まだまだだなぁ、俺 (日頃の鍛錬)
……
「腹減ったなぁ~~。てか、アピアたち、さっぱり帰ってこないなぁ。どこまで行ったんだ?」
ダンジョンの奥、”特訓”にでた連中はまだ戻らぬかと暗闇に目を凝らすジップ。
「さてな。一応はこのフロアからは出ないと思うがな。サディカがいるから……或いは?」
と、腕を組んで考え込むガハルト。
「それよか、生きてるか? アピアのやつ……」
「さてな。お!」
「うん?」
暗闇から駆けてくるフジ、クマ、ハナ、シロ。
到着と同時にクマたちからひらりと降りるのはイザークと楽しんできたであろう、笑顔のサディカ。そして、落ちないように紐でクマにくくってあったか、イザークがその紐を解くと崩れるように床に転がるズタボロのアピア。服もところどころ裂け、血の滲んだ跡も。
「おいおい、生きてるかぁ~~? アピア?」
「は……はいぃ……ジップさん。お、俺、たぶん生きてますよぉ……。す、少し、気持ち悪いぃぃ……」
ジップの問に息も絶え絶えに答えるアピア。胸が激しく上下する
「うん? 酔ったかアピア? すっごく楽しいのに!」
と、サディカ。イザークからハナの木の皿を受け取り水を満たしていく。首元をワシワシかきながら乗せてもらった労を労う
イザークはフジ、クマ、シロの木の皿をだし、水を注ぎ入れる。
「フジ様、ありがとうございました。俺、飯の準備してきますね。カンイチさん、クマたちのご飯、お願いします!」
「おうさ!」
『うむ。先ほど摘んだ香草、楽しみにしているぞ! イザークよ!』
「了解です!」
「お、俺も……」
ボロボロの体を起こすアピア。
「アピアは休んでていいよ。今日……明日もかなぁ。筋肉痛で禄に動けないだろ」
野営地の区画、その奥に向かうイザーク。
移動式厨房ともいえる、魔導竈やら魔導オーブンが並ぶ。水が使えるシンクも完備だ。
暫くすると肉の焼ける匂い、香草の香りが漂ってくる
「はぁ。まだまだだなぁ、俺」
座り込んだままため息をつくアピア
「当たり前だろうよ、なに生意気ぶってんだ。まだまだ見習い君の”鉄”だろうよ、お前は」
「で、でも……」
「地道にやりゃぁいいんだ。そもそも、このチームはベテラン揃いの”金”以上だぞ。なにせこの町のトップ・チームだしなぁ」
「……」
「イザークだってちょっと前まで”鉄”だったしな~~」
「今も”鉄”ですよ~~」
と、厨房からイザークの声が
「な!? イザークさんが”鉄”ぅ?!」
「まぁ、アレはもうランクに興味はないようだがな。この環境だ、強くなれる。鍛錬あるのみだ!」
「は、はい! ジップさん!」
ぐっと握りこぶしをつくるアピア。その目に炎が宿る
「……単純だな、アピアの奴」
「言ってやるなってサディカ。男ってそんなもんだ」
と、ミスリール
「『訓練』なぁ~~。マジで俺も鍛えてもらうかなぁ」
「……うむ。我らもより一層の鍛錬が必要だな」
……
「それにしても、ガハルト、お前、いくつ武器持ってんだ? 前は剣だけだったろ? しかも、珍妙なものばかり……」
朝起きてからの鍛錬、金属製の丈夫な鎖で繋がれた二つの金属製の棍棒。所謂、金属製のヌンチャクだ。それを手の延長のように自由自在に操るガハルト。ぶおん! ばおん! と尋常ない風切音を出しながら
「どうだ、面白かろう? ジップ。ふん! ふん! ふん!」
「あ、危ね! 危ねえって! こっち来んな!」
体を打つことなく、滑るように己の体の彼方此方に移動するヌンチャク。
「……うむ。理に適った武器だな。その振り下ろされた打撃。スピード、質量も乗り鉄兜も一撃でひしゃげるだろうな」
「ああ。アトス。鎧着た騎士でも楽に屠ることが出来るぞ! 力が一番乗った打点でならば、鉄兜ごと頭を消し飛ばすことだってな!」
”ぶひゅん!” ”びひゅん!”
「おいおい……。が、イザークの持ってる”じって”にしろ……。”とんふぁー”だったか?」
「こんなのもあるぞ!」
と、腰のポーチから縄鏢を引っ張り出し、振り回す。こちらの演舞も器用に縄を操り体の彼方此方を支点に様々な角度から先端の鏢を撃ち出す。あたかも毒蛇が獲物に食らいつくように。
「へぇ~~。親方のアイデアには脱帽だな」
「おうん? いやな、皆、カンイチのアイデアじゃぞ。ワシはこさえたにすぎん」
「ん? カンイチがか?」
「ま、いろいろあるんだわ。どれ! かかってこい! ジップ!」
と、金属製のトンファーを構えるガハルト
「いや、まだ死にたくねぇし。それに、せめて木製のにしろよ……せっかく練習用であるんだし」
「うん? いや。むしろ、木製のほうが普段使いだ。金属製のほうは重く、威力がありすぎる」
「……そうかよ。この化け物め」
そこにダイインドゥが声を掛ける
「おっと、ジップ殿、手合わせもいいが、武器は鍛錬用のをつかうとええ。どうしても痛むでな」
「おう! じゃ、まぁ、いっちょう手合わせ、お願いすっか!」
……
「すげぇ……」
がハルトとジップの本戦さながらの訓練をみてアピアがつぶやく。
「手が止まってるぞ」
そこに、隣で十手を振るイザーク
「あ、は、はい!」
「がハルトさんもジップさんも現役の”金”だもの。強くて当たり前だろ。でも、ああやって、日々、鍛錬は欠かさないんだ。俺達なんかそれ以上、鍛錬しないといつまでも追いつけないぞ」
「はい! イザークさん!」
「よし、俺達も組み手やるか!」
「ん? 強くなりたかったらオレが稽古を付けてやるよ。二人まとめてかかってこい!」
と、練習用のバスターソードを構えるサディカ
「げ、サディカさん?」
「サディカさん、容赦ないから……」
「来ないなら、こっちから行くぞぉ!」
「次、オレな」
と、弓が外してある、銃床だけの木銃を構えるミスリールがにっこりと笑う
「「ひぃ!」」
……
「若者は元気だのぉ。善き哉、善き哉」
と、敷物の上でお茶を楽しむカンイチ。カンイチの周りにはフジや、クマたちが寝そべる。
「うむ。カンイチは混ざらんでいいのか」
そのわきで武器の整備をしていたダイインドゥが若造のカンイチに声をかける
「ま、良かろうさ。親方」
『お爺、干物くれ。皆の分も』
「おう」
……




