短編 リンドウ編 貴族子女
翌日……
午前の授業の一コマを終え、二コマ目の授業までの休憩時間。
生徒たちは、お茶を飲み、学友たちと雑談で盛り上がる。
が、リンドウだけは机に突っ伏したままだ。
「リンドウ君。茶でもどう?」
受け皿に乗せたティーカップを両手に持ってリンドウのところにきたのはリンネ。
さすが貴族や商人の子息が通う学校だ。蛇口に口を付けてがふがふ水を飲む子はいない。もっとも水道の蛇口はないが
休憩時間も長く、ゆっくりと茶と談笑が楽しめる
片方のカップをリンドウに差し出す
「……なんだ。またお前か……。何しに来た」
「お前じゃない。僕はリ・ン・ネ。何しにって君と一緒に茶を飲もうと思ってさ」
「……ほんと、変わってるな。お前」
「そう? ……だから、リンネだって」
カップを受け取り一息に嚥下するリンドウ
「ごちそうさま。茶、ありがとうな。じゃ!」
と、再び机に突っ伏す。
「ねぇ、リンドウ君は友人、そう、群れは作らないのかい?」
その背に語りかけるリンネ
「しつこいぞ。それに俺の群れはすでにある。ここのガキどもには用はない」
「ねぇ、リンドウ君って狼人?」
「……文句あるか」
「いや、ないし? 父上に聞いたよ。高い戦闘力を持った”孤高の狩人”って」
「俺、狩人じゃねぇし。冒険者だ」
「細かいなぁ~~リンドウ君は」
「お前が言ったんだろう……お前、面倒くさいな。うん?」
リンドウとリンネが楽しそうに――かは知らないが――会話をしていると、
リンドウの耳がピクピクと小刻みに動き、頭の角度を変える。その視線の先、
体をゆすりながらぽっちゃりが教室に入ってきた。
そして、リンドウの机に来れば、
「おい! 獣人!」
「臭いんだよ!」
「ひょろリンネ!」
と、取り巻きの貴族子女たちが絡んできた。
「……またか」
「はぁ……本当に品がないね。君たち」
溜息をつくリンネ
「おい。どけ!」
と、”ボス”格のぽっちゃり伯爵家三男坊が仲間を押しのけティーカップを両手に持って前にでる
「昨日はすまなかったな。仲直りの印しるしに俺がわざわざ茶を持ってきた。飲め!」
ニヤリといやらしく笑い、机の上の空いたスペースにカップを置く。今尚、リンドウは突っ伏したままだ
「「……」」
”くすくすくす”
と、忍び笑いの取り巻きの子息たち
「どうした? 飲めよ」
と、ぽっちゃり三男坊
「はぁ。こんなに怪しい茶を飲むわけないだろうに? 貴族家に生まれたるもの、毒の類は特に警戒するんだよ。父上に教えてもらえなかったのかい? まぁ、三男だしね」
と、嫌味を乗せてリンネが応える
「な、何ぃ!」
「……ふん。お前らガキと仲直り? お前らなんかと群れる気はない。それに、獣人舐め過ぎだ。なにか入れたのは臭いですぐにバレてるぞ。自分で飲んでみろ。アホガキ」
とは、リンドウ
「く、くそぉ! 馬鹿にしやがって!」
「だって、馬鹿だろう? 君?」
ギロリ、馬鹿にしたリンネではなく突っ伏したままのリンドウを睨みつけるぽっちゃり三男坊。自分に向き合い、構えているリンネよりも楽とおもったか。
握りこぶしを作り、リンドウの後頭部目掛け振り下ろす。
「おい!」
リンネが動くよりも先にこぶしは落ち、
”どん!”
と、盛大に机を叩く。
「い、痛ぁ! いたぁい! いたぁい!」
机を叩いた手が余程痛いのかぽっちゃり子息は大騒ぎ
「ふん。ガキ」
”ごん!”
起き上がったリンドウ。そのまま三男坊の顔面に頭突きを食らわす。
「ぶひぃ!」
鼻血を吹き出しながら仰向けに倒れるぽっちゃり三男坊。
倒れたときにしたたかに後頭部を打ち付けたか、わんわんと大泣きだ
床の上でジタバタと泣きわめく三男坊を見て取り巻きたちも動きを止める。中にはガクガクと恐怖で膝が笑ってる子も。
「本当にガキだな。頭突き一発で終わりかよ。はぁ……どこが偉いんだ? 貴族ってのは?」
と、しゃがみ込み、ぽっちゃり三男坊の顔を覗き込むリンドウ
「え~~ん! ち、父上に言いつけてやるぅ! 父上ぇ~~! 父上ぇ~~! ぅええ~~ん!」
「ふん。好きにしろ、ガキ」
もう関心ないと机に戻るリンドウ。そしてだらりと突っ伏す
「父上に告げ口? 本気かい? 情けなくて勘当されちゃうぞ? それに、リンドウ君の親はあのアールカエフ様だ。家ごと消えちゃうよ? いいのかい?」
「……」
{……}
「まぁ、これに懲りたら、余計なちょっかいは終いにするのだね」
リンネの言葉でこの件も集結と思ったら、
「何事です! ! ああぁ! 坊っちゃん!」
と、ヒステリックに叫ぶ女教師が現れた
この学校の副学長だ。ぽっちゃりの取り巻きの一人が連れてきたようだ
すぐさま三男坊に駆け寄り介抱を始める
すると一斉に取り巻きたちがあること無いこと副学長に訴える




