『大褌洗い祭』って (帰ってきた日常)
「ふぅ……。朝一の褌洗いは気持ちがええのぉ! のぉ! イザーク君」
”ゴシゴシゴシ……” ”ゴシゴシゴシ……”
「はい! カンイチさん! 青空の下で洗うのは格別ですよね!」
”ゴシゴシゴシ……” ”ゴシゴシゴシ……”
”ゴシゴシゴシ……” ”ゴシゴシゴシ……”
「じゃろう! 気持ちがええじゃろう!」
「ええ! ダンジョンに閉じ込められていたから、なおのこと、感じますね!」
”ゴシゴシゴシ……” ”ゴシゴシゴシ……”
”ゴシゴシゴシ……” ”ゴシゴシゴシ……”
井戸端に並び、洗濯板で褌を擦るカンイチとイザーク
……
「うんむ! そよぐ風、そして蒼天にたなびく純白の褌! ……ふん! 軟派者めが!」
イザークの水玉模様の褌に一瞥をくれるカンイチ
「べ、別にいいじゃないですかぁ! どんな褌でも!」
「ふん! まぁええ。今日は『大褌洗い祭』じゃな! イザーク君!」
「なんですか、それ……『大褌洗い祭』って……」
と、不思議そうにカンイチを見るイザーク、そこに、
「おう! 朝っぱらから、ずいぶんと盛り上がってるな! カンイチ、イザーク」
「イザーク兄ちゃん! おはよ!」
トンファーをクルクル回しながらガハルトとリンドウ登場
「うんむ、今日は褌洗い祭でな! ダンジョンで洗っていたとはいえ溜まったじゃろう」
ぱんぱん! と褌のシワを伸ばすカンイチ
「なんだそれ、カンイチ。洗い物ならまとめて洗濯屋にだせばよかろうが」
「ふふん! 褌は己で洗うものじゃろが!」
「はいはい。で、今日は何すんだ? カンイチよ」
「うん? イザーク君とサディカさんは朝飯を食ったら軍に出頭じゃろう」
「出頭……って、俺、何も悪いことしてないですよ。カンイチさん……」
「ほれ、例の件(溢れ)の事情聴取じゃろ。親方たちは当分は酒宴じゃろうよ。『鍛冶師ギルド』のほうも、”溢れ”でずいぶんと忙しかったようでの。ちょうど良かろう。チームの持ち分から見舞いで(酒)樽だしとくでな」
「おうよ! ふぅむ。手が空いてるのはカンイチだけか……。”溢れ”のバタバタで(冒険者)ギルドも動いていないだろうなぁ」
「……なにも、こんなときじゃ。ゆっくり休めばよかろうよ、ガハルトよ」
「うん? 昼過ぎから兎狩り行くのだろう? どれ、朝飯前の鍛錬でもするか。イザークはどうすんだ」
「今日、俺はこのまま褌洗いしますよ。カンイチさんじゃないけれど、俺も褌は自分で洗おうかと」
「そうか? じゃ、いくか、リンドウ!」
「おう! トンファー見てくれな! ガハルト小父さん」
と、トンファーを回しながら軍の鍛錬場の方へと行ってしまった。
「しょうがない連中じゃのぉ」
「まぁ、誰にも迷惑かけてはいませんし?」
その後ろ姿をやれやれと呆れ顔で見送るカンイチたちだった
……
……
「久しぶりの野兎狩りも気持ちがいいのぉ」
「ええ、アール様じゃないけど風、気持ちがいいですねぇ」
広々とした菜っ葉畑。青々と茂る菜っ葉。燦々と降り注ぐ陽光、波が押し寄せるように吹き抜ける風。
その風が菜っ葉の瑞々しい香りを運ぶ。青臭いような、甘いような
敷物を敷いて晴れた空を見上げるイザーク。
カンイチは収穫を終えた畑を駆け回るキキョウそしてクマたちに視線を向ける。
とぼとぼと帰ってくるアールカエフをその視線に収める
「はふぅぅ~~ん。疲れた! 疲れた! 茶! 茶! お茶ちょうだい!」
「おう! ご苦労じゃなぁ、アールよ」
と、アールカエフにタオルを手渡すカンイチ
「本当に! クマたちはわかるけどぉ、キキョウも凄いスタミナだよ! ちょろちょろして全然捕まらんし! はぁ、疲れたぁ~~」
「ほんに、まだ小さいのにの。ほれ、青菜の漬物じゃ。茶請けによかろうよさ」
「ありがと! ここの菜っ葉も筋っぽいけど、美味しいよねぇ。うんうん。ちょうどいい塩味だ。さすが、カンイチ~~!」
しゃくしゃくと漬物をつまむ。
「うむ。ヘラ菜(青梗菜っぽいの)のようで甘みもあり実に美味い」
「うんうん。お茶が進むね! ”しゃこしゃく” おっと、水飲まさないとね。お~~い! キキョウぅ~~お茶だよぉ~~。戻っておいでぇ~~」
「お茶~~!」
と、駆け戻るキキョウと犬たち。
――息子。――孫、ひ孫、やしゃ孫たちを思い出すのぉ。皆、元気にしてるかの。ほっほっほ
今はもう会えないが、心がほっこりとするカンイチだった
「どれ、クマたちの水の準備もせようかの」
「ええ、クマ!」
『うん? ブラッシングであれば我を先にやってもらおうか!』
「おぅん? 了解じゃ。フジよ。こっちさ来い」
……




