そりゃ、厄介だなぁ (銀の宝箱の中身は?)
……
試練を越えたカンイチ一行。そのご褒美に”銀”色の宝箱が出現。
宝箱に仕込まれた罠の有無を確かめるダイインドゥ、ミスリール。宝箱の前に座り込み、指の感覚、細々とした道具を駆使して慎重に探っていく。
「あの(器用な)親方とミスリールの嬢ちゃん二人がかりでもけっこうかかっているな……。普通だったら、この宝箱、開けられねぇじゃねぇか? なぁ、サディカ?」
ダイインドゥたちの気が散らないように、少し離れたところから眺めているジップ、小声で隣りにいたサディカに問う。サディカにしたって期待で目を輝かせている
「そうかも。ドワーフ族に並ぶ技の持ち主はいないもんなぁ。罠に嵌まるのを覚悟で開けるしかないなぁ。”即死”系の毒やら”人食い箱”じゃないことを祈ってさ」
「”即死”の罠かぁ、おっかねぇなぁ。”人食い箱”? そんなに厄介な相手か? そいつは。やったことあるか?」
「オレは遭ったことないけどさ。噂によると、かなり強いとか? そいつに当たれば喰われちまうから、そんなに伝わってないのさ~~」
「お、おおぅ。そりゃ、厄介だなぁ」
「父ちゃんは、『でろ! でろ!』 ってブツブツ言ってるけどなぁ。小声で。くす」
「だろうな! 今も親方の後ろに突っ立ってるもんなぁ。困った奴だな! 親方、危ないだろうに」
「かといって、宝箱を目の前にして『開けない』なんて選択肢はねぇもの」
「だよなぁ~~。一攫千金! だもんなぁ」
「そもそも、宝箱なんか、そうそう出ないけどねぇ」
「そうだよなぁ。宝箱……かぁ」
……
一方、カンイチとイザーク
「イザーク君の十手術もずいぶんと上達したのぉ。ネズミ男の速い突きも見えているようだったしのぉ。見事ないなしじゃったぞ」
危なげなくネズミ男を屠った、先程のイザークの戦いっぷりを褒めるカンイチ。
「ありがとうございます! これもカンイチさんの指導のおかげです」
若者の謝意に自然と頬がゆるむ
「そう言ってくれると嬉しいの。わしだけでなくアカマチ殿の御力も大きいの」
「え、ええ……アカマチさん……動きを止めると抱きつかれてキスされますしぃ……。そして、顎髭でジョリジョリと……」
「はっはっは。そりゃぁ鍛錬にうんと身が入るのぉ、イザーク君」
「ですね……。俺も必死ですんで。は、ははは……」
……
”カチャチャ!” ”カチャ!”
「ふぅ……。ようし! 開いたよ! 師匠! 師匠! 宝箱!」
「お! ご苦労じゃな。それじゃぁ、開けておくれ」
「じゃ! 開けるよぉ~~! おお!? お?」
と、少々困った表情のミスリール
「おぅん? 何が入っていたんじゃ? ミスリール」
宝箱が消えると同時にミスリールの手には古ぼけた鍛冶用ハンマーが一つ。
「ハンマだよ。それも、こりゃ鍛冶用のハンマだね。うん? でもなんで”銀”の宝箱からで、鍛冶用ハンマなんだ? なぁ、親父?」
「どれ、見せてみよ?」
ミスリールからその”鍛冶用ハンマ”を受け取り、手にしたハンマを隅々まで調べだすダイインドゥ。ぶんぶんと振り下ろすも何も変化はおきない
「ふむ? ふむ? 鎚頭から火でも噴き出るやとも思ったがの。特段、変わった点はないの。金(属)もありふれたもののように見えるが。ふむ……。こいつはワシらで預かっていいか?」
「うむ。適任じゃろう。皆、依存はなかろうさ」
「ああ、俺たちじゃ使えないしな。親方、持っておいてくれ」
と、ガハルト。他のメンバーも頷く
「うんむ。上に帰ったら鍛冶で使ってみようさ」
「そのハンマー。いいものだったらええがなぁ」
「うんむ。なにせ、50階ででた”銀”の宝箱じゃでな! 何某かの効果があるといいがな! 楽しみじゃ!」
「よし、それじゃぁ、降りて野営の準備をせようか。今日はもう休もうさ」
……
50階の試練の間を抜けた一行。
51階に降り、野営地になりそうな行き止まりの区画を探しながらダンジョンを彷徨う。
「ふんむ。階層の広さは変わらぬといいがな……」
「今のところ、この階は通路ばかりだね。行き止まりはどこかねぇ~~」
と、帳面に”地図”を落としながらドワーフ親子。ミスリールが車輪のついた距離測定器、いわゆるロードメジャーを押し、ダイインドゥが測量結果と周辺の様子などを紙の上に書き落とす。
「お! 親方! これって”採掘ポイント”だろ? 見てくれ!」
「でかした! ジップさん! 当たりだ! 親父ぃ! こっち!」
”採掘ポイント”があれば、都度、行軍は中断。鶴嘴を振り採掘を行う。
採掘ポイントからころりと出現した鉱石を手に取る
「ふんむふんむ。なかなかの純度のミスリル鉱石じゃな。こっちは緑鉱石か。うむうむ。精製が楽しみじゃな」
と、ダイインドゥたちが得た鉱石を調べているところに
「バロォォォォーーーー!」
通路前方から雄叫びを上げながら青いランド・トゥローが駆けてくる。その手には無骨な木の棍棒が握られている
「ほう? 武器持ちか? 一応?」
「どれ! 俺がいこう!」
するりと腰のフォルダーからトンファーを引き抜くガハルト
「ほんと、好きなぁ……お前」
呆れるジップを置いて青トゥローに突っ込む……




