生き残ったんだよ (地面を踏みしめて)
地上への生還を果たしたカンイチ一行。
門を守っていた帝国軍の兵士に責任者である、アカジン将軍の到着まで時間をくれと請われる。
その要求を受け入れる。
「やはり、すんなりと出られんようじゃなぁ」
と、交渉から戻ってきたガハルトに呟くカンイチ
「そりゃ、カンイチ、話の一つ二つは聞かれるだろうよ。なにせ、俺たちは”溢れ”をダンジョンの中で乗り切ったのだからな!」
当たり前だろうが、と、ガハルト
「そうそう! 生き残ったんだよ。オレたち。それにダンジョンから出てきた手続きもあるしね」
と、サディカ
「そんなのあるのか? サディカさんや」
「え? カンイチさん、入るとき届け出したでしょう? 無事に帰ってきたか照合するんですよ。半年? 一年? その冒険者の実力? まぁ、その辺りの基準はオレにはわからないけど、それで帰ってこなければ”死亡”扱い。この町が地元なら親族。他所者なら『冒険者ギルド』。大きなチームは『商人ギルド』にも通達が行くんですよ。ほら、スポンサーとかあるんで」
「ほ~~ん。はて? 前に潜ったとき、わしら、そんな手続きあったかの? ガハルト?」
「うん? ああ、前はオーサガ王太子の件があったからな、こっそりだしてもらっただろうが。アカジン殿がいたから良かろうよ」
「でも、そんなにかからないと思うよ、カンイチさん。ダリオン様やティーター様が迎えに来たらすんなり通れると思うし」
「まぁ、決まりなら従うで。リンドウたちも無事と聞いてるでな。慌てることもあるまいさ」
「いや! カンイチ! 慌てるべきだろう! 僕、お腹、減り減りだぞ? リンドウたちつれて速攻、『リンギーネ』に行かねば! そうだろう?」
「いや、わしはそんなに減っておらんぞ。うん? さっき、フジたちと燻製食ってただろうに?」
「そうだっけ?」
と、首を傾げるアールカエフ。おやつにもカウントされていないようだ。
「いや、アール殿の言う通り! ここは急がないとな! ねぇ、アンタ!」
と、ディアン
「まぁ、気持ちはわからんでもないがな。酒は逃げんで……ディアンよ」
「……しょうがない母ちゃんだな。明日から土産話を肴に毎日宴会が待ってるだろうに?」
と、少々、呆れた様子の父、娘
……
詰め所の一室を借り、お茶で一服。その間に『迷宮ギルド』の職員がやってきて、ダンジョンから生還した手続きが行われる。
カンイチたちを信じられないといった目で見る職員たち。色々と聞きたいこともあるだろうが、相手はアールカエフ。そして周りには帝国軍。手続き終了とともに、すごすごと部屋を出ていった。
お茶、軍の用意してくれた焼き菓子を手にくつろいでいると、
「ご無事のようで何よりでございます。アールカエフ様」
と、軍の統括、アカジン将軍が部下を率いてやって来た。
「ただいま! アカジン君! リンドウたち、ありがとうね!」
「いえ。それで少々、話を伺っても?」
「少々なら? 僕、お腹へってるし? ここでたら、チームのご苦労さん会だし? そうねぇ、ダンジョンの話だったら明日にでもイザーク君とサディカ君に聞きたまい。僕たちに聞くよりも、う~~んと、わかりやすいよ?」
「ああ、そのほうが何倍もいい。イザークはウチの広報だしな。貴殿の時間も短縮できるしな。はっはっは」
と、ガハルト。イザークとサディカがペコリと頭を下げる
「……うむ。で、ウチのアカマチらは? ……一緒ではないのか?」
「連中と会ったのは24階。軍の連中だけじゃなかったからな。俺たちには見せたくないものも多くある」
と、ガハルトが答える
「……そうだな」
「書面にあったろう? 安全確認事態は終わったと。協力してる冒険者たちの小遣い稼いだら戻ってくるだろう」
「……うむ。明日から門を開けようと思う。……それでだ。書面にあった”茶””赤”色の個体についてだが……」
「ん? その辺りも明日でいいかい? 僕たちは”報奨”とか”名誉”なんてものも要らないし? 今日のところはさっさと通してほしいのだけれども? お腹へったし? うん? ダリオン君たちが来たみたいだよ?」
と、詰所の部屋からは見えない、大扉の方に目を向けるアールカエフ
「ずいぶんと早いの」
「そりゃぁ、僕の友の精霊さんが動いたんだ。精霊使いなら感じるだろうさ。話の続きは明日ね! よぉぉし! お疲れさん会だ! 久しぶりのご馳走さ! うん? アカジン君も招待するよ? 君もここの処ところ忙しかっただろう? 栄養付けなくっちゃ!」
「……い、いえ。……私にはまだ職務があります故」
「うん? そう? じゃぁ、アカマチ君たちが上がってきたら、皆で宴会しようよ! ご馳走しちゃうよ! カンイチが?」
「おい……」
と、そこに、
「将軍! ダリオン様、ティーター様がおみえに!」
慌てて入ってきた兵士
「……むぅ」
一瞬だが顔をしかめるアカジン。まだ、挨拶程度しかしていないのにと。
……




