農業EX
……
「……ほぅ。ダイインドゥさんの紹介状? 珍しいねぇ。人族だろう? 君?」
ダイの地図通りに来たところ。町の外れにあり、鉱石やら薪、木炭。コークスまである鍛冶用資材の卸問屋。薪やら木炭は、普通の町人もストーブや、オーブン用に買いに来るらしい。
「は、はい。カンイチといいます。一応冒険者です」
鞄から身分証を出す。もちろん、”収納”から。
「なるほど。冒険者……しかも”銀”ね。良い関係を築けているようだね。で、『瓶を売ってやれ!』と書いてあるが……どういった事かな?」
「そうですね……親方の処で使っている火水の入ってる大きなガラス瓶。出来れば新品を20ばかし譲ってほしいのだが?」
「ふ~ん。何に使うんだい?」
「果実酒のような?」
果物ではなく、入るのは毒蛇だが。
「ふ~ん。果実酒用の瓶もあるが?」
「ならそちらも欲しい」
「わかりました。準備しましょう。何処に運べば? そうそう、このラベルと書類。ラベルは必ず瓶に貼ってくれよ。うちのだと思って回収しちまう可能性があるからな。揉めたときはその書類を。売買譲渡書だよ」
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。毎度どうも」
……
金子を払い、配送先はギルドの寮に。これで蛇も窮屈な袋から解放されるだろう。代わりに死に一歩、近づくことになるのだが。
……
順調に予定をこなし宿舎に。犬達の散歩に連れて行くつもりだ。
「あら、カンイチさん今日はお休み?」
犬達と戯れていた受付嬢の一人だ。毛も長くなってきたし。モフり心地も良いのだろう。
「ええ。まだまだ足りないものがありますから。今日は買い物に。で、今からクマたちを散歩に連れて行こうかと」
「あら、散歩。良いわねぇ」
”ぅぅおふ!” ”わぉん!”
「本当に賢い子達ねぇ。ふふふ」
撫でられても嫌がる素振りはない。普段から受付嬢達に癒しを提供してるのだろう。
この日は東門から出て、犬を遊ばせ、ついでに兎を山ほど狩る。
農民に『野菜もってけぇ~』とも言われたが
「依頼になっちゃったんですよ。なんでも予算確保のためだとか?」
「ああ……なるほどのぉ。リストさんも頑張ってたものなぁ」
「ま、関係ねぇって。持ってけ。持ってけ。どうせ依頼料ったって、極、わずかだろ? しみったれだしな」
「違いねぇ。持って行きな。兎なんざ、この何倍も食いやがる。気にすんな」
「ありがとうございます!」
兎をお裾分けして野菜を頂く。カンイチも野菜が摂れて万々歳だ。夕食で”野菜のお浸し”にしてもらうつもりだ。
……
「お帰り!カンイチ、何やら、問屋から瓶が届いてるよ」
「ありがとうございます! あ、これ、野菜。お浸しお願いします!」
「あいよ! 若いのに野菜好きなんて感心だねぇ」
「体に良いんですよ。腹に良い。便通にも」
「「ほんと!」」
「……あ」
食堂でお茶をしていた受付嬢が声を上げる。反応から見るにかなりのお便秘さんなのだろう。
「ええ。植物繊維……この筋なんかが、出をよくするんですよ」
「いつも言ってるだろう? 残すなって! まぁ、お野菜は高価ってのもあるんだけどねぇ」
「むむむ……」
「西の原にも食べられる草、結構ありましたよ」
「……カンイチ君。ちゃんと依頼が出てて、うちで高価買取よ」
「そうそう。王都直行便よ」
――なるほど、そういえばそんな話を聞いてたな
「ですね……でも、本当に野菜は体にいいんですよ」
……
早速、瓶と蠢く麻袋をもって井戸端に。
注意深く麻袋から毒蛇を一匹ずつ取り出し、瓶にお引越し願う。頭さえ突っ込んでしまえばあとは勝手に入っていく。
蛇が瓶に入ったら瓶の半分くらいに水を入れ、脱走防止に瓶の口を塞げば終わりだ。塞ぐ布はユーノさんの所から裁縫の切れ端を頂いてきた。
この後は冷暗所に保管され、腸の中が奇麗になるまでこのまま。もちろん排泄の度に中の水は換える。排泄もしなくなれば、水の代わりに高い濃度のアルコールが注ぎ入れられ、蛇たちの生が終わる。3年寝かせたら飲みごろだ。
とりあえず瓶に入ったのは15本。瓶に入らないのは焼いて食おうと思ったが、毒採取株としてギルドに持って行くことにした。
「うむ。あと5匹、細いの捕まえればよいの。3年後が楽しみじゃわい」
水面にとぐろを巻く蛇を見ながらの一言。蛇たちもまさか、酒漬けにされるとは思うまい。しゃーー!とカンイチを威嚇しようがすでに瓶の中だ。
「ここに置いておくわけにはいくまいなぁ。部屋のなかさ並べる……か」
女将さんが見て腰を抜かされても困る。いや、あの女将さんのことだ。夕食のおかずが一品増えるだろう。
「……掃除に部屋に入るかもわからん。申し送りしておくか……」
……
夕食にはもう少し時間がある。”収納”から鶴嘴を出し、裏庭を耕すことに。踏み固められ、硬くなった土。このような場合は鍬なんかより鶴嘴でやった方が早い。石とかも取り除けることができる。
「よいっしょ!」
”すか!”
「う? ううん?」
良く耕した耕作地に刺したような感覚。少ない抵抗で鶴嘴が半ばまで埋まる。
「はて……」
”ぐい” ”ぼっこ!”
てこの原理で土を起こす。硬い塊だ。
「ん? 柔らかくはないの? こいつは魔法の鶴嘴かの? その割には安かったがのぉ」
”さくさくさくさく……”
……
気持ち良く鶴嘴が入るので少々予定より広く耕してしまった。勿論ギルド長の了解は得ていない。
「……ま、ええじゃろ。しっかし、魔法の道具はすごいのぉ」
と、ミスリールから買った鶴橋をひっくり返してみたりと。
この世界に来てのカンイチ。こういった理解が及ばない時だけ、都合よく”魔法”を受け入れる。
「お次は鍬で。備中早くできるとええのぉ」
”さく!”
「おおうん? こ、こいつも魔法の道具か! 凄い楽じゃ!」
”さくさくさく!”と土を細かくし、整えていく。
「……さすがに変じゃのぉ。どれ……」
演習所の奥。外れの所の草を鎌で刈る。
”ひゅひゅ!”
何の抵抗も無く草が刈れる
「なんとまぁ……。この鎌も魔法道具という訳はあるまいの。普通の鎌……はっ! こ、これが神様からいただいた農業EX……かの」
そう。上位神の*********から、何処でも存分に耕せよう。と授かったSを超える特級スキルだ。
「ありがとうございます! 神様。これでもう怖いものなしじゃ!」
”そうか?主人よ?”とカンイチを見つめる二頭の犬……。シュールである。
「こうなると肥料が欲しいの。化成(肥料)は無かろうの。石灰は問屋に有りそうじゃな。灰は竈から得られるじゃろ。居住区の近く……糞尿は使えぬの。残飯は出ないし、残った骨もクマたちが食っちまうから使えぬし。とすれば、川で集めた堆積土と……山の腐葉土か。よし。今度は山まで足を延ばしてみるか……ん? 馬糞は使えそうじゃな……」
当面の活動方針が決まったようだ。ビバ! 土いじり!




