魔猪。
……
先ほど奇跡的に仕留めることが出来たトンボだが、4枚ある羽根の内、無事なのは2枚。
アールカエフがどう加工し、使用するかはわからないが、扇風機ならもう少しいるだろうと再び出陣。
ルックに頼まれた頭も無くしてしまったし。
作戦は先ほどと同じ。”ボーラ”で絡めて落とす。だ。
沼に近づくなり、上空にトンボの姿が。即、餌認定されたようだ。
すぐさま、追いかけられる。
再び、木の茂る林の方に逃げ、同じ方法をもって二匹目も屠る。
今度はちゃんと頭も付いている状態で確保。羽も3枚無事。上々の結果だ。それらを”収納”に入れて今日の狩は終了。
ボーラをかたずけていると……
”ぴくり”
背筋が凍る。ものすごい殺気が向けられる
””ぐるるるるるるぅぅぅ……””
クマたちも気が付いたようだ。何かが来る!
「気を付けろぉ! 来るぞぉ! クマ! ハナ!」
””わぅうう!””
”バキバキ!”
と、細い木をなぎ倒しながら現れたのは、見たこともない、体高、3mはあろうかという巨大な猪。もはや、ダンプカーだ!トンボの肉にでもつられたのか、それともトンボを仕留めた際の二回の振動だろうか。
「デカい……のぉ。曾孫が見てた映画のようじゃな」
呑気に、孫、曾孫と観たDVDのアニメ映画の一コマを思い出すカンイチ。
”わふ!”
ハナの吠えで我に返る。今はそれどころではない。
跳ね飛ばされようものなら即死だ
「おっと。そうじゃった! 感心しとる間に跳ね飛ばされるところじゃったわ!」
足下のロープを拾い上げ、再びボーラを回し始めるカンイチ。
”ぶぅ~ん、ぶぅ~ん”
カンイチを睨み付けていた猪、突進の準備が出来たようだ。
”どどどどどどどどど!”
一直線にカンイチ目掛けて突っ込んでくる!
”ぶぅ~ん、ぶぅ~ん”
カウボーイよろしく、ボーラの投擲タイミングを計るカンイチ。
猪の迫力に腰が引けるも、我慢。
回り込むようにタイミングよく突進を躱し、ボーラを投擲!
足に絡むも片足だけ、猪はそんな物、気にする様子も無く、突進する。
ひらりと躱すも、すれ違い様、大きく頭をしゃくりあげる猪、危うく牙にかけられるところだった。その頭を振った反動を利用し小回りで旋回。再び突っ込んでくる。
「こ奴! 戦い慣れてるの! 畜生の分際で! おっと!」
再びかすめる巨大な牙!
”どっどっどどどど!”
猪もカンイチを踏み潰そうと突進を繰り返す。
何回目かの突貫か。ロープが木などに絡み、最初よりも随分と短くなった。
すると、旋回した拍子にロープが”びーーーーん!”と張ったところに、カンイチには運良く、猪の内側の足をロープが攫ったようだ。
”どぉガガガガガガが……”
盛大につまずき、転がる猪。
”ゔきーーーーー”
猪の絶叫
そのチャンスを見逃すカンイチではない、
”どごん!”
すぐさま、スラッグ弾を猪の左目に撃ちこむ!
”ヴィぴーーーー!”
大量の血を左目から吹き出し、暴れる猪。
立ち上がろうと、頭を振り暴れる猪に躍りかかる、クマとハナ。
”ごぉ!” ”どごぉ!”
食らいつくではなく、前足で、犬パンチ? を繰り出す。くらった猪の巨体がぶれる!
「クマ!? ハナぁ!?」
横倒しになった猪の首元にすかさず食らいつき巨大な猪を地面に押さえつけるクマとハナ。犬など軽軽飛ばしそうな勢いだったが、びたりと地面に縫い付けられる。今や足が天を向いている格好だ。その様子に流石のカンイチも驚き、動きを止める。
落ち着いてよく見ればクマ、ハナの身体が薄っすら光っていたことに気づいただろう。彼らは”魔法”と言われるものを使っているのだ。
”ぅぅううふ!”
クマのくぐもった吠え声で我に返り、急ぎ、急所、正面から心臓めがけ、スラッグ弾を放つ!
”どっごん!”
が、銃弾は届かず! その空いた穴から滝のように血が流れ出す。
「ならば!」
と、銃剣を弾丸の開けた穴にねじ込む!
”ぶぅううきぃぃぃーーーー!”
「こ、この!」
筋肉か骨か、中々深くに刺さらない。
「このぉおおお!」
”がくん”
どこかに引っかかっていたのか、つかえがとれて、一気に銃身が猪の体内に沈む。
”ぐぷきぃーーーー………”
傷口から勢いよく吹き出す血。どうやら、肺腑、心臓に到達できたようだ。
動きを止める猪。
「ふぅ……。難敵じゃったな。クマ、ハナ。ようやった。南無阿弥陀仏……」
血まみれのままそっと猪に手を合わせるカンイチ。
段々と目から生の光が消えていく猪に糧としての感謝と鎮魂を……と。
「血の臭いで新たな怪物が来ても敵わん! 急いで帰るぞ!」
””わぅふ!””
体を休めたいが、その体にムチ打ち、撤収の準備を始めるカンイチ。
生の尽きた巨大猪を”収納”に入れて、フィヤマの町の方に駆け出す。全身返り血で真っ赤。川で流そうとも思ったが、ドクサンショウウオのヌシやら、何が出て来るか予想がつかないのでやめる。
猪とやりあった現場から距離を取り、身に着けてるものすべてを”収納”に。水筒の水で猪の血を流し、とりあえず褌一丁で走る。
靴の予備が無かったのは大きな誤算だった。かといって、血の足跡を残すわけにもいかない。タオルを複数枚、足に巻いて走る。
「クマよぉ、ハナよぉ。門に付いたら肉やるでのぉ!」
大きな声で犬たちを鼓舞する!
”ぅおおふぅ!” ”わおふ!”
犬たちも大喜びでついていく。ここだけ見れば、なんとも長閑な風景だろうか。
……
特に魔物に追跡されることもなく南門に到着。
褌一丁だ。盗賊が見ても襲わないだろう。
「お? おお! どうした! カンイチ! また盗賊にもあったか!」
順番は数人先だが、列に並ぶ褌一丁姿のカンイチを見つけたハンス。慌てて駆けつける。
「はぁ、ふぅ。いや、ハンスさん。デカい猪とやり合ってのぉ。返り血を大量に浴びちまってのぉ。他のぉ呼ばんように脱いで逃げて来たわい」
と、正直に話す。カンイチ。
「そいつは大変だったな……で? 仕留めて来たのか?(ぼそり)」
「……勿論じゃ(ぼそ)。が、後の始末、どうしたものかと思案中じゃ」
「う~~ん。俺も見てぇなぁ。ヨルグぅ! ちょっくら、ギルド行ってくらぁ!」
屯所に大声で怒鳴るハンス。
「またサボり……うん? ああ!? カンイチ! どうした! 追剥にでもやられたのか!」
ハンスに呼ばれ不精不精出て来るヨルグ。彼の目に飛び込んできたのは褌一丁のカンイチ。
なるほど追いはぎに毟られたと思っても仕方い。
「いえ。大丈夫ですよ。ヨルグさん」
「ん? しかしなんだな。その、パンツ、格好いいな。なぜか凛凛しく見えるな。尻がほとんどでているのだが……」
引き締まった尻にキリリと越中! 町のご婦人方も顔を赤らめる。
「そうでしょう! そのうち、ユーノさんの所で売りに出されるじゃろ!」
――であろうが! ひらひら、女人用に似たパンツなど比較にもなるまいよ!
と心の中で叫ぶカンイチ。
「おい、カンイチ、今はパンツの話は良いからいくぞ!」
「じゃ、皆さん。失礼します」
颯爽と褌一丁で街の雑踏に消える。




