なんかごめん。ウチの親父が (亀襲来)
……
キングフロックの狩猟後、話に出た『ヌマザメ』の顔を見ようと思案するガハルト
いつもの事だと、協力するカンイチ。その表情は諦めではなく、ガハルト同様にワクワクしている。
沼のほとりに皮が剥いたキングフロックがくるようにロープの長さを調整し設置する。一応、ロープの端は杭に結ぶが、湿地の軟弱地盤故、強度は皆無だ。
「では早速やってみようかの。ミスリール、準備は?」
「おう! 師匠、任せて!」
大型のアーバレストが鎮座しているガタスキーにはミスリールが乗り込み、カンイチに手を振る。そのアーバレストには太く大きな、ロープの付いた銛が装填されている。
「うむ。重ねて言っとくがの、沼の中はご法度じゃぞ。ガハルトよ」
と、隣に控えるガハルトに釘を刺す
「お、おう! わかっているわ! しつこいぞ! カンイチ!」
「……ガハルトさんにもロープ、結んでおいたほうが良かったでしょうか。くふふふ」
「くっくっく。そうじゃな、イザーク君」
「おい……イザーク」
こちらも皮を剥いた兎を沼につける。”ちゃぽ、ちゃぽ”と揺すられる度に兎の滴る血が沼の水に溶けていく。
「さてさて。サメ、来るかどうかはわからんぞ? 他のが来るやも知らんし」
「おう! 楽しみだな!」
「てか、わざわざ呼びます? 普通?」
と、イザーク
「なんかごめん。ウチの親父が」
「いえいえ。お気になさらずに? 毎度のことですから」
と、隠すこともなく暴露するイザーク。じろりとガハルトに睨まれるも、もう慣れっこだ
「だよなぁ~~」
目を凝らし、暫く待っていると、
「お! 師匠! 右前方からなにか来るぞ!」
「おん?」
前方から水草をかき分けながら三角形の背びれが二つ、ぐんぐん近づいてくる。
「お? きたの」
「おお! あれかぁ!」
ガハルトの歓声が上がる!
近づいてきた三角形のヒレ、
”ざばり!”
まっすぐ突進し、陸に乗り上げ、腹をこすりながら正確に餌のキングフロッグに食いつくサメ。その大きさ鼻先から尻尾まで2mくらいか。首を振り、肉を食いちぎる
「わわ! す、すごい! こ、これって魚ぁ?」
「オレも初めて見るかも! すげぇ!」
と、イザーク、サディカが歓声を上げる
”がふがふがふ……”
と、キングフロッグに食らいつき貪り食うヌマサメ。
パンパンな足が食いちぎられ、内臓が引き出される
「こりゃ、人も食うわな」
サディカの言葉にうんうん頷くイザーク
「ですね……。カンイチさん、これってサメです?」
「うむ。サメじゃ。姿はそっくりじゃな。ほれ、獰猛じゃろう」
「足を滑らせて沼に落ちたらイチコロですね」
「ああ、イザーク。何人も喰われてるよ。ま、危険な魔物はいくらでもいるがなぁ。キングフロックだって」
「そうですよねぇ。カエルだって囲まれたら捌くの大変ですものね」
「じゃな、わしも初めて蛙の奴に出遭ったときは追いかけ回されたもんじゃ。どれ」
カンイチが右手をあげると、それを合図に
”どしゅ!”
ミスリールが引き金を絞ると同時に銛が飛翔しヌマサメを貫く。
その銛から伸びるロープの尻を掴むのはガハルト。ぐいと引く。
「お! うぉ! けっこう暴れるな!」
ぐい、ぐいとロープを手繰るガハルト
”ばしゅ!”
二の矢が放たれ、もう一頭のヌマサメを貫く。
ジタバタ暴れるヌマサメに続けて三の矢が放たれ頭部を撃ち抜く。
ゆらり、水面に横たわるヌマサメ
「ガハルトさん、そいつのトドメ刺す?」
”ぎぃ” アーバレストをガハルトと格闘中のヌマサメに向ける
「いや! ミスリール、もう少し力比べを楽しむとしよう!」
「しょうがないのぉ。イザーク君、サディカさんや、もう一匹の方揚げちまおうかの」
「これ、食えるのかな?」
「さての。わしが知ってるサメは食えたがの。レストランに持ち込んでみるかの」
「ですね。肉以外にも素材あるといいですねぇ~~」
と、サメを観察していると、
”ぅおおん!” ”ぅわん!” ”ぅをん!”
クマたちが警戒の声を上げる。すぐさま、
「あ! 別のが来た! 水面に影!」
「なに!?」
ミスリールの警告に”収納”から散弾銃を引っ張り出す
「ぬぅ!」
ガハルトが引いていたロープが一瞬緊張し、ずしりと重くなりその緊張が一息に開放される。と、同時に半分に食いちぎられたサメの残骸が勢いよく沼から飛び出て中を舞う
「カンイチさん! デカい! 亀っぽい!」
「ぬ!」
濁った水が持ち上がり、ぬぅと伸びる長い首と大きなヘビのような頭。体色は沼の色と同じ暗緑色に所々に黄色い斑点がある。
その持ち上げた首、3mの高さからカンイチたちを見下ろす
”どぉん!”
その顔に向け散弾を放つ
「む!」
皮膚が固いのか、逆に滑らかで柔らかいのか、はたまた表面の粘膜の粘膜のヌメリか。9粒の散弾は亀の表皮を滑り後方に。
続けざまに1粒のスラッグ弾を装填。
”どっしゅ!”
その間にミスリールの放った銛が亀のアゴ下に命中。も、散弾の時と同様、ズルリと滑り後方に抜ける
”ごぉん!”
放たれたスラッグ弾、亀の頭部に当たるも、大きくブレさせただけで肉を飛ばすことはなかった。柔軟な長い首が衝撃を吸収してるのだろうか
「む?」
スラッグ弾を食らった大亀は頭を2、3回振り、”ざばり”沼の中へと帰っていった。ほんの数分のできごと




