飽きないものよの (一年が過ぎ……)
……
……
そして、ダンジョンが”溢れ”た日から一年が過ぎた。
カンイチの属するチームは多くの実績により名も上がり、たった一年で上位ランカーの仲間入りを果たす。
活躍の場は町のシンボルであるダンジョン、そして山脈の裾野、雪解け水が流れ込む広大な”湿原”。
ダンジョンの中で”溢れ”を乗り切ったチームと噂されるが、その真実を知るものは少ない。
公表はされていないがフェンリル(フジ)が参加しているチームだ。その噂についても十分に納得できるものだ
それに、構成するメンバーだ。”金”のガハルト、サディカ親子、元”金”のディアン、元”銀”のカンイチ。ハンマー使いで勇名を馳せるダイインドゥ、機械弓の名手ミスリール、”魔狼使い”のイザーク。イザークは未だ”鉄”だが、申請をすれば即、”金”ともいわれる逸材だ。
そして、極めつけはアールカエフ。軍事地図にも名が載るハイエルフの”風”使いだ。美しい翡翠色の髪を持ち、強大な精霊魔法を行使する。まさに天災級だ。
他のチームの追随など許そうはずもない。
……
そんなある日
「そろそろダンジョンに潜るか。カンイチよ!」
「おぅん? そうじゃなぁ。アールはどうする?」
「うん? もちろん行くよ? カンイチ寂しいだろう? それに、ダンジョンに慣れるために? ほら、お休みしちゃうとせっかく慣れてきた? のが最初からになりそうで。ま、僕はいつもの通り寝てるけど?」
「親方たちはどうじゃ?」
「そうさなぁ、いい頃合いじゃろうよ」
と、いつもの朝食後のミーティング
「では、一週間後に入ろうかの。各々準備を頼むで」
{おう!}
「あ! カンイチぃ! レストランで大量に料理作ってもらおうよ! 食器は僕が用意しよう!」
「……アールに料理を預けておくとダンジョン入る前に食い尽くしそうじゃの」
「失礼だぞ! カンイチ! おぅ? このパン美味しいね。イザーク君! ベーコンおかわり! ベーコンもたくさん持っていこうね!」
食後のミーティングだが、寝坊助、大食いのアールカエフは今もベーコンをかじる。
「はい! ただいまお持ちしますね、アール様」
「しっかし、朝からよく食うのぉ。肉ばかり」
カンイチの言葉にコクコクと頷くのはダリオン
「僕は肉食だし? 猪獲りに行かないとだめ?」
「今からじゃ間に合わんじゃろ」
「ん? ワタシらは”収納”ありきだから、そんなに塩使わなくていいから、間に合いうよ」
と、ディアン。"収納”は腐らないため、”保存食”のための塩漬けの工程をすっぱ抜ける
「それじゃぁ、俺はダンジョンの『掲示板』でも覗いてくるか。またイレギュラーが湧いているといいなぁ。なぁ!」
やれやれと肩を竦めるカンイチ、娘のサディカも、
「そんな事言うの父ちゃんだけだって。オレのところに”討伐依頼”が来てねぇし? 強いのは湧いてないんじゃない?」
「ぬぅ!」
「しょうがないのぉ。しっかし、ダンジョン、ダンジョンとよくもまぁ飽きないものよの」
「まぁ、ダンジョン潜るのも生活のためですし?」
と、イザーク
「そうだぞ! カンイチ! 仕事だ! 仕事! 気合い入れろ!」
「わかっておるわい。ふぅ。わしは早く農家になりたいものよ」
と、項垂れるカンイチ。そのための、畑を購入するための資金集めをしているところだ。
未だ、場所も決まってはいないが
「そんな事を言うのはお前くらいだぞ……。演習場の一角に畑こさえたのじゃダメなのか」
と、ガハルト。この一年で演習場の片隅に無理を言って小さいながら家庭菜園を作ったカンイチ。が、貴重な城壁内、軍の演習場だ。そう多くはとれない。二坪ほどか。そのせっかくの畑も手入れが十分にできず少々荒れているが
「いやな、面積もじゃが、ほれダンジョンだ、やれ湿原だとひっきりなしに出かけるじゃろう。もっと、こう、どっかと腰を落ち着かせてやりたいんじゃ」
「そりゃ、引退しないと無理だろうが」
「いや、わし、とっくの昔に『冒険者』引退してるんじゃが?」
そう、元”銀”の冒険者だ。
「そういや、そうだったな。カンイチは……。面倒くさいな!」
「ガハルトさん……」
「父ちゃん……そりゃ、ないぜ」
「そうだろうが!」
「そうだ! 『三丁目仕立て屋』に新しい寝袋を取りに行かないとね! サディカ君も地下足袋取りに行くだろ? 一緒に行く?」
「あ、私も付き合いますよ、スィーレン様」
「ええぇ? ダリオン君もくるの~~?」
「なにか問題でも! 私も新しい服、頼んでますので。それに寝袋だけなら良いけど、人の指やら頭を獲ってこられても困りますから」
「君ぃ~~。僕のことどう思ってるのかね! てか、そろそろお国に帰らなくともいいのかね? ファロフィアナ君もさっぱり見ないし。ま、まさか……君たちってばクビ?」
「……」
「図星?」
「そんな訳ありません! どこかのじゃじゃ馬エルフのせいです」
「はい? 僕は全然問題ないでしょうに。何を言っているんだい? 諜報の仕事忘れちゃったかい? その目は節穴?」
「……」
「うん? ……。誰か来たな?」
と、チラと宿舎の入り口の方に目を向けるアールカエフ。
「精霊様のお告げかの?」
”どんどん!”
暫くすると、ドアをノックをする音が
「早い時間じゃが、なんの用事かの。ガハルト頼む」
「うむ」
このチームの交渉役、ガハルトが椅子から立ち上がる。
「おうん? この気配は……」
と、首を傾げるアールカエフ
「ん? アールよ。知り合いかの? ……ファロフィアナ殿かの?」
「いや、カンイチも知り合いだよ。ふふふ」
「うん? わしの知り合いかの? ……はて?」
……




