「ツナギも色々あるんだなぁ」 (『三丁目仕立て屋』にて)
……
「ほう! カンイチ! ここが新たな装備の”生産拠点”の『三丁目仕立て屋』かぁ」
「い、いや、そんな店じゃないのじゃがの?」
今や”褌”専門店と化した『三丁目仕立て屋』。
カンイチが初めて訪れたときに比べ店先も綺麗に補修され、外からでも色とりどりの旗のよに垂下さがる褌をみることができる。
出窓のショーウィンドウには地下足袋が、色違いのものが3足飾ってある。トップチーム、カンイチたちのおかげで”ツナギ”、”地下足袋”、布製のポーチ等の装備品でも冒険者の間では人気だ。
「そうは言うけど、中はどうせ垂れ幕のように褌がたくさんあるのだろう?」
「むむぅ!」
ジップの指摘に口を噤むカンイチ
「はっはっは! 良くわかったね! ジップ君!」
「フィヤマの『ユーノ服店』もそうだったもの。今も大繁盛店だ! 俺らも褌やジカタビを買ってるぞ。ジカタビはキングフロックの皮、持ち込みだと安くなるんだわ」
「ほ~~ん」
「あの王蛙の革って、けっこう高価ですものねぇ。美味しいし」
「そういやイザーク、肉屋のテルルさんがよろしく言ってたぞ?」
「ひ、ひぃ!」
”ビクリ”と体を震わせるイザーク
「お、おまえ、テルルさんになんかしたのか?」
「獄卒様のお気に入りじゃからの、イザーク君は」
「獄卒って……」
「ま、入ろうかい」
”ガラン、ガララン~~♪”
……
「ほぉう。ツナギも色々あるんだなぁ」
数種ある迷彩パターンのつなぎを手に取るジップ
「……うむ。しっかりしている布地だな」
厚手のツナギ、多少手荒く扱ってもびくともしない。
「作業着としてけっこう人気あるんですよ、ジップさん」
ツナギや地下足袋のコーナーを案内するイザーク。『ユーノ服店』製との違いをジップ、アトスに説明する。
「これは仕立てが良いな。生地もいい」
と、お洒落な服を手に取り、縫製を確かめるガルウィン。目移りしているのか、幾つかの服を並べる。
「ええ、いい生地だわ。触り心地が大変いいわね!」
こちらは上等の外套の表面を指先で撫でるアイリーン
「そうでしょう! そうでしょう! この布は帝都北部で織られてる一級品でございますよ。染色も氷原にさらしたから出るこの発色!」
と、反物を広げる女将さん。なかなかの商売上手だ
「うん? この服、可愛いねぇ。キキョウに似合うかなぁ? うんむ! 買っていこう! 女将さん、これもらっていくよ!」
「アールカエフ様ぁ、キキョウちゃんならこっちの大きさのほうが良いかと」
「うん。女将さんにお任せ!」
「私も外套、オーダーしていこう。女将さん、寸法取りお願いできます?」
「はい! 魔法使い様、まいどーー!」
「新しいメンバーの方々ですか、カンイチさん?」
と、ジップたちの買い物風景を見てトキ
「うむ。”金”のジップ殿のチームでな。フィヤマにいたときに大変世話になった方々じゃ。こちらにいらしてな。一緒にダンジョン潜ろうということになっての」
「フィ、フィヤマぁ? サヴァ国から? 遠路はるばるご苦労様ですね」
「じゃろう」
「それじゃ! ウチ商品もどんどん買ってもらわないと!」
「ははは、その意気じゃ、トキさんや」
『うむ。トキ、頼んであったスカーフはできているか?』
「は、はい! できておりますよ、フジ様。只今、準備しますね」
『うむ』
と、店の奥に商品を取りに引っ込むトキ。
「いつの間にやら注文したんじゃ? フジよ」
『先日な。女将から良い布地が入荷したと知らせがあったからな! 新作は外せんな!』
鼻歌? ではないがご機嫌に店内、特に褌を広げてるエリアで布地の物色中だ。
「そうかよ。わしも新しい褌、仕立ててもらおうかのぉ」
「白褌、”特注”ですものねぇ。人気なくて。カンイチさん。ぷぷぷ」
と、からかうように声を掛けるイザーク。
「納得できないがの! ふん! 水玉模様の軟弱者め!」
「まだやってるのかい? カンイチ。”白褌”は少数派だからしょうがないだろうに?」
「む、むぅ」
……
……
「……という訳でここからでていこうと思うのだが、ティーター殿、ダリオン殿」
ジップのチームが加わることで手狭、街中にクランハウスを用意し、そちらに移ると。軍、帝国との交渉役であるティーターたちに相談する。
今使用している宿舎じゃ少々狭い。今でも狭いといったら狭いのだが、フィヤマからずっといっしょに旅してきて、多くの困難を越えてきた、もう家族、一族のようなもの。苦ではなかったが、さすがにジップのチームが加わるとあっては別
「カンイチ様、もう一棟用意いたしますので引き続きご利用くださいませ」
と、ティーター
「ええ、私どもも目の届くところにいてもらったほうが楽ですし、スィーレン様を街に自由に放つなど……」
ダリオンも続く
「しかし、これ以上、迷惑をかけるのものぉ」
――迷惑、それは帝国に対して”借り”になっちまうのだがな。アールなぞは気にするなとはいうがな
と、声には出さないカンイチ。
「こちらにも利益がありますから。なんでしたらクラン・ハウス建ててもいいですし?」
「そうですよ。何も気にすることはない。帝国が勝手にやってることだから。街としてもスィーレン様が暴れまわるよりもいいでしょ」
「そんなに凶暴じゃないのだがのぉ」
ここにアールカエフはいない
「では、せめて、賃借料でも」
「それも不要でございますよ。最初の約定通りで」
「それに、私たちも近くに家を借りないとですし。食事の準備とか面倒くさいし。ここなら準備してくれるもの」
「こ、こら! ダリオン」
「ティーターだって優等生ヅラしてるけど、楽でしょうに」
「そりゃ、は、ははは……」
「まぁ、フジ様はいらっしゃるだけで国益ですから。……スィーレン様も。お気になさらずに」
「そうですか。では、引き続きお願いします」
ぺこりと頭を下げるカンイチ。
「ええ、こちらこそ」
クランハウスとして、上級士官の宿舎をもう一棟いただいたカンイチ。ジップたちも宿を引き払い、宿舎に移動。翌朝から軍の訓練にジップ、アトス、時々ガルウィンが参加することになる。アイリーンもまた少ない”魔法使い”の立場から兵らに精神集中の方法の指導をすることになる
……




