オレ、死んじゃってるんだぁ (情報交換)
……
24階まで戻ってきたカンイチ一行。そこでダンジョンの様子を見に来た、アカマチ率いる帝国軍に出会う。彼らは”溢れ”た後の安全確認のために降りてきたという。
そして互いの情報交換の場が持たれる。
……
「……そっちはまだはっきりしないわぁ。ギルドで調べているところ。心配でしょうけどぉ、サディカちゃん。行方不明が50弱ってところかしら。調べたら酒場にいたって連中もいたしぃ。まぁ、『グリシン・ペラトーサ』が出た後、閉鎖時にダンジョンにいたのはほぼ絶望でしょうけど……ね」
アカマチの口から、冒険者にそれなりの死者が出るだろうと聞かされ、顔をしかめるサディカ。この戸で活動してきた彼女だ。顔見知りや知り合いも多い。その美貌も悲痛に歪む
「……それにぃ、上じゃぁサディカちゃんも死んじゃったことになってるしぃ? ほら、アールカエフ様のチームに入ってること知らないの多いから」
「は、ははは。そうですか。オレ、死んじゃってるんだぁ」
「ふふふ。でもぉ、今回の”溢れ”、数が少なくて助かったわぁ。それに指導種の姿も見えなかったしねぇ。……。……で、カンイチちゃん。なんかした?」
と、何かに思い当たっただろうアカマチ。じっとカンイチの目を見る。
「ぉうん? 指導種? ふむ。茶色のやら赤いのは上で出なかったんじゃな。そりゃ、よかったの」
と、人ごとのように語るカンイチ。よかった、よかったと。
「……やっぱしぃ。カンイチちゃんたちがダンジョンでやっつけてくれていたのね。で、どこにいたのよ?」
「わしらか? 確か、41階かの? 行き止まりに陣を敷いての」
「……よ、41……階? まじ?」
と、目を丸くし驚くアカマチ。昨今そこまで降りていくものも少ない。しかも、”溢れ”を乗り切るなど
「うむ。そろそろ地上に帰ろうかと思っていたところで件のコウモリ男と遭ってのぉ。ひっきりなしに押し寄せてくるで、身動きがまったくとれなんだ。閉じ込められたといってもええ」
「な、なるほどねぇ。それでよく生きてたわね……」
「フジ殿もクマたちと張り切って狩りに行っていたからねぇ。僕らよりも狩ったんじゃない? あ、ちなみに僕は0(ゼロ)よ?」
と、アールカエフ
「な、なるほどねぇ……。いわれてみれば、クマちゃんたちも一回り大きくなったかしらぁ。毛もモフモフで艶もいいしぃ」
チラと、敷物の上でくつろいでいるフジ率いる従魔隊をみて納得のカラマチ
「ん? アールカエフ様が0(ゼロ)ぉ?」
「うんむ! 役立たず残念美少女エルフだからね、僕は! ほら、こんな立派な脳筋軍団がいるし? 僕の出る幕はないのよ?」
「の、脳筋て……まぁ、そうかしら?」
「そ、そこは納得しないでいただこう! アカマチ殿! オレは脳筋じゃないし!」
「だってぇ、サディカちゃん……。ねぇ~~」
なんともすまなそうにサディカに視線を向けるアカマチ
「で、カンイチちゃん。茶色や赤のって?」
「ふっふっふ! 情報は高いぞぉ! アカマチ君!」
「まぁ、いいじゃろ。アールよ。んむ! 出番じゃ! イザーク君!」
「はい? で、では、俺の方から説明しますね……」
このチームの広報ともいえるイザークから茶色個体、赤色の個体について語られる。大きさや強さについて。
証拠としてドロップ品のそれぞれの爪を示して。赤個体の落とした赤く巨大な爪をみて驚くアカマチ。副官も記録をとるのもわすれ唖然
「……この通路一杯……にねぇ」
「ま、わしらは助かったがの。大きすぎて動きは封じられていたでな」
と、当時を思い出すカンイチ。銃とミスリールの大弓で相手の爪の届く範囲外から仕留めた。
巨体過ぎてダンジョンの通路に詰まった状態を思い出す。あわせてアールカエフの便秘の話も。くすりと笑いが漏れる。なんとも間抜けな敵であったと
「ねぇ、それでサディカちゃん、その茶色の個体の戦闘力は?」
「イザークの言う通り。大きく、力も強い。この狭い限られた空間、援護もあったしなぁ。広い所、外で羽生えてた状態なら……。が! 一対一なら負けないがな!」
「統率種の茶色の個体、多くの黒い個体がまとまって出てきたらと想像したら……。そして、それだけ巨大なボス個体……」
と、アカマチと会談に参加していた軍の副官がぼそり
「ええ。そうねぇ……。カンイチちゃんたちがいた幸運、『グリシン・ペラトーサ』の連中がいた幸運、壁の改修が終わってすぐだった幸運、日中で早く気づけた幸運……。本当に運が良かったわねぇ。う~~ん、大弓の矢の備蓄もぜんぜん足りないわね。帰ったら早速申請しないと!」
「はっ――! すぐに申請します!」
と、敬礼する副官
「多くの幸運があったのも事実、そして貴殿らの練度もあろう。それは運ではなく必然、日頃の訓練の成果で街が守られたのじゃろう」
「ん~~もぉぉうぅ! 嬉しいこといってくれるわねぇ! カンイチちゃん!」
カンイチの賛辞に感極まり、抱きつこうとするアカマチの前に立ちふさがるはアールカエフ! 両手を広げ、アカマチを睨みつける。カンイチの守りも万全のようだ
「こら! アカマチ君! あんまりしつこいと魔物としてさっくり処理しちゃうゾ!」
「こらこら……」
「スキンシップ、お茶目なスキンシップよぉ~~。アールカエフ様ぁ」
……
「……そうそう、カンイチちゃん、街に届ければこの町を守った”英雄”……になれるけど? 『グリシン・ペラトーサ』の連中みたいに。どぅ?」
「え? カラマチさんだって国や軍に報告あげるでしょ?」
と、不思議そうに聞き返すイザーク。そうすれば、必然的に”英雄”に祭り上げられるのではないかと
「う~~ん。イザーク君。そりゃぁ、貴重な情報だもの。今聞いたこと、すべて報告するわよぉ。でもねぇ……」
と、言葉を濁すアカマチ
「ほらぁ、『グリシン・ペラトーサ』みたいに目立ってたらだけどぉ、いうなれば、イザーク君たちは影の功労者でしょう? 報奨とかケチりたいのよぉ」
「なんです。それ」
と、呆れるイザーク
「うんむ。申請なんぞは面倒くさいで、せん。別にわしは英雄なんぞに興味はないしのぉ」
と、カンイチ。
「うんうん。”英雄”なんて称号は自分を縛る鎖にしかならない。まぁ、僕はどうだってよかったけどぉ? 有象無象の期待と責任なんぞ腹の足しにもならないね!」
と、サヴァの英雄とされていたアールカエフ。経験者が語る
「ふふふ。さすが”英雄”アールカエフ様。そのお言葉、重いわねぇ~~」
「皮肉かい? アカマチ君!」
「いえいえ。まぁ、確かに役人たちがタカって証拠品を見せろやら、事情聴取に応じろやら。地図の提出やら。面倒くさいことこの上ないわ。それに私らは厳密には他所の国の軍人だしぃ? 帝国は帝国で何もしないと思うの。被害も少なく安く上がってラッキー程度でしょうねぇ」
「ええぇ?! そんなものですか?」
「そんなもんよ~~イザーク君。”偉い人”がいるところは特にねぇ。それにぃ、功績なんぞそっちのけ、褒章ケチるくせに、この『赤い大爪』みたいな珍しいものは ”接収!” ”献上!” って大騒ぎよぉ。ほんと、赤字だわ。ま、アールカエフ様がいらっしゃるから、さすがにないでしょうけどもぉ。陛下に献上でもする?」
「するわけなかろうよ。ディアンさんの細工した物を高価買取してくれるのなら売ってもええ」
「うん? 僕が買う? もらうよ?」
「こら」
「ふふふ。それじゃぁアールカエフ様、この後一緒に地上に帰ります?」
「うん? アカマチさん。調査はもうええのか」
「カンイチちゃん、アールカエフ様が上ってきたのだから下はもういいでしょ」
「ううん? 僕たちは”見られたくないもの”が沢山あるからね。お先に失礼するよ? 存分にダンジョンを堪能してくれたまい? アカマチ君!」
「そ、それもそうですねぇ。アールカエフ様。一応、お聞きしますが、物資の補充等は必要でしょうか?」
「そうね。『リンギーネ』の料理?」
「んもぅ! 干し肉と日持ちのする硬いパンしかありませんよぉぅ!」
……
……




