準備せよ (ダンジョンを駆け抜ける)
……
「カンイチさん、今日もラッキョウ採っていきましょうよ! あの『ラッキョウの甘酢付け』美味しいですものね! 俺、すっかりハマってますよ」
「うむ。さすがイザーク君じゃ! 少し時間をもらって採っていこうかのぉ」
紹介した甲斐があったと、微笑むカンイチ。
「うん? ここら辺りからいよいよ採取か? イザーク」
「そうですね、ジップさん、20階までは人がたくさんいますからね。それに”鉱石”のほうが優先されますからね」
「そうだなぁ、鉱石の方がうんと金になるもんなぁ、デカい宝石がでたらそれでウハウハだもんな」
「ええ。お陰で香草なんかは手つかず、取り放題ですよ。カンイチさんの”収納”ありきですが」
「ほ~~ん。そうなぁ。てか、そんなにでかいものなのか? ”収納”って?」
と、首を傾げるジップ。当のカンイチは我、関せず
「さぁ? ”収納”持ちってカンイチさんとアール様しか俺、知らないし。で、これが、けっこう高く売れるんですよ~~」
「そうだわな。俺の知り合いも細かいことは聞いても教えてくれねぇもの。本来、隠しておく恩恵だもんなぁ」
「前方! ホブゴブリン、6!」
と、そこにミスリール警戒の声が
「おう!」
「おっと、お客さんだ。が、俺ら、仕事ねぇもんなぁ。カンイチも親方たちも暇だろ?」
「うん? わしはどうでもええ。採取もあるでな」
「うんむ。ワシもの。そもそもここには”採掘”にきてるのじゃし?」
と、戦闘を横目にまったりする二人の爺さん
「そうかよ……」
「ジップさんもやりたきゃフジに言って混ぜてもらえばよかろうに?」
「ま、お前さんらならゴブリン程度、物の数でもなかろう? そのうち、ゴーレムやらも出てくるで楽しみにしておれ」
「おう。ゴーレムかぁ」
……
野営地の設営が始まれば、
『よぉし! いくぞ! イザーク! 準備せよ。アピア、お前もこい!』
「はい!」
「え、フ、フジ様? どちらに?」
『どちらも何も、お前たちの「特訓」に決まっておろう? アピア、お前はクマに乗せてもらえ』
”ぅおん!” ”ぅわん!” ”ぅをん!”
「え? 乗る……ですか? イザークさん?」
「オレも参加していいですか! フジ様!」
『うむ? そうだな……。ハナ頼む』
”ぅわん!”
「ハナ! よろしくね!」
イザークとサディかは慣れたもの。ハナたちの首に優しく手を回す
「アピア、怖くともスカーフを掴んじゃダメだぞ。クマの首が締まる。回す腕も優しく、喉を圧迫しないように」
と、シロに跨りながら丁寧に解説していくイザーク。足の位置等も
「え? ええ? イザークさん? ク、クマよろしく……。こ、こうでしょうか……」
見様見真似でクマの首に腕を回し背に跨がるアピア。
「うん? 何やってんだアレ?」
と、興味津々に眺めているのはジップ
「ああ、今から『訓練』に行くんだ。フジ様が連れてな。フジ様たちだけでダンジョンを駆け回るわけにも行くまいよ」
と、ガハルトが応える
「ダンジョンの魔物と間違われる……か」
「……ふっ。手を出したら最後だろうに。”冒険者”たちを守るためだろう」
「だな、アトス……。”魔狼使い”ねぇ。しかし、『訓練』なぁ」
「フジ様の指導でイザークも一人前だ。お前さんも参加して鍛えてもらったらどうだ? ジップよ」
「そうなぁ~~。ん? サディカは今更だろう?」
「ん? あれなぁ。困ったことに前にフジ様に乗せてもらってから虜になってな。ものすごい速さだと……な」
「遊びに行くのか……」
「ま、そんなところだ。イザークの”採取”の手伝いくらいはしようがな」
「うん? ガハルト、お前は行かねぇのか? 脳筋だろうに?」
そこに
「ガハルトはデカ過ぎて乗れん。ほれ、足やら引きずるだろうさ」
と、カンイチ。
「納得だわ」
「ふ、ふん! フジ様に乗るなぞ、恐れおおいわ!」
「じゃぁ、アトスも駄目だな」
「……む、むぅ」
犬好きのアトス。手をワキワキさせていたが、がっくりと肩を落とす
『うむ。準備はいいな。アピア、振り落とされるなよ』
「え?」
「まぁ、今日は初めてだし。控えめで行くだろうけど、トップスピードだったら、落ちたら床に叩きつけられて死ぬぞ」
「え、ええ! 本当? サディカさん!?」
『無駄話していると舌を噛むぞ。出る!』
フジを先頭に三頭の魔獣が駆け出す。それぞれの背に人を乗せて。
「やっほーーーー! ハナぁーー!」
「ひ、ひゃーーーーー!」
「アピア、舌噛むぞ!」
「ひやぁーーーーーーーーーーーー……」
アピアの絶叫の尾を引きながら……
「……なるほど。な。せっかく生き延びたんだ。落ちて死ぬなよ、アピア……」
「……ま、フジがいるで、大丈夫じゃろ。南無……」
そうは言うが手を合わせずにはいられないカンイチであった。
……
「ふぅ……」
どっかりと腰を下ろすジップ
「ふん。もうバテたか、ジップ。年か?」
「うるせぇ! が、こうも連戦だとなぁ。これで何匹目だ? アトス?」
「……30か。ああ。鈍っているのかもしれんな。俺たちは」
5匹のホブゴブリンのチーム、6チーム分、30匹を退けたガハルト、ジップ、アトスの三人。
ぐいと、水筒の水を一口、口に含む。
「それよりもこの金属製の水筒、いいな。革袋よりも軽いし、味も皮臭くねぇし。鉄臭くもねぇ。ありそうでなかったよなぁ」
「ああ、それな。特別な錆びない金属でできているやら。最初は錆びない『金』でこさえようってなぁ」
「金かぁ。確かに錆びないが……。さすが、この町トップのチームだ。考えることがスゲェな。それに、残量気にせず水が使えるのもな」
「だろう」
「うん? 疲れたか。どれ、ワシらが代わろうか?」
ふん! と、鼻息荒く小ぶりの鍛冶用のハンマを腰のマジックポーチから引っ張り出すダイインドゥ
「親方、大丈夫だ。問題ない。なぁ! ジップ」
「ああ! 問題なし! おれも”金”だしな!」
「……ふっ。水筒と一緒か。くくく」
「だな! アトス! はっはっはっはっは」
「お! また来たぞぉ、ホブゴブリンだ! 数5!」
「よくもまぁ、暗いのに見えるな、ミスリールの嬢ちゃんは。ぃよっしゃ! 気合い入れていくか!」
「おう!」
「……おう!」
……




