ブバブババブブブ…… (変わったゴーレム)
……
地下40階
初めて遭遇して以来、フジを取り込んだトラップ型の”新顔”の魔物との遭遇は無く、”土”ゴーレムをクマたちが喰らいながら順調に40階までやって来た。
「こ、ここが40階の試練の間……かぁ……。すげぇ……」
門を見上げ感激の声をあげるアピア
30階の”試練の間”同様、入口となる緻密な彫刻が施されている門を並んで見上げているのはイザーク、アトス。アトスに至っては彫刻を愛でながら、うんうんと頷く
「どこも大して変わらんだろうに?」
フン! と、つまらなそうにガハルト。彼にしたら門などもうどうでもいいようだ。
「親方ぁ! 珍しいのが出ると良いね」
「うんむ! 宝石系のが出るとええのじゃがな!」
サディカの激に愛用のバトルハンマを振り回すダイインドゥ。
期待に胸を……いや、大胸筋と肩周りの筋肉を大きく膨らませて。びきりびきりと筋繊維の弾ける音、浮き上がる蒼い血管
「どれ、茶で一服したら行こうかの」
{おう!}
……
「ふん! ふん! ふん!」
”ガラランガラン……!”
ダイインドゥのバトルハンマの連撃が”鉄”ゴーレムの肩口に叩き込まれ、ゴーレムの右腕が肩から外れ甲高い音をあげて床に転がる
「どぉぅらぁ!」
”ゴガァイィィン!”
遠心力を存分に生かした重い一撃。ダイインドゥのバトルハンマがゴーレムの右側頭部を捕らえ、肩の上から弾き飛ばす
”ガララン……!”
鉄の塊と化したゴーレムの頭部が転がる。
”ギィ……ガツン”
ゆっくりと床に膝をつく”鉄”ゴーレム。
「ふぅぃぃぃ……。こいつは全身残るようじゃな。カンイチよ、仕舞っておくれ」
「おうさ。10体中6体残ったんじゃ、上出来じゃろ。ご苦労さん。親方、ミスリール、アトスさんたちもの」
ダイインドゥが第二陣、最後の一体を屠ったところだ
40階の試練の間、第一陣は”鉄”ゴーレム5体、第二陣も同様に5体。
ダイインドゥ、ミスリール、アトスが前にでる。アトスもダイインドゥに鎚頭の大きな鍛冶用のハンマを借り前線に。ジップやイザーク、クマたちがダイインドゥらに集中しないように牽制、全てを制した。
「……うむ」
「さすが親方だな! よし! 俺もトンファーで出るかな」
と、マジックポーチから鉄製のトンファーを引っ張り出すガハルト。手首をほぐすようにくるくる振り回す。
「駄目だろ、父ちゃんは。クマたち並にドロップでないし? くす」
「うるさい……サディカ」
「てか、クマたち、ドロップ無しだよサディカ。それと一緒て、くす」
と、ミスリールの指摘にガハルトは顔をしかめる
「ばっはっは。しかし、”鉄”しかでておらん、もう一回くらいほしいのぉ」
「うむ。”高い”のが出るがええがの。ピカピカ光ってるのがの」
ダイインドゥにカンイチが答える
「そこは”強い”のだろが! カンイチよ!」
と、鉱石系の金になるゴーレムでは出番の少ないガハルトがぼやく
「ま、おヌシならそうじゃろな」
「お! 来た! 師匠! 追加だ! 追加! 第三波だ!」
「うむ! 備えを……おうん?」
三本の柱が輝き、3体の”ゴーレム”が現れる
「な……」
「なんだあれ?」
「ゴーレムか? アレは?」
「冒険者? 彷徨う死体……か? が、ここは試練の間……」
光が収まるとボロボロの服や装備を纏う『冒険者』が現れた。
更に光を発する石柱、そして新たに3体の冒険者を吐き出す。合計6人――6体の冒険者が現れた
「あ、あれって……」
固まるアピア
最初に出てきた3体、その中にアピアを置いていった元仲間の二人の若い冒険者の顔を見る。
「ああ、アピア、お前さんの仲間……だったよな?」
と、サディカ。連中からギルド証を取り上げたのは彼女だ
「マルド……。テニア……? お、おまえら死んじまったのか……」
唖然とするアピア。
ついの最近まで一緒に行動していたチームメンバーだ。捨てられた恨みはあるものの、寝食をともにし、活動してきた仲間たちだ。
皮膚は青白く、ところどころ赤黒いが流血の後はない。その目には生気がなく、灰色に濁った白目。開け放たれた口からは ”ゴボゴボゴボ” 粘性のある黄色い液体があふれる。
「似てる……だけって訳ではないよな」
と、サディカも小声で呟く。ゆっくりと頷くのはアピア
「”彷徨う死体”? これってゾンビになるのでしょうか、ジップさん?」
と、イザーク
「さぁな。どうなんだ。俺はダンジョン、初心者だかんなぁ。で、ガハルト?」
「さてな。”死”の臭いはないがな。それが”彷徨う死体”じゃなけりゃ、そいつらもどこかで生きてる可能性はあるだろうよ。まぁ、いい! いくか!」
『よし! 我らも行くか!』
「ええぇ~~?! フジ様、クマたち行かせるんですかぁ? ……なんか人を貪り食ってるようで……」
と、顔をしかめるイザーク。
『ん? そうか? ”人”とは細かいことが気になるものだな、美味い不味いはあるが肉は肉であろうが。イザークよ』
と、不思議そうに首を傾げるフジ。
「は、はぁ。なんか、すいません。フジ様」
「うん。少しわかるわ」
とジップ
「うぅん? 行かんのかの?」
現れた『冒険者』の成れの果てたちは襲いかかってくることもなく、出現した石柱の前に佇んでいたが、一斉に、合図でもあったように
「ブバブババブブブゥゥプゥーーーー!」
歪な口を大きく開き甲高い叫び声を上げる。そのまま奇声を発しながら両腕を持ちあげる『冒険者』たちの成れの果て。
ぐいん、脊柱が伸び、泡立つように体が膨れ上がる。伸び、引きちぎれる皮膚、溢れる内臓。歪に膨らんだ肉の塊に。
”ごぼごぼぐぼぐぼ……”と、ゼリーのような粘性のある赤黒い物体を口があった場所から吐きだしながら小走りでかけてくる
「げ! 気持ち悪いぃ! いけ! サディカ!」
「ええ!? それはないですって、ミスリールさん!」
……




