全部”石”かよぉ (30階試練の間)
……
「……で、ここが30階の試練かぁ、流石に、ここまでくると並んでいるやつはいねぇなぁ」
30階へと到達した一行。その眼前にはボス部屋”試練の間”、そしてそびえ立つ門が開き、挑戦者を迎える。門の見た目は10階、20階の意匠はそう違わないが、試験官を現す”魔物”のレリーフが、ゴブリンの意匠から巨大なゴーレムの意匠へと変わる。
「……ふむ。ここからは、ボスがゴーレムだったな」
と、”門”を観察するアトス。
「本当に良くできていますよねぇ」
イザークの言葉にアトスが頷く。二人で近くに寄ったり、しゃがんだり、回り込んだりと、門に彫られた緻密な彫刻を楽しむ
「ええ、ジップさん、此処から先は、上位ランカーのチームしかね。腕もだけど、それなりの”マジックバッグ”も必要だし。スポンサーがつくとマジックバッグが借りられるけどな」
と、サディカ
「そうなぁ。物資の運搬か。ひと月分の食い物と水かぁ……往復分の。無いと確実に死んじまうわな」
「このダンジョンで食料を得るのは難しいから。草しか採れないもの」
と、サディカが補足を加える
「それじゃぁ、力もでないな。今のところ、水もねぇときたもんだ」
「あるにはあるんですけどねぇ」
「ん? 確か一箇所、あるって受付で聞いたな……。なにか問題あんのか?」
と、怪訝な表情でサディかを見るジップ
「まぁね。ついたら説明するよ」
「ふむ」
……
「ここが30階……かぁ」
ここにも一人。30階の試練の間の門を見上げる青年が。
「そうだなぁ。新人の”鉄”がそうそう来られる場所じゃねぇわな。もちろん進むよな、カンイチ」
「うむ。ゴーレムが残りゃ(ドロップ)大金が入るでな。それに、親方らの採掘だってここから先が本番じゃてな。のぉ?」
「おうよ!」
と、バトルハンマをポーチから引っ張り出すダイインドゥ。ミスリールも鍛冶で使う頭の大きいハンマをとりだし、ブンブン振り回す。
「また”銀”のヤツがでるといいねぇ! 師匠!」
「うむ。なかなか”銀”はでんでなぁ」
「ああ。最初の一体以降、”鉄”以外の金属、鉱石系のゴーレムは出現していないでなぁ。寂しいものよぉの」
「それじゃぁ休憩したら入るかの」
「そうじゃな! 腕がなるわい!」
「おぅ!」
ブンブンとハンマを振り回す、ドワーフ親子
「お、おう? いつもは冷静な親方がずいぶんと張り切ってるな。どういうこった? ガハルト」
「ああ、ゴーレム系統の魔物はドワーフ族の大好物のようでな。すごいぞ。もう、ハンマでぶっ叩いてバラバラだ」
「ほ~~ん。そういうもんか? 剣と相性悪いもんなゴーレムは。バクラ、ハンマは使えねぇのか?」
「……ただ叩くだけならな。が、ゴレームを破壊するとなるとな……。……”石”ゴーレムくらいは割れると思うがな」
「親方とミスリールが張り切ってるわけだな」
今尚、ぶんぶんハンマを振り回すドワーフ親子
”ぶひゅーー!”と、鼻息荒く。
「おうさ! 貴重な金(属)も手に入るしの!」
『では参るぞ! 金属やら宝石以外はこっちで貰うぞ』
「フジ様、俺も混ざっても?」
と、おずおずと話しかけるガハルト
『ディアンの代わりに混ざれば良かろう?』
「オレも! オレも! 混ざる!」
と、手を挙げるサディカ。
ガハルト親子も打撃武器のトンファーをブンブン振り回し、牙を剥き、笑う
「ん? ジップさんもアレに加わるかの?」
そうっと、やる気の満ちた集団を指差すカンイチ
「いや、いいわ……」
門をくぐり試練の間に踏み込む一行。
試練の間は、どの階層も作りや広さはほぼ同じ。石柱はゴーレムに合わせてか太く、その数3本。
石柱が輝き、その光の中からのそり、ズシン、ズシンと今回の試練の試験官が現れる。その数3体。そして再び光を発した中央の柱から一回り大きい個体が1体。
「うぇぇ……。ハズレじゃん。全部”石”かよぉ。残念! 師匠、石だ、石!」
と、ミスリール
石柱から現れたのは石でできたゴーレム。所謂、ストーン・ゴーレムだ。ゆっくりとその重い体を進める
「一体は一回り大きいがな……。”武器持ち”も確認できんのぉ」
「ただ大きいだけみたいだな、親父」
「ふむ」
「へぇ~~。”石”ゴーレムかぁ。本当に石を積んだような形だな。ん? 目もないぞ? それに……あれだけ大きい敵が4体か。ここじゃぁ少々狭いな」
と、ジップ
「……そうだな。が、確かに”石”と”刃物”とは相性が悪いな。……関節もあってないようなものだな。あのかたちは……。関節などの継ぎ目はどうなっているのだ」
「だな、アトス。魔力の糸ででもつながってるのか?」
「……さてな」
『よし! ここは我らの出番だな!』
と、一歩前にでるフジ。続くように、クマ、ハナ、シロが前に出る
”ぅおおん!” ”ぅわぁん!” ”ぅをぉん!”
足を突っ張り、首周りの毛を逆立てて。
”ぉおおお~~~~ん!”
遠吠えとともにクマたちの体毛が光り輝き、フジから合図がでたのか一斉に石ゴーレム目がけて駆け出す。太い四本の足がダンジョン床を掴み、いきなりトップスピード、光曳く弾丸のようにそのまま”石”ゴーレムの分厚い胴体目がけて突っ込む。
クマは中央、ハナは右端、シロは左端のゴーレムへ。すり抜けるようにゴーレムの背後にシュタっと降り立つ三頭。
突貫を食らい、腹部に大穴を開けた三体のゴーレムが同時に粉々に爆散する。欠片が床に落ちる前にゴーレムは靄となって消えた
……




