俺らも混ぜてはくれねぇか (チーム加盟?)
……
食後、宿舎に案内されてきたのは"金"”の冒険者のジップ。
話によると、依頼でこの町にやってきたというのだが……
……
「……あ、ジップさん、結局ゴブリンの件ってどうなりました? こっちの『冒険者ギルド』、『商人ギルド』でもまったく情報がなくて。サヴァ国まで結構な距離のせいなのか、実被害のない小規模のものだったのか……」
と、イザーク。カンイチたちがフィヤマを立つときの心残りの一つだった件だ。
フィヤマの町とアカリノの町。その中間辺りにゴブリンの勢力が割って入ってきた。不幸にもフィヤマ、アカリノは領境、領主が違う。金子を出したくない領主たちは相手を牽制し、打つ手も後手後手となっていた。
「ん、ああ、その件なぁ、イザーク。俺達が出てくる時はズルズル継続中ってな。情報がないのなら、今持ってズルズルとやってんだろうよ。町自体は無事ってこったし。ほれ、お前も知っての通り、あすこら辺の領主様はとてもケチでいらっしゃるから、都度都度の対処策しかとっていねぇ。レンガーの奴も失脚し、少しは良くなるとも思ったが、後任も似たようなアホだ。権力かざして複数の受付嬢に手ぇ出してなぁ。すぐにも更迭されるだろうよ。いや、もう更迭されてるかもしれんなぁ」
「げ……。でも、あのおっさんクビになったんだ……」
「ああ。子飼いの冒険者らにギルドの裏側、悪事、無能っぷりを全部告発されてなぁ。飼い犬に手を噛まれるってこのことだな」
「ほ~~ん。裏側……かの」
「あのおっさんに"裏側"なんかないと思うけどなぁ……バカだし!」
「はっはっは。かもなぁ。で、そのレンガーはなんとか死刑は免れたようだがなぁ」
「へ? 死刑ぃ? そこまで? 威張り腐ってただけなのに? 何やったんだ、あのおっさんは……」
「どうにも、周りの連中によいしょされて、良いように使われていたのはあのハゲのほうだったやら。経費の着服やら買い取った素材の横流しやらの横領が多々出てきたってよ。受付カウンターの向こう側でハゲに怒鳴られた連中のほうが一枚も二枚も上手だったようだわ」
「はぁ? 横領?」
と、呆れ顔のイザーク。そのレンガーが目の敵にしていたガハルトをチラリみるも、当のガハルトはすでに関心ないようだ。
「で、ジップさん、その(ゴブリンの)対処策とはなんじゃ?」
「ああ、近くにきたら都度、討伐、排除ってかたちだな。せっかく2つの領にまたがってんだ。人と予算出し合って協力して一気にゴブリンの本拠地を殲滅したほうが安上がりなんだがなぁ」
「まだそんなことをしているのかよ……」
「自分の領地には”絶対”に来こないって謎の確信があるからな。まだ互いに近くの村に被害がないからだろう。それこそ”溢れ”たら洒落にならんのだがなぁ」
「それでも、少しは”間引き”にゃなってるのだろう。ズルズルと現状維持だろうな」
と、ガハルト。
「だな。俺ら『冒険者』にしたら、常時仕事があっていいけどなぁ」
「住んでるもんにしたら、はた迷惑な話じゃなぁ」
「違いない。が、フィヤマの御領主様はアールカエフ様が出ていって、だいぶこたえたのだろう。少しずつだが城壁の普請を初めたよ。それだけが救いかなぁ。リスト殿の進言もよく通るようになったとか。アカリノ所属だった冒険者もけっこう流れてきたからなぁ。それなりの力があるのだろうさ」
「リスト殿はまともな方だったからな。彼のような人物が中枢に行ってもらいたいものよ」
「いや、ガハルト、行ったら行ったですぐ排除、下手すりゃ殺されちまうだろうよ。今の立場くらいがちょうどいいだろうさ」
「ふむ、……かもしれぬな」
腕を組み、考え込むガハルト
「まぁ、出る釘は打たれるってわけじゃな」
……
「……それにしても、ここまで……どんな依頼じゃ? で、せっかく来たでダンジョンに潜っていくのかの? ジップさん」
「依頼は商会の護衛を繋げながらなぁ。”金”の肩書のお陰で、依頼に困ることはなかったがなぁ」
「ん? ジップよ」
「ああ、後で、ウチのメンバーが全員いるときに頼もうと思ったんだが……。俺らも混ぜてはくれねぇか。カンイチたちの話を聞いてるうちにな。どうにも血が騒ぐってぇの? どうせまだ潜るのだろう? 未だに畑は手に入っていないようだしなぁ」
と、ジップのチーム加盟の嘆願に驚くカンイチ一行。
「おい、ジップ、本気か」
「ん。ああ。どうせアイリーンとガルウィンはダンジョンに入らねぇだろ。こっちは二人。どこぞの知らんチームと組むのもな。それに、カンイチは”収納”持ちだものな。アトス共々アタッカーでこき使ってくれていいぞ?」
「おぅん? アタッカー? そっち方面は間に合ってるがの。むしろ”敵”が足りんくらいじゃ」
と、ガハルトを見るカンイチ
「足りんて……。ダンジョンだろ?」
「ほれ、ウチの脳筋大王がの。それとのぉ……」
ここでクマたちについて語る。異世界云々はまだ伏せ、己の格をあげるため大量の”魔素”が必要だと。特に仔を成すのに。
そのため、従魔隊と、脳筋隊が競ってダンジョンの魔物を狩ると
「……はぁ。なるほどなぁ。そうなぁ、ハナの相手はフジ殿だものなぁ。生物としての格かぁ。いちいち納得できるわ。連中も大変だなぁ」
と、頷くジップ
「てか、ガハルト! そこまで脳筋拗らしてるのかよ! おまえは!」
「な!? ダ、ダンジョンといえば戦闘であろうがよ!」
「いや違うぞ、ガハルト……。お宝だろうよ。戦闘は損耗しねぇように極力避けるもんだろうに? だが、クマたちのような事情があるのならともかくな……。ん? お前もフジ殿の仔を産むのか? くっくっく!」
「産むか!」
くっくっく。と肩を揺らし、口を抑えて笑いを我慢するのはイザークとサディカ。
「じゃろ。まぁ、脳筋大王じゃでな。それにイザーク君やサディカさんら若人の鍛錬も兼ねるで、わしに(戦闘が)回ってくることはほぼないの」
「へぇ~~。マジか。そりゃすげぇな」




