やりおったの (撃破)
……
宝箱から立ち上がった”銀の騎士鎧”。満を持しガハルトが対峙する。
浮遊する兜、ガハルトに叩き落され、床に転がったところに
”ベコン!”
ガハルトの渾身のトンファーの一撃が、兜をぺしゃんこに打ち潰し、金属塊へと変える。
”ガシャン”
と、下半身が前方に倒れ、動かなくなった。
「やりおった……の」
「化け物め……」
ぐっと拳を握るジップ
「あれ? 消えないね。これって、全身ドロップ? 師匠、仕舞える?」
「おぅん。どれ、どれ……」
戦場跡に踏み込み、砕かれた銀鎧の左腕を拾い上げ”収納”に。
するりと消える左腕
「うむ。問題ないようじゃの」
「それじゃぁ、回収しようか! 親父! ダンジョンに食われる前に!」
「おうよ! ふむふむ。輝きからいって白金かと思ったがの。ずいぶんと軽いのぉ。またもや新しい金かの」
「親父、考察は後。彼方此方散ってるから集めちまおう!」
「おうさ!」
「俺も手伝います!」
「俺も!」
と、イザーク、アピアも回収班に加わる。ガハルトが砕き散らした金属片を拾い集める
「オレも! うん? 父ちゃんがボコボコに潰さなかったら、このまま装備できたんじゃね? もう、足鎧くらいしか使えないなぁ」
と、銀鎧の転がった下半身を見聞するサディカ
「む、むぅ。仕方なかろう」
少々、バツの悪いガハルト。
「……。ん? 大きさ的にちょうどいい? 細いし? ……試しに着けてみるかな? これ」
「おぅん? 待て、サディカ。何某かの不具合やら、最悪、ダンジョンに呪われとるかもしれんでな。地上でアール殿に見てもらってからにしたほうがよかろう」
と、装備しようとしたサディカにダイインドゥが声を掛ける。
「おう! 親方! てか、もらっていいの? ラッキー!」
と、さっさと自分のマジックバッグに銀鎧の腰から下の下半身をしまうサディカ
「……ま、よかろうよ。どれ、欠片、集めちまおう」
「ガハルトも一応、傷薬塗っておけよ」
「おう! 剣も一応は無事だな。ジップ、使うか?」
「そいつはありがたいがな。どのみち、地上に行ってからだろう。呪われたくねぇし?」
「”魔剣”という感じはせぬがな。まぁ、持ってろ」
転がっていた鞘に剣を収め、ジップに放る
「うぉお? ずいぶんと軽いな……。強度は大丈夫か? これ?」
「その辺りは地上で親方にみてもらうのだな」
「悪いな。ほぅ、中々に美しい剣だな」
しゃらん! 鞘から引き抜き、剣の調子を見る。刃文が薄っすらと浮かぶ刀身が鈍い光を反射する
「うん? 魅了の呪いでもかかっていたか?」
「さてなぁ。ありがたくもらっておくわ」
……
『ふむ。終わったようだな。宝箱の魔物も面白いな、イザークよ』
「いえ? 俺じゃ死んじゃいますよぉ。それにそうそう転がっていませんけど、宝箱は」
『見つけたら開けてみるか……』
「でも、毒の霧やら、毒矢、爆破するとか? 罠の種類も多くあるようですよ、フジ様」
『うむ? なるほどな。魔物がでるとは限らぬと』
「ええ。やっぱり罠は回避できるならしたほうが良いかと」
『そうよな。ハナが怪我をしてもつまらぬな』
「じゃろう。誰かさんにはわからん道理だがの」
「うるさい」
もちろん、ガハルトに向けられた皮肉だ
「でも、カンイチさん。”人”だからでしょう? どうしても”欲”がでますから」
「ふむ。心理じゃわな。が、誰かさんにはその心理も関係ないがの。罠と知っていて開けるのだから」
「は、ははは……。かも?」
「……うるさいわ」
……
「ふぅ。これでどうやら、この階層の地図は埋まったぞい」
と、画板に描かれた55階のフロア・マップを披露するダイインドゥ。ミスリールの計測した距離も書き込まれ、これ以上無いくらいの完成度だ。採掘ポイント、採取ポイントも書き加えられている。もちろん出現する魔物も。魔物については別に詳細な情報がまとめられている
「ご苦労じゃったな、親方、ミスリール」
「最高到達点、更新だね! 師匠!」
「うんむ。(鍛冶師)ギルドの連中にこいつを見せたら、次回の攻略の時、ついてきそうじゃな。”収納”持ちのカンイチもおるで。皆で掘り放題じゃな。はっはっはっはっは」
「かもしらんな。ま、ドワーフの連中は戦士でもあるから問題ないがな」
と、ガハルト
「うんむ! 極上の金属がわらわら出るのだし。食い物や水も自由じゃでな。ま、さすがに酒はあってもご法度じゃがな」
「本当についてきそうだな……」
「が、それじゃ実入りが減っちゃうだろ? 親父。師匠の」
「そうともいえるの。が、採取と採掘のスピードは段違いじゃぞ? すぐにもここまでこれようさ。青トゥローやネズミ男くらいはなんとでもなろうさ」
「ふむ……その分深くか……60階以降も……」
と、ダイインドゥの言葉に考え込むガハルト。彼にしたら金子よりも強敵との会敵のほうが重要だ。そこに、
『より魔力も取れるな』
と、フジも乗る。げっそりとした表情のカンイチを他所にニンマリと笑う、魔獣がニ頭。片方は本物の魔獣だが
「わしは浅いところでええがの」
『そもそも、お爺が悪い。わざわざダンジョンに潜るのだ。腹を括れ』
「そうだ! フジ様のいうとおりだ! カンイチ! やる気が足らんぞ! ヤる気が!」
クスクスと笑いながら事のなり行きを見ているメンバーたち
ふぅ……と、大きく息を吐くカンイチだった
……




