もちろん行きませんよ (いざ、ダンジョンに)
……
「いよいよ明日からダンジョンだが、準備の方はどうだ?」
満足そうにチームのメンバーの顔を見回すのはガハルト。待望のダンジョンアタックの日を前日に控えて。
「わしらはいつも通りじゃからええが、ジップさんたちの方はどうじゃ? 準備だけでなく覚悟もいるで。延期やむなしじゃで」
今回、初参加のジップ、アトスに声を掛ける
「うん? 俺らか? 資材は全部カンイチにお任せだしな。おんぶにだっこ。身一つでついていくだけさ。そもそもよくわからねぇし? 頼むぞぉ、カンイチ!」
「……うむ。皆さんお願いします」
アトスがゆっくりと頭を下げる
「アトスさん、頭をあげてくだされ。もうわしらは仲間じゃ。で、ガルウィンさんはどうするのじゃ?」
人ごとのように茶をすすっているガルウィンに問いかけるカンイチ
「はい? もちろん行きませんよ。アールカエフ様とこの地上でゆっくりさせていただきますよ」
当然だろうとガルウィン
「はっはっは! 安心したまい? カンイチ! 僕は浮気なんかしないから!」
「お、おう」
「オレも目を光らせてているから大丈夫さ」
と、ディアンも笑いながら応じる
「大丈夫かよ母ちゃん。酒ばかり飲んでちゃダメだぞ」
「問題なし! 細工物の依頼も結構溜まってるしなぁ。ミスリールも頑張ってこいよ!」
当初の予定通りアールカエフは地上で留守番。ディアンも地上に残るようだ。
「カンイチ君、アールカエフ様は任せて」
「うむ。頼んだで、アイリーンさん」
「アナタ、沢山稼いできてちょうだいね♡ なんて? はっはっは! ほら! アイリーン君も!」
「そうですね! ジップ! 沢山稼いできてね♡」
「「お、おう……」」
と、気の抜けた返事をするカンイチとジップ。くくくと周りから笑いが漏れる。が、一人、
「ふ、ふんだ!」
「しょうがないなぁ、イザークは……」
「うんむ! 末期だな! イザーク君!」
「放っておいてください!」
無言でイザークの肩にそっと手を置くアトス
「おいおい、出発前にイザークが使い物にならんではないか」
やれやれと肩を竦めるガハルト
「まぁ、若いで、明日には復活もしようさ」
「うむ……」
……
「チッ――。今日もずいぶんと並んでいるな……」
ダンジョンの攻略当日。入口から並ぶ人の列を睨みつけるガハルト
「まぁ、毎度のことじゃろが。が、今日は誰かさんのおかげで、いつもよか早くでてきたが人が多いのぉ」
「だろうが!」
「ま、こればかりはどうしようもないがのぉ。ゆっくりと待とうが」
怒れるガハルトを無視し、列の最後尾に並ぶ。
「ほ~~ん。こんなもんじゃないのか、ガハルト? この街には冒険者が多いしなぁ」
と、ガハルトと並び同じ列を眺めていたジップが呟く。
「そうなんじゃがの。誰かさんは”待て”ができぬらしいわい。ウチの魔獣様はちゃんとわきまえておるのにの」
『ふん! 仕方あるまい。人の世の決まりごとだ』
「そ、そうですよね、フジ殿。そうじゃなければ蹴散らしますわな。ガハルトお前も見習え! 突っ込みそうだな、お前」
「……くっ――。掲示板を見てくる。イザーク、つきあえ」
「え? 了解!」
「すぐ掲示板に逃げるな、父ちゃんは……」
仲間内からくくくと笑いが漏れる
「ぬ!」
しかめっ面のガハルト
「だな。しょうがない親父だな~~。なぁ、サディカ。ところで『掲示板』とはなんだ?」
「ああ、ジップさん。ダンジョンの異変やらが書かれているんだ。都度、書き足されたり、消されたり。父ちゃんが大好きなイレギュラーなんかの注意喚起もね。貴族の家の捜索依頼なんかも。ほら、貴族の子息が箔付けに使ったり、興味で入ったりね」
「お貴族様……ねぇ。それで死んじまったら元も子もないだろうに。なるほどなぁ。じゃ、俺が一緒に行くわ、イザーク。ちょっくら覗いてくるわ」
「お、お願いします……」
それでオーサガ王太子と出会えたカンイチ一行、まさに『死んじまう』ところだったと苦笑い。特に”友”と呼ばれ再会を約束しているイザークはなんとも言えない表情だ。その顔をみてイザークから話を聞いていたサディカは 『あ……やっべ!』 というような表情を浮かべたが
「ま、なんだ……」
と、カンイチも言葉、少なめに
「え、ええ……」
……
粛々と列が短くなり、一行もダンジョンの中に。途端にゲッソリした表情となるカンイチ。そして、
「ふぅ……」
と、ため息一つ。
「おいおい、どうした! カンイチ? いよいよダンジョンだぞ?」
と、初ダンジョンのジップが興奮気味に声をかけるも
「ほっとけ、ジップ。毎度のことだ。どうにもダンジョンがお嫌いらしい」
と、ガハルト
「ん? そうなのかよ?」
「こんな狭苦しいところは御免じゃ。薄暗くて風もなし。息が詰まるわい」
「と、まぁ、カンイチさんてずっとこんな感じなんですよ~~ジップさん」
「しょうがねぇなぁ。が、”収納”持ちは一人は欲しいものなぁ」
「それに一番金子を欲してるのもカンイチさんですしぃ」
「それな!」
と、頷くガハルト
「ま、働く時はちゃんと働くしな。放っておけ、放っておけ」
「おう」
「それにしても、思った以上に明るいなぁ。入口でランタンやら売っていたからもっと暗いと思ったわ」
興味深く周りを見回すジップ
「階層ごとに違いますし。それに、必要なのは人族の俺たちだけですよ、ジップさん」
「んぁ?」
「……ああ、そうだな。獣人族、ドワーフ族は暗くともみえるものな」
「そうだったな……」
「ふぉっふぉっふぉ。ま、真っ暗闇じゃぁだめだがな」
「そうそう、ガハルトさん、何か掲示板ありましたか?」
「ん? 特段変わったことはなかったぞ。通常通りだ」
「ああ、捜索願等もなかったぞ」
「それは良かったです」
「じゃ、20階までは最短経路で良かろうな?」
と、ダイインドゥ。
「ああ、親方、頼む!」
……




