一体じゃもの足りぬ! (試練・鉄ゴーレム 後)
……
5対6の混戦だ。試練を与える鉄ゴーレムから見たら戦闘不参加のカンイチたちも試練を与える対象だ。一斉に前に踏む出す鉄ゴーレムたち。
最初に突っ込むのは言わずもがな、ガハルトだ。両の手に金属製のトンファーを握りしめて。
あえて気を引くためか、短い部分を握っての棍棒の用法で、先頭の鉄ゴーテムの頭部を殴りつける。
”ギギギ……”
鉄ゴーレムも脅威と感じたか、全てのゴーレムたちの頭がガハルトに向く。ニヤリと笑うガハルト。
踏み込み、先頭の鉄ゴーレムの膝頭にトンファーの重い連撃を叩き込む。金属と金属。甲高い打撃音が響き渡る
「ふん。遅いな!」
ガハルトを抹殺しようと、重い、黒鉄の拳を振り下ろすも、スルリとかわし、二体目の鉄ゴーレムに肉薄、腕をトンファーで払い、頭部と胴の継ぎ目に突き入れるよにトンファーをねじ込む。
そこに、横をすり抜けられた一体目が踵を返し、背後より近づくも、
「お前の相手はオレだ!」
と、サディカがその背後から、挨拶代わりにトンファーの連撃を叩き込む。一体目の鉄ゴーレムも相手をサディカと決めたようだ。再び向きを変え、正対し向かい合う。
「ふん! 一体じゃもの足りぬ!」
と、三体目にもちょっかいを出すガハルト、二体の鉄ゴーレムに挟まれる格好だ
「なにやってんだよ……あのバカは……自分から……」
と、ジップ。その顔は心配よりも呆れか
「ま、脳筋大王だからの。毎度の事じゃて。お~~い! 怪我するでないぞぉ~~ガハルトよ」
「するか! くっくっく! はっはっはっはっは!」
金属の打撃音とガハルトの大笑がダンジョンの壁に反響する
二体の重い、鉄拳をトンファー器用にいなし、神速の体術で躱す。後頭部にも目がついているような、ミリ単位の攻防だ。その中に身をおいてまでもガハルトの顔は笑っている
「……ありゃ、ほんとうに戦闘狂の脳筋大王だな……。しっかし、器用に躱すもんだな」
「じゃろ。万が一というのもあるで、フジ、備えの方は頼むの」
万が一、いや既に、鉄ゴーレム二体に挟まれての戦闘は常人には”無理”、”無茶”の領域だが
カンイチも”収納”から、散弾銃を引っ張り出す。スルスルと銃身が伸び、先端に射撃時の反動を押さえるマズルブレーキが現れる。ライフルとしての運用だ。それを肩付けで構える
『ガハルト、奴であれば問題なかろうよ。なぁ、イザークよ』
「そうですね。ガハルトさんには油断というのもないですし」
と、木の器に水筒の水を満たしていくイザーク。
「す、すげ……」
新入りのアピアは呆然と立ち尽くし、戦闘を見守る
四体目の鉄ゴーレムの前にはバトルハンマを構えるダイインドゥ。
「ふむ……。さっさと片付けてガハルト殿の応援に征くべきか……」
「いや、放っておけば良いだろうさ、親父。邪魔するなと文句言われるぞ?」
「だの。じゃぁ、わしらも一体づつ受け持とうか!」
「おう! 丸々ドロップしますように!」
「……うむ!」
それぞれの相手を定め駆け出す、ダイインドゥ、ミスリール、アトス
「ほぅ。言うだけのことはあるな。親方たちは」
”ガン!” ”ゴン!” ガガン!”
ガハルトほど派手な音ではないが、こちらも金属のハンマが叩き込まれ、甲高い打撃音が響く。手数が多いせいでとても賑やかだ
「打つところが決まっているようだな。膝頭、手首、胴と」
「うむ。どうやら、親方たちドワーフの連中には打つべき場所が見えてるようだで。鍛冶で培った経験か……」
「お! 耐えられずに手首から先が取れたな」
「ああやって、徐々にバラしていくんじゃ」
「で、アトスは……。う~~ん。いまいち精彩を欠くな」
”ガイン!” ”ガガイン!” ”カン!”
と、おおよそ、斧の攻撃音とは違う響き、ぱっぱと火花があがる
「弾かれているのかな?」
「が、正確に肘の継ぎ目には入っているがの。なかなか斬れんな。わずかに刃先が滑っているのか」
……
”がんがん!” ハンマを振り回すダイインドゥ親子
”ぶんぶん!” トンファーを振り回すガハルト親子
次々と動きを止め、膝をつき擱座する”鉄”ゴーレム。
跪いた格好のまま消える個体もあれば、バラバラになっても残る個体も
「おほぉぅ。本当だなぁ。親方たちにかかるとバランバラだな。バラバラになっても消えないのはドロップか?」
「うんむ。あれだけバラバラでも親方たちなら元通り、綺麗に継いでくれるぞ、ジップさん」
「……継ぐ? おいおい。また家にゴーレム並べるつもりか? アールカエフ様に叱られるぞ、カンイチ……」
「ぬむぅ!」
……
「ふぅ……。”鉄”ゴーレムのドロップは2体か。カンイチよ、仕舞ってくれ」
汗を拭いながら、カンイチのところに戻ってきたガハルト。その顔はとても満足そうだ
「う~~ん。今日はドロップ率は低いの。残念じゃな、カンイチ。金子にならんのぉ」
と、バラバラになった鉄ゴーレムを拾い集めるダイインドゥ。
「いや、それはええがの。もう試練は仕舞いかのぉ」
「そうみたいだね。師匠。宝箱もないみたいね。次の40階に期待だね!」
と、石柱の前で様子を窺っていたミスリールが声を上げる
「そうじゃなぁ。じゃぁ、行くかの。今日はもう野営地探して休むとするか、親方」
「うむ。途中の採掘ポイントにはちゃんと寄っていくぞ」
「おう! これからが本番だぁ!」
と、早速と鶴嘴を引っ張り出すダイインドゥ親子
「ジップ殿もアトス殿、アピアも”採掘ポイント”発見、頼むぞ」
「お、おう、親方。”採掘ポイント”……なぁ」
「がんばります! 親方!」
……




