ダンジョンの攻防 (地上)
その時の地上
「緊急事態だぁ! ”溢れ”たぞーーーー!」
「ダンジョンが”溢れ”たぞーーーー!」
この町に拠点を置く冒険者の中でも足の速さは1,2といわれる男が、地上にあるダンジョンの入口から転がりでてきた。
入口を守る衛士、大門を守る軍人たちの時が止まる。
「あ、あふれた?」
「それは本当か!」
衛士、軍人のみならず、冒険者や、辺りで商売をしていた商人が男に詰め寄る
「はぁ、ふぅ……。み、水をくれぇ! ああ! ”溢れ”た! 中に入っていたやつが今から出てくる!」
その言葉で我に返った兵たちの時間が動き出す。
「伝令! アカジン将軍にすぐにお知らせしろぉ!」
「大弓の準備! 大弓隊! 弓隊! 準備!」
「大扉、アンカー解除! 何時でも閉められるようにせよ!」
一気に慌ただしくなる現場。兵たちは動き、商人やダンジョンに潜る準備をしていたポーターらはすぐにも大扉の外へと避難していく。
腕自慢の冒険者、その多くは地元の連中だが、あるもの剣を抜き、槍を構え、またある者は入口に盾を構える。
備蓄庫からも槍、盾などの装備品が開放される
ぞろぞろと出てくる冒険者たち。軽症のものには肩を貸し、怪我の大きいものは数人に担ぎ上げられ運ばれる。大扉の外、街の大通りは封鎖され、布地の大きなテントが張られる。仮の病院だ。駐留していた治療師や、近くに医院を構える治療師、回復系の魔法の使える術者が招集され治療にあたる
「おい! さっさと大扉、閉めろぉ!」
叫ぶ一人の冒険者
「はぁ? まだ多くの仲間がダンジョンの中に取り残されているんだぞ! てめぇ!」
「『グリシン・ペラトーサ』のメンバーと手練れの連中が殿で踏ん張ってるんだろうが!」
「オメェ! とっとと逃げてきたくせに大口たたくな!」
「ひ、ひぃ!」
他の冒険者たちに詰め寄られる男
「ふん! 腰抜けが! お前はとっとと町を出ればいいさ! 殿の連中にも飯やら水、武器だって痛むだろう。休憩の交代要員だって要る! 俺は行く! 有志を募りたい!」
と、Aランクの冒険者、タバシナが声を上げる
「そ、そんなの軍に任せておけばいいだろう!」
「うるせぇ! お前は出ていけ! 邪魔だ! 俺も行くぞ!」
「俺も!」
「ポーターにも手伝ってもらわんとな。こういうときこそ『迷宮ギルド』の出番なのだが……」
「はん! クソの役にも立たねぇな! もう逃げちまったか?」
そこに門を守る門衛の隊長、
「皆、落ち着け! アカジン将軍にも伝令をだしている! 案内役――非戦闘職はアレだが、募りたい」
「は!? ダンジョン内のことは軍よか俺らのほうが詳しく慣れてる。ここは任せてもらおうか!」
「おう! そうだ! そうだ!」
「地図だって頭に入ってら!」
「はぁ? お前の頭でか?」
「うるせぇ! 茶化すな! 最短距離なら問題ねぇ!」
「殿がどこまできてるかわかれねぇが、すぐに一隊は出したい。皆、力を貸してくれ!」
{おう!}
”溢れ”たダンジョンを前に怯む様子を見せない冒険者たち。覚悟を決めた漢たち故か
「但し! 幼い子がいるやつは外れてくれ! 軍人さんよぉ! 確か殿は『グリシン・ペラトーサ』の連中か。盾と槍、弓も出してくれ! ありったけなぁ!」
「わ、わかった、タバシナ殿。倉庫から運び出せ!」
「はっ――!」
冒険者の団結力に軍もタジタジだ
「おい、タバシナ、俺たちは武に自信がねぇ。足手まといだろう。町外の護衛に回るわ」
「おう! レモタ! そっちは頼む! あと、街中で遊んでる連中にも声かけてくれぇ! ”溢れ”たってなぁ!」
「おうさ! 酒場で飲んだくれてる奴らは使えんなぁ、はっはっは」
「ああ! 乗り切ったら皆で宴会だ! 店に予約しておけよぉ!」
「おうよぉ! 衛士さんは金貨、頼むぞ!」
「ああ、山盛りでな!」
「は、はいぃ?」
”はっはっはっはっは!”
……
「よぉし! 行くか!」
「おう!」
タバシナ以下、武器の扱いに秀でる冒険者15名、予備の装備、霊薬などを運搬するポーターが2名。これが冒険者たちの一次応援部隊――情報も噂程度、そんなダンジョンへ入っていくのだ。決死隊といってもいい
「お、おぅ!」
「なんだ、震えてるのか? くっくっく」
「うるせぇ!」
「ま、死んじまったら”英雄”申請しておいてやっから!」
「いらねぇよ!」
「おう! 誰でもいいからちゃんと申請して祀ってくれよぉ! はっはっは!」
「タバシナさん、シャレになりませんて!」
「町が飲まれてなくなっちまったらそれどころじゃねぇし?」
「おう! そのために行くんだ! 守るぞ! 気合い入れろ!」
{おぅ!}
部隊がダンジョンに向かうと
「あらぁ! さすが、Aのタバシナちゃんねぇ!」
と、一隊を率いた軍。隊長は綺麗に手入れをされた顎髭を撫でながら
「ぅお? 早いなアカマチの旦那!」
「そりゃぁ、アタシの仕事だしぃ? 飲み屋でアンタたちの喧嘩の仲裁ばかりじゃないのよぉ」
「そりゃそうだ!」
「で、……いくの?」
「おう! 俺らの誇りもあるしな!」
「ああ! 第一陣は譲れんわ! 中には俺らの”仲間”が待っているからな!」
「そう……気をつけていっておいで。すぐに重装の隊と物資を送るわ」
「おうよ!」
手を振りながらぞろぞろとダンジョンに入っていく決死隊
「い、いいのですか! アカマチ隊長」
と、門衛隊長
「いいでしょう。彼らの”誇り”よ」
「誇りですか……」
……
「……そうか。住人の(町の外への)避難、護衛の配置も順調だ。……食料と交代要員だな手配しよう。カラマチは大弓の指揮に」
「はぁ~~い。で、エマちゃん、”溢れ”の資料は?」
「アカマチ隊長、一応の資料はありますが……」
エマと呼ばれた女性文官から資料を受け取り、ペラペラめくるアカマチ
「……毎回、魔物は変わるのねぇ。ふ~~ん。”溢れ”る期間もまちまち、参考にならないわねぇ……。ゴブリンくらいの魔物だったらいいけどぉ」
「そうですね。オオネズミとか?」
「ええぇ!? エマちゃん! オオネズミが川みたいにダンジョンから”溢れ”てきたらどうすんのよぉ!」
「い、いやですね……それ」
「でしょう! よぉし! 私たちも準備を進めるわよぉーー! 魔物一匹、オオネズミ一匹、大扉からださないわよぉ!」
{おう!}
……




