面白かろう? (湿地に狩りに)
それから一週間。
”溢れ”たダンジョンからの生還。
それこそダンジョンから出てきたときは騒ぎになったが、それもすぐに収まる。
そもそもアールカエフが所属するチームだ。余計な噂を立てようものならどうなることか。『冒険者ギルド』に行く連中にもガハルトがいる手前、気軽に声がかけづらいようでそれ以上の情報がでることはなかった。ガハルトやイザークも自らは語ろうとはしなかった
ダンジョンから得た採取品の売却も順調で、宝石、鉱石関係は『鍛冶師ギルド』、その他の香草や生体素材については国際的な組織の『食通ギルド』を通して売却される。珍しい品もこのギルドのオークションで捌かれることになる。
この『食通ギルド』、元は多くあった『冒険者ギルド』の一つだった。今では”買取専門”の組織となっており、収益は買い取った品の販売益と運営するオークション、加盟している傘下の高級レストランの売上となっている。
『冒険者ギルド』との違いは身分証の発行はしていないこと。
よって、どんな相手でも持ち込まれれば身分の上下なしに買い取る。査定は厳しいが、買取価格も冒険者ギルドよりも高く、手数料も安い
次回、オークションの目玉、丸のままのアイアンゴーレム一体の出品が決定している
……
「そろそろ活動を再開しようか!」
「おん? 何を言っておるのじゃ? ガハルトよ。もう活動しとるじゃろうが。兎狩りもいくしの」
「はぁ?」
と、大きく息を吐き、どうにも納得のいっていないガハルト
「……それじゃぁ、何がしたいのじゃ? おヌシは」
「ふん! 知れたこと! 狩りだな! 湿地だな!」
「……ふぅ。まぁ、そろそろ言い出す頃合いじゃとおもってたがの。で、計画案はできてるのかの?」
「うむ! どうせ親方たちは行かぬだろう。飯の後、打ち合わせな!」
と、トントン拍子で決まった湿地への遠征
……
整備された道などはない。人の踏み固めた数筋の道があるだけだ。踏み固めたといっても所々、草や苔で見えないがぬかるみが口を開けている。中には底なしの落し穴のように深い場所ある
”ぶぴぴぃぃ……”
「う、わわわ……。やっぱ、慣れないわ……ぎぼちわるいぃぃ」
「大丈夫ですか? ミスリールさん」
「うへぇ、ドワーフは湿地に踏み入れちゃダメってつくづく実感したよぉ。”ぶびびぃぴぴぃ……” うええ……」
ぬかるみに足を取られながら湿地を進む。今回の遠征の参加者は、カンイチ、ガハルト、イザーク、サディカ、ミスリール。そして、フジ筆頭の従魔団だ。ダイインドゥ夫妻は不参加。アールカエフ? 彼女は自由だ。
「これでもここらは”固い”道ですよ。うん、ジカタビいいな」
と、ぬかるみにはまることなく軽快に歩くのはサディカ
『ぬ? ではミスリールよ。ダンジョンの時のように我が背に乗せてやろうか』
「い、いえ、フジ様、大丈夫ですよ。”ガタスキー”もありますから」
どうしても重いドワーフ族。それでもスタミナと脚力でぬかるみにハマりながらもずんずん歩いていく。
「キング・フロックのいる沼はもう少しだよ、ミスリールさん」
「お、おう!」
サディカに手を引いてもらい、ぬかるみから足を引っこ抜きながら力強く応える。ミスリール
「ミスリールさんてそんなに重いんですかねぇ?」
よくぬかるみにハマるミスリールを見てカンイチにこそこそ小声でささやくイザーク
「しっ――! ……聞こえるぞ。イザーク君。女性の……体重はの……」
「なにか言ったかい? イザーク坊っちゃん?」
と、ミスリールの低い声が。ドワーフ族も耳が大変に良い種族だ。特に体重云々の話は種族の壁を超え、女性はささやき程度でも聞き逃さない
「い、いえ、ごめんなさい!」
「ほれ……」
……
「ほっ! とっ! とぉ!」
と、キング・フロッグの間を縫うように駆け抜けるカンイチ。カエルの頭に”収納”からだした鶴嘴を落とし、地面に縫い付けていく
”ブッス!” ”ブッシュ!” ”ドッシュ!”
”ゲコッコ!” ”ゲッコ!” ”ゲコォ!”
「……い、一撃? あ、あれって? な、なぁ! イザーク?」
戦闘中にもかかわらず、手を止め、カンイチの動きを目で追うサディカ、そして、隣りにいたイザークに服をグイグイ引っ張る。
「あれ? サディカさん、初めてでしたっけ?」
「だ、だって、あれって鶴嘴だぞ? 鶴嘴ぃ!?」
頭部を鶴嘴で貫かれたキングフロッグは手足をジタバタさせ、最後はその自慢の長い脚を痙攣させながら伸ばし絶命する。
「まぁ、でたらめといったらそうですけど」
「なんで冷静なんだ? イザーク!」
「もう慣れてますし? ここだけの話ですよ。カンイチさんのスキル、上位の『農具扱い』で、普通の武器よりも”農具”のほうが凄いんですよ」
「はぁ? ……農具扱い……て? じゃぁ、農民って強いの???」
「混乱するのもわかりますけどぉ。上位ということ? まぁ、カンイチさんて素でも強いから?」
「そ、そうだけど……」
「じゃ、俺も行きますね。クマ! 行こう!」
”ぅおおん!”
と、クマだけ連れて沼のほとりに。クマが牽制、あしをに噛みつき動きを制し、イザークが十手で頭部を殴りつけ仕留めていく。絵に描いたような”狼使い”の基本戦法だ。
ぽかんとその様子を眺めるサディカ
「うん? どうしたサディカ。お前は行かないのか?」
クルクルとトンファーを回しながらガハルトがやってきた
「父ちゃん?」
「くっくっく。どうだ。面白かろう?」
「イザークだって……。あれで”鉄”か?」
「だから面白かろうが! はっはっはっはっは!」
「オ、オレも行く!」
「ああ、そうするがいい」
ポーチから愛用の剣を引き抜き駆けていくサディカ。その後姿を好ましく見送るガハルト
「うん? ガハルト、ヌシはもう良いのかの?」
と、鶴橋を担いでカンイチが戻ってきた。
「ああ、移動してからな。それにしても、クマの応援ありきでもずいぶんと腕が上がったな、イザークのやつ」
「うんむ。毎日、熱心に鍛錬してるもの。ええ筋肉もついてきたで。あのカエルを殴って仕留めるとはなかなかのもんじゃ」
「ああ、カエルのやつも打たれ強いからな。イザークも器用で根は真面目だからな」
「うむ」
と、若者の背を好ましく見守るカンイチたちだった。
……




