農具
……
カンイチがギルドに大猪を納品、大騒ぎしている頃、カンイチの姿はユーノ服店にあった。
食後、早速、ツナギの修理にやってきた。
今のカンイチは町人と同じこの世界の服装だ。それとなく着こなしている。
「う~ん、見たことも無い布地ね……この部分なに?」
作業台に広げられるツナギ。あちらこちら、大猪の牙がかすった穴が。
ツナギの修繕に来たのだが、ついでにと複製の作成を依頼する。
ツナギの布地に関してはポリエステルか何かが入ってるのだろう。カンイチにしては、店にある丈夫な布で作ってもらえばそれでいい。
「うん? チャックかの。そこはボタンで代用じゃな」
チャック……ファスナーのような精密な工業品はないのでボタンに置き換える。
「作業着じゃからの。とにかく丈夫にじゃな。洗濯にも耐えられて、汚れにくい。出来れば汗も籠らん方がいいの」
「う~~ん。なるほど。作業着ね。寸法は、つなぎ? でしたっけ。これから取るけどいい?」
「うむ。問題ないの」
「了解! ところで、カンイチさん、フンドシ特許通ったから作りたいんだけど? 20年は特許使用料入るわ。人気出ても日用品だから期間の延長は無しだけど」
「ワシは構わんぞ。ヨルグさんも欲しがってたな。褌」
「じゃ、早速取り掛かるわ。身体の大きさに合わせて3タイプ作ってみたの」
試作の褌を前に、ここでもお茶を一杯呼ばれる。そろそろ緑茶が恋しいカンイチだった。
「そういえば、ユーノさんや、この靴……造れるかの? 地下足袋と言うんじゃが。ゴム底……こういった樹脂はあるかの?」
「ええ。見せて。なるほど……防水と滑り止めになるわね。この素材は綿かしら。こっちの金具なら作れそうね。引っ掛けるの?」
「うむ。金具でなくとも、靴下のようにして紐で括ってもええ。底に革を張っても良いな」
「親指が独立してるのね。靴屋と相談しても良いかしら?」
「うむ。……え、ええ。お任せます」
ジジィ言葉全開だったことに今更ながらに気が付く。
少々気を抜くと地が出てしまう。カンイチにとってこの世界に来て唯一のストレスではなかろうか
「ふふふ。普通で良いわよ」
「……う、うむ」
何とかツナギと地下足袋に目途がついたので、お次は鍛冶屋に向かう。
……
「いらっしゃーい! カンイチさん!」
「おう! ミスリール! 元気じゃったか!」
「……相変わらず爺くさいな。親父に?」
”かん! とん! かん! かん!”
店の奥からはテンポよく打たれる槌の音が響く。
「いや、いそがしいじゃ……だろ。農作業に使う、鍬やら、鋤を買いに来たんだが……」
「うん? 良いって、良いって。バレてるし。爺臭いの。鍬、鋤ね。後は? 草刈りの鎌も要る?」
どうせバレてるし、親方が来ればジジィ言葉全開だ。であらば、
「おう。鎌もくれ!」
本来の姿に。
「大きいの? 小さいの?」
「……大きいのかの? そりゃどんなのじゃ?」
「ちょっとまってなぁーー。あ、お茶、ご自由に! 持ってくるね!」
……
ミスリールのいう通りに勝手にお茶を淹れてまったりしていると、
「これこれ」
ミスリールが鎌を担いで戻って来た。
長柄の先に1mくらいの湾曲した鎌が付いている。所謂、『大鎌』という奴だ。柄にはハンドルが付いており、円を描くように草を刈る農具だ。
「おう。なんか……西洋の死神が持ってるような鎌じゃなぁ」
「なに? しにがみ? なんか嫌な響きだね」
「ふぅむ……小さい方でよかろう。うん? 広い所を開墾するときに便利かもしれんのぉ。金も入ることだし。せっかくじゃそれも貰っていこう!」
「毎度ぉ~~」
「そうそう、こういった鍬も作ってほしいんじゃが……」
カンイチが紙に書きだしたのは。備中鍬。土をほぐすのに良い。
「うん。大丈夫。こさえておくよ」
「あ、そうそう、鶴嘴もくれ」
「鶴嘴ならいくらでもあるよ。うちら、採掘大好きだからね」
”……どすどすどすどす”
「ふぃぃぃ~~茶じゃ、茶……おう! カンイチ来てたのか!」
いつの間にかに槌音は消えており。奥の鍜治場からダイが顔を出す。休憩の様だ。
「お邪魔しとるぞ。忙しそうじゃな。親方!」
「ああ、珍しく剣の注文が入っていてな。籠手はもう少しの」
「うん。だいじょぶじゃ」
「じゃ、酒…… 「まだ早いし、注文の品が終わったらな! 親父!」 ……わかっておるわい!」
「そうじゃ! ダイさん、ガラスの瓶って手に入るじゃろか?」
「うん? ワイン瓶ならあるじゃろ?」
「そうか……ワイン瓶か……。が、もうちょい大きいのはないかの?」
と、一升瓶くらいの大きさを手で示す。
「うん? そうじゃ! 火水の入ってる瓶があったな! おい。ミスリール持ってこい!」
「了解!」
「アルコール? 酒と違うのかの?」
「うんむ。工業用のじゃ。飲んだら毒じゃな。火おこしやら、火力の落ちた時に使うんじゃ」
「これ」
ミスリールの持ってきた、正に一升瓶サイズのガラス瓶。その中には青色の液体が入っている
「ほれ。青なら飲む気も失せよう? ワシらでも流石にのぉ」
「なるほどのぉ。こいつを20本ばかり欲しいのだが……」
「そいつは通い瓶じゃしの。うむ。紹介状を書こう。元の問屋に行ってみるとええ」
「ありがとう。親方」
地図と紹介状を受け取りダイとミスリールに礼を言い外に。商品は”収納”だ。ここじゃバレてるから。
良い時間なので、道すがら、屋台で食事をとる。
この若い身体、成長期というべきか、軽く二人前は平らげる。乾物屋に御茶コーナーもあったので覗く。残念ながら、緑茶はない…
地図に従いぶらりぶらりと、ダイの紹介状にある卸問屋に向かう。




