感慨深いですねぇ (20階に到着)
……
「う、美味い……です」
フォークを握って固まるアピア。
夕食時の一コマ
「そうだろう! アピア! ”収納”やらマジックバッグがあると野営飯もずいぶんと違うものだろう! イザークもますます腕上げたなな! さすが”料理人”だ! まだ絶品蛇スープは作ってるのか?」
と、器に盛られたスープをスプーンで口に運ぶジップ。
「ええ、ですがこの周辺、寒いから蛇があまりいないんですよぉ、温かいときには作っていますよ。亀のスープも美味いんですよ。カンイチさんのいうところの”スッポン・スープ”っていうのですが」
「へぇ~~。亀のスープかぁ。楽しみが一つ増えたな! なぁ、アトス!」
「……うむ」
「冬眠する前のスッポンは。脂がのって最高に美味いですよ!」
「その、すっぽん? 亀? カンイチの”収納”に入ってないのか?」
「なかなか穫れないんですよ。その亀。陸に上がってこなくて。上がってきても走るのも異様に速いしぃ。筋肉質だからか、湿原にいるのに泥抜きの必要はなく、すぐに食えるんですけどね」
「くぅ~~”湿原”かぁ。面白そうだな!」
「……ギルドで聞いたが恐ろしくデカい亀がいるそうだぞ。……逆に食われるなよ。ジップ」
「なんだよアトスぅ、縁起でもない!」
「ははは。一緒に亀、獲りに行きましょう! ジップさん」
「……くっくっく。どっちがベテランかわからんな」
「うるせぇ! だが、すっかり頼もしくなったなぁ。イザーク。オッサンは嬉しいよ」
「い、いえ、ジップさんは、まだまだ若いですよ?」
「おい……。なんで尻上がりの疑問形なんだ! イザーーク! 俺はまだまだ若い!」
と、イザークの首に腕を回すジップ
「……ふん」
「おい!」
……
そして夜……
「……で、カ、カンイチさん……。なんです? それ……」
「いやな、毎日、鍛錬に明け暮れているアピア君にちょうど良かろうと思っての」
「は、はぁ? ど、どうするんですか? それ……」
と、一歩後ずさるアピア
「は、ははは……」
渇いた笑いのイザーク。気の毒そうにアピアの顔を見る
カンイチが”収納”体したもの、大きなガラス瓶の中は褐色の酒に満たされており、ブッシュマスターという猛毒蛇がとぐろを巻き、大きく口を開け、毒蛇とたらしめる大きな毒牙を見せつけている
「うむ? 飲むんじゃよ。薬酒じゃ。薬酒。イザーク君に聞いて、精力増強効果のある香りのええ香草も足したで、たいそう飲みやすいで」
「え? ええぇ~~!? の、飲むんですか?」
「おん? 騒がしい……。な、なんだぁ、それ。カンイチ……」
と、顔を出したのはジップ。
「んむ? 蛇酒じゃが? 滋養強壮にええで。ジップさんも飲むかの?」
「は? まじ?」
コクコクと頷くイザーク
「そうみたいですけどぉ。臭いですよぉ。親方だって手を付けないくらいに」
「……ドワーフ族が飲まない酒ぇ? そりゃ、すでに酒じゃねぇだろ」
「うむ。薬酒じゃ。味わって飲むもんじゃなし。酒精も強いで、ぐいとの、ぐいと」
「ええ!?」
「……俺はいらねぇぞ。カンイチ」
「は、ははは……」
一切動じぬカンイチ。そして、ぽん! と栓を抜く……
「ほれ。元気になるぞぉ。夜のお勤めも問題無しじゃ! ジップさん。はっはっは」
「本当かよ……。ゴブリンの金◯みたいなもんか?」
「さてな。ゴブリンのは飲んだことないで。ほれ。布団が吹っ飛ぶくらいじゃぞ」
セクハラ爺さん降臨……
「おいおい……」
「す、すごいですね……」
「ほれ。ほれ」
……効果の程は……
……
そして、”試練の間”のある20階に到着
「何度来ても感慨深いですねぇ~~。ねぇ、ガハルトさん」
迫るように建つ門を見上げるイザーク
「そうか? たった20階だろうよ。そんなもの通過点にしか過ぎん!」
と、イザークの隣で腕を組み、一緒にその門を見上げるガハルト
「だって、この精巧な彫刻……。うん。ガハルトさんですものね」
「どういう意味だ。イザーク……」
そこに、
「はっはっは! 俺は初だから楽しいぞ、イザーク。なぁ、アトス」
「……ふっ。たしかにな」
「お、俺も初めてです、ジップさん、イザークさん!」
アピアも続く。後輩の言葉に思わずニヤリのイザーク。
初めて来たジップ、アトス、アピアはイザークのいう門の彫刻に関心を寄せる
「……うむ。イザークの言うように見事な彫刻だ。ゴブリンの意匠、ということはここのボスもゴブリンということだな」
イザークと一緒に彫刻を見て回るアトス。
観光の様に”試練の間”の門を見て回るジップたち。そのジップたちの様子を奇異の目で追う順番待ちで並んでいる冒険者たち。
並んでいる連中は緊張しているのに呑気なものだと。
「しかし、20階でもけっこう並んでいるんだなぁ」
と、その列を眺めるジップ
「これくらいの行列、短い方ですよ~~。ジップさん。ここらなら武があれば、バッグがなくともこれますし。次(30階)は待つことなく入れるよ~~。ね。ハナ」
と、毛皮を敷き、ブラシ片手にハナの毛並みをモフモフと楽しんでいたサディカが応える
「ハナぁ~~。今日も綺麗ねぇ~~」
”ぅぉをん!”
ハナのモフモフの首に抱きつき、顔を埋めるサディカ
「はふぅ~~。日向のにほい……」
うっとり。
「なんか平和だなぁ。なぁ、カンイチ……」
「どうしたんだジップさん?」
当のカンイチもブラシ片手にフジの毛並みを堪能している最中だ
『うぅん? いかがしたジップ。貴様も我の毛並みを楽しみたいのか? この極上の輝く毛並みを! モフモフの毛を! 相談にのるぞ!』
むくりと顔を上げるフジ。ブラシが通る度に目を細める
「い、いえ、フジ殿……。大丈夫ですよ」
「のんびり待とうさ。ジップさん」
「そうだなぁ、俺もクマと遊ぼうかなぁ~~。なぁ、クマ」
”ぅおぉん!”
……




