂釜が欲しいでの。で、アール作れるかの?」
「風呂釜かね? ふぅむ。問題なかろう! じゃぁ早速行こうか、カンイチ! ”魔石圧縮”を試してみよう! 吹っ飛んだら勘弁な! なぁに、傷が無けりゃ大丈夫だろう! じゃぁ、リスト君。失礼するよ。そうそう。カンイチの魔石は僕のモノ。手出し無用で願いたい。では!」
――ワシのモノじゃが……
と独り言ちるカンイチ
その様子をぽかんと見送るリスト。
カンイチの手を引き、さっさとギルド長室を出て行ってしまった。




