なかなかに乙なものじゃのぉ (湿地でいい湯だなぁ~~)
……
「な、なんじゃぁ、今の大きい亀は……」
散弾銃を握りしめたままyつつぶやく。そして亀が消えた水面の波紋を見つめるカンイチ
「ミスリールの銛が刺さらなかったな。あの滑らかに見えた皮膚のおかげだろうか……。カンイチのもな」
と、ガハルト
「うむ。ヤツの長い首のしなりも良かったのじゃろ。ライフルならいけたかもしれんな。が、しかし、不味そうな亀じゃったな。黄色い点々が沢山ついておって」
「そうか? そもそも、あまり亀は食わんがな」
「スッポンという亀は美味いぞぉ。で、サディカさんや、今の亀は知ってるかの?」
少し離れてところでぽかんと呆けているサディカ、イザークの方に向かい問いかける
「あ、アレ、キボシクビナガカメだったかな……あんなに大きくなるとは聞いていないけど……」
カンイチの声に、はっ――! と我に返るサディカ
「ほうほう。キボシの……で、クビナガのぉ。うんむ。まんまじゃなぁ。で、食えるのかいな?」
「確か……食用だったような? 卵も滋養があって高く売れるとか?」
「へぇ~~。卵もねぇ。お腹壊さないでくださいよ」
と、呆けていたイザークも話の輪に復帰
「ま、ちゃんと火を通せば大丈夫じゃろ。イザーク君、今度は亀スープに取り組んでみてはどうじゃ?」
「え、ええ!? あのデカいの相手にするんですか? 料理する前に俺が食われちゃいますよ。でも、どんな味かな……。あれだけ大きいと何人分かな? 泥臭さは……うむ……?」
新たな食材に思いを馳せるイザーク
「イザーク、お前もアレだな……」
「アレってなんです? サディカさん?」
と首を傾げるイザーク
「はっはっは、楽しくやろうさ。さっきの亀が戻って来る前に撤退せようか!」
「うん? 俺は戻ってきても一向に構わんぞ。いや、望むところだな!」
ニヤリと笑うガハルト
「ヌシはそうじゃろうよ」
「親父でも流石にあれはどうにもならないだろう。沼からでてこないと聞くし?」
「そうか……そりゃ、残念だ」
『うん? 美味いモノであったのなら我が獲ってやろうぞ!』
と、美味いものと聞いてフジも顔をだす
「さすがにあれは大きすぎますよフジ様。小さい子亀で試してみましょう。穫れたらですけど?」
『うむ、任せるぞ。イザークよ!』
「それじゃぁ、採取しながら沼の周辺、回ってみようかの。何か変わったものがあるとええの」
……
「ふむふむ。ギルドの公示してる地図じゃ載っていなかったけど、サイベルック草やら、イナーケ草も生えてるんだな。あ……でも、そもそも湿地の植物じゃないよなぁ。帰ってアール様にみてもらうか……」
と、ぶつぶつと呟きながら、屈んで薬草を採取するイザーク。周りをクマたちが護るように囲む。
「へぇ。ホント、よくわかるな、イザーク」
と、イザークの隣にしゃがみ込み、その手元を観察するサディカ
「うちの”先生”じゃからな。イザーク君はの」
うんうんと頷くカンイチ。自身が”鑑定”使えることなぞ忘却の彼方だ。当のカンイチもせっせとセリに似た植物を集めている。
「それほどでも」
と、照れくさそうに頭をかく。
「カンイチさんのも薬草?」
「ん? 茹でて食ってみようと思うての」
と、採取を楽しんでいると、
「こっちにはカエルはさっぱりいないな。蛇も全然だしな。大抵、こういったジメジメしたところにゃいるんだがなぁ」
と、ガハルト
「ここらは浅いからじゃない? ”ぶじゅ!” ”じゅぶぶぷぅ” げげ……またハマった。よいしょ!」
”ずっぽ”と泥から足を引っこ抜くミスリール。この2人は少々、手持ち無沙汰のようだ。
「ヌシら、ウロウロと落ち着かんわい。もうちょい待っとれ!」
「ん? ああ! ガハルト殿! 後ろ、後ろ!」
ミスリールの声で振り向くと、ぬぅと、何やら細長い茶色の棒のような生物が立ち上がる
「お! この俺に気配を悟られないとは! こいつが大ヒルか! ここのはデカいな!」
”みょん”と、伸び、ガハルトの背中に取り付こうとしていたのは沼地に多くいる大ヒル
一閃! 横薙ぎに振られたガハルトの剣がヒルの半ばから斬りとばす
切断面より赤いゼリー状のものを吹き出しながら縮むように果てる大ヒル
「さすが父ちゃんだな。大ヒルを一発で斬るとは」
「そうなんです? サディカさん。柔らかそうですけど?」
「ヒルって以外に硬いんだよ。あと、よくしなるしな。今度、生きてるの掴んでみ?」
「そういえば……確かに筋肉質って感じでしたね」
「だろ。で、あれだけデカいんだ。斬るのも大変だぞ。イザークの十手のような鈍器はほぼ効かないしな」
「うむ。さっきの”ヒル落としの草”も有効じゃったが、殺すなら塩も有効じゃぞ。かければ縮んで死んじまうで」
「本当ですか? カンイチさん。今度試してみよ」
「じゃ、そろそろ移動するかの。暇こいてるのがいるでな。わさわさとの」
後ろでウロウロしているガハルトとミスリールに目を向けるカンイチ
「なんかすいません。オレの父ちゃんが……」
「ま、今に始まったことでないでの。はっはっは」
……
街道まで戻る時間を加味し、沼周辺の探索をするカンイチたち。
その後も、薬草等の有用植物の採取、キング・フロックを数頭仕留め引き上げ野営にする
……
「ふぅ~~~~ぃ~~。見渡す限りの湿原というのもなかなかに乙なものじゃのぉ。青い月明かりに浮かぶ湖面、こりゃ絶景じゃなぁ~~」
樽の縁に腕を広げ、眼前に広がる風景を愉しむカンイチ。
「ええ。カンイチさん、あの、たくさん飛んでるのってホタル虫でしょうか……幻想的ですねぇ。ふぅ~~」
草の間を薄緑色の光を明滅させながら飛び回る光点。その小さい虫とは思えないほどの光を発し、水面と空に対になる光の絵を描く。幼虫もいるのか、水中にも光の点が多数。星の光も合わさって湿原を幻想的なものに変える。
『うんむ! これはやめられんな! ふむぅぅ~~。こうゆっくりと景色とやらを楽しむこともお爺についてきて知ったことよ。うむうむ……』
「そりゃ良かったの。フジよ。これぞ心の余裕というのかのぉ。はふぅ~~」
『うむ。イザークよ、ちと温くなったな。追い焚きしてくれ』
「了解です! てか、カンイチさん、こんなところで風呂なんて金銭的余裕もないと無理ですって」
お察しの通り。野営地に並ぶ樽が三つ。
「なぁ、父ちゃん、カンイチさんて貴族の出か? 毎日風呂にはいってるが……。イザークも? しかも、風呂の魔道具まで」
「それこそ今に始まったことじゃない。イザークの風呂好きもカンイチのせいだ。フジ様もな。風呂の魔道具もアール様のお手製だ」
「そうだよね。【フィヤマ】の町じゃちょっと有名だったもの。ギルドの宿舎の中庭で風呂って」
と、ミスリール
「かもなぁ。井戸の水汲みも大騒ぎだったからな。くっくっく」
「ふぅ~~ん。確かに気持ちがいいけどな。オレも使わせてもらおうかな?」
「いいんじゃない。風呂好きが増えれば師匠も喜ぶんじゃない? てか、師匠が摘んでいた”除虫菊”? 燻したおかげ? 蚊いないね」
「そうだな。よく物を知ってるからな、カンイチは。さて、我らは先に寝るとするか。明日も早かろう」
……
……




